子供の受験、医学的見地から体とメンタルケアについて聞きました

「中学受験は人生で一度きり」――。心と体が揺らぐ思春期に、数年間勉強に励み挑む中学受験は、それを見守る親も子どもも共に大きな試練。残り少ない日々、運命の日を乗り切るための〝親の心得〟に迫ります。今回はブレインクリニック新宿院 舟木栄一院長に伺いました。

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医学的見地から、 体とメンタルケアについて聞きました!

体の発育と心の発育が マッチしない思春期受験は、 小さなサインを見逃さないで!

ブレインクリニック新宿院 舟木栄一院長:「受験外来」って――? 年々増加の一途をたどる”受験うつ”。近年では「受験外来」を設置する精神科も。ブレインクリニックはその先駆け的存在です。


中学受験は、思春期=子どものイライラ期と重なるため、親子共に負荷が大きいのは当然。小学校高学年になると性ホルモン濃度が急激に高まり、その変化が身体及び自律神経の働きに影響を与えます。体と心の発育が必ずしも一致していないので、そこにズレが生じてストレスを感じやすくなるのです。

また、男子と女子では、女子のほうが成長速度が速いため、ストレスの性質も変わってきます。中受に向かう12歳では、まだ未熟でそのイライラを上手く言語化できません。そのため、「お腹が痛い」といった症状も、何らかのサインだと思って十分なサポートを。長期化する際には、“受験うつ”の可能性も。家庭内だけで悩みすぎず、第三者に頼るつもりで「受験外来」に相談するのも1つの手段です。

<男の子の悩み>

Q.体が急成長した 息子が、受験前に急に暴力的に

ついこの間まで乙女っぽかった息子の体が急成長し、荒れて暴力をふるうように。手がつけられず、腫れ物に触れる気持ちで接して志望校まで変更しました。今もそれが収まりません。

A.

男子の思春期は、「自立心」が芽生え始めるのと同時に「まだサポートが欲しい」と不安も大きく膨らむ時期。落ち着いた時を見計らい、暴言や暴力に対してショックを伝え、冷静な注意を。それと同時に、「辛いことがあれば言ってね」と同調の言葉を掛けて安心感を与えるような環境作りをしてみましょう。また、志望校の変更がお子さん自身の決断なら、それを褒め、応援する姿勢が大切です。

Q.父親に急に反抗的になり、親子関係が険悪に

わからない問題があると怒り出し、教える父親に反抗して机を蹴り、ものに当たるように。父親も息子には厳しく、二人が揃う週末の我が家はいつも険悪な雰囲気に。私は入る隙がなく、どう対応すれば良いか困っています。

A.

同性である父親は、とかく感情的になりがちです。しかし、思春期の子に対し、一方的に叱ったり、態度を正させるなどは御法度。受験で結果を出すことにおいて、父の威厳など全く無関係なのです。また、自分の時代と比較する話をするのもNG。母親は息子と父親の通訳者になるよう心掛け、息子の共感者に。一方、父親は息抜きの遊びで積極的に関わるなど、夫婦で役割を擦り合わせて。

Q.受験日が迫るにつれ、チック症が悪化して……

小4の3月(塾では小5のプログラムが開始したばかりの時期)くらいから目をパチパチするようになり、チックのような症状が。なかなか症状は治まらず、受験前に何か対策をとったほうが良いのでしょうか。

A.

「チック症」の多くは、1年以内には自然に治ることがほとんどですが、その一方で小学校高学年ではその症状がピークを迎えることが多くあります。試験中に症状が出てしまう可能性も踏まえて、まずは個室での受験の可否など学校側の受け入れ体制を確認しておくこと。症状が長期化している際には一度、医療機関に診てもらうことも視野に入れて。本人に症状を指摘するのは避けましょう。

<女の子の悩み>

Q.受験日が生理に当たってしまうかも……、と親子で不安に

娘はまだ生理が不安定。12歳の子に薬でコントロールするのも気が引けます。また、腹痛もひどく、受験の日に向けてどうしたら良いでしょうか。

A.

初経の平均年齢は10歳以降で、3年程は周期が乱れがち。この頃はPMSより生理痛の悩みが多いようです。予め母親から生理について話しておくと、子どもも相談しやすくなるでしょう。またWHO規定では低用量ピルも、初経があれば使用可能とのこと。しかし、眠気の副作用がある可能性も懸念されるので、痛みを抑えられる鎮痛剤を所持して受験に臨むことをお勧めします。

Q.娘と「女VS女」と敵対するように

この頃娘と、〝女対女〟、としての対立がひどく、〝ママに言われるとやる気をなくす〟と言われてしまいます。しかしまだ母のサポートが必要な年齢。その距離感に悩んでいます。

A.

娘にとって母親は、身近なロールモデル。しかし、小学校高学年では、まだ母の良いところしか見たくないという願望があります。ゆえに、余計な口出しをされるとより反発したくなるのです。そもそも母親に対するイライラの根源は、母親自身に対してではなく、外での出来事が原因かもしれません。ベッタリ監視する距離感は避け、ヘルプのサインにはサポートしてあげる姿勢を見せてあげましょう。

Q.友達と比べて一喜一憂して、友達関係が悪化

娘の学校では多くが近所の進学塾に通っており、その中で最も仲の良い子と志望校が一緒だと判明。 テスト結果や塾のクラスのアップダウンを、その子と比較して一喜一憂し、精神的に不安定です。

A.

思春期の女子は、他者との違いや能力差に悩んで劣等感を持ちやすくなる時期。単純に成績だけでなく、容姿や持ち物、環境などで比較しがちです。そんな中で母親ができることは、劣等感を感じていること自体を受け入れて理解してあげること。自己肯定感を上げるように「それでいいんだよ」と根気強く伝え、温かく個性を見守ることで、心の安定を築くよう導くのが大切です。

撮影/佐藤 彩〈静物〉 取材/奥村千草、松葉恵里 ※情報は2023年2月号掲載時のものです。

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