『風間公親-教場0-』でキムタクが月9にカムバック!【辛酸なめ子の「おうちで楽しむ」イケメン2023 vol.45】

木村拓哉さんが警察学校の〝鬼教官〟を演じ話題を集めてきた『教場』シリーズが、ついに連続ドラマ化。木村さんといえば、の月9枠での放送というのも新たな期待と話題を集めている『風間公親-教場0-』について辛酸さんに早速レビューしていただきました。
(※一部ネタバレを含みます。ご注意ください)

月9×木村拓哉という最強のブランディング

完成披露試写会で「月9って言わ

完成披露試写会で「月9って言わないほうがいいと思う」とコメントしたという木村拓哉。彼が月9ドラマに主演するのは9年ぶりで11回目(前回は2014年の『HERO』第2シリーズ)。時代とともに視聴スタイルも変化し、時間や枠や月9というブランドにこだわる必要はな、という意味なのでしょう。でも、彼のファンの大人世代はやはり「月9×木村拓哉」という最強のブランディングに期待してしまいます。同世代の希望、という意味も込めて……。満を持してスタートした『風間公親-教場0-』第1話の平均世帯視聴率は12.1%、第2話は10.7%で2桁をキープしたというのも注目度の高さを物語っています。
木村拓哉演じる風間公親が刑事指導官として若手刑事を厳しく指導する,というストーリー。第1話と第2話は瓜原潤史(赤楚衛二)が新人として風間にしごかれるという、世代の違うイケメン同士の共演に期待が高まります。風間公親は鬼教官。シルバーへアで眉間にしわを寄せ、苦虫をかみつぶしたような表情と口調で威圧感が半端ないです。しかし不思議とシルバーヘアも眉間のしわも、木村拓哉本人の加齢によるものではなく、ヘアメイクや脱色だということが伝わってきます。木村拓哉には常に若くいてもらいたい、という同世代の心理かもしれませんが……。実際は地毛を脱色してあの色になったそうです。ガチ白髪とはどこか違うおしゃれ感が漂います。

第1話では2件の難解な殺人事件が展開

第1話は拡大版で2件の殺人事件の謎解きが展開。1件目は、タクシーに乗車していたカップルの男性が刺殺された事件。殺されたのはホストクラブオーナーのチャラい男性です。男性はなぜか細かく運転手に指示して何度も角を曲がってぐるぐる走り回ったあと、しなだれかかったふうの女性に刺されてしまいます。捜査線上に現れたのは、日中弓という女性(内田理央)。赤楚演じる瓜原は彼女が怪しいと確信しますが、確固たる証拠が見つかりません。風間は瓜原の前で地図を広げ、500円玉を爪で弾いたりして何か知っているふうですが。瓜原にはただ占いをしているように見えてしまいます。このドラマでは風間が答えを知っていても匂わせるだけで、新人刑事に自分で考えさせる、という指導法を貫いています。
「いいか。一撃でしとめるんだ」と、瓜原を鼓舞する風間。瓜原が日中弓のもとを訪れて聞き込みするのを横で見守ります。芦沢が日中弓に殺されたのは、日中弓のあられもない姿の写真を撮って流出させると脅していたから。そこまで推測できても日中弓にはぐらされ、瓜原は証拠を突き止められず……。最終的には、風間の名推理で逮捕に導かれます。それはなんと、カーナビのマップに残されたダイイングメッセージ。殺されることを予感した芦沢は、運転手に道を伝える時に地図上に「日中弓」と名前を描くように道を指定していたのです。芦沢もそんな指示ができるほど判断力と気力があるのなら、女性の力で刺されるのを防げそうなものですが……。意表を突かれるシュールな展開ですが、風間がシリアスな表情で「これ以上私を失望させるな」などと言うので、視聴者は笑うところではないと気付かされます。

「ちょ、待てよ」も、もともとは〝月9〟発?

2件目の殺人は、機械部品製造工場の社長・益野(市原隼人)が、亡き妻を交通事故で殺めた海藤を射殺し、自殺と見せかけた件。しかし海藤の遺書は手が震えている筆跡だったのを、風間はそれとなく瓜原に気付かせます。「警察学校で習っただろ」「拳銃で脅され遺書を無理矢理書かされた」「そうだ」。厳しさの中にも優しさが垣間見えます。
しかし益野の娘が時々アレルギーの症状で呼吸が苦しくなる様子を見て、なかなか仕留められない風間。「人に優しくしたいのなら今すぐ刑事を辞めろ」と風間が厳しい口調で言うと、「ちょ、ちょっと」と呼びかける瓜原。「ちょ、待てよ」よりもどこか弱々しく、木村拓哉のカリスマ性を際立たせるセリフでした。「ちょ、待てよ」は1997年の月9『Love Generation』発の流行語だという説があるので懐かしいです。
結局、娘さんが火薬アレルギーということを突き止め、益野が武器を準備していたことが判明し、2件目の殺人事件も解決に導かれました。

赤楚衛二の突然のお腹アップも萌えポイント

第2話は小学校の校庭で性格がキツめの女性教諭・諸田伸枝が殺されていた事件です。怪しまれたのは、息子がいじめられて不登校なのに諸田に冷たくあしらわれ、恨んでいた保護者・佐柄美幸。この現場でも風間は独特な指導法で瓜原を刺激します。いきなり「なぜ戻ってきた。不快だ」と瓜原を小突き、怒った瓜原と揉み合いになる風間。昭和育ちとはいえ今の時代に唐突な体罰とは……と引いてしまいますが、ちゃんとその行動には理由がありました。校庭で揉み合った跡を「今できた足跡を記録しろ」と、風間。実際の現場の足跡と比較する、という意味がありました。さらに「目を閉じろ。現場の様子を私に伝えてみろ」と、記憶の残像からの推理を促します。目から入る情報量は多すぎるので、こうやって時には目を閉じたほうが犯罪者の心理が浮かび上がってくるようですが、どこかサイキックっぽくて霊能力捜査官が活躍するドラマ『メンタリスト』のような雰囲気も。
常に苦々しい口調&表情の風間ですが、お腹を抑える瓜原を「痛いのか。薬は飲んだのか」と気遣う一面も。しかし一瞬の優しさのあと「転属願いの紙は何枚もある。腹はくくっておけ」とすぐに厳しい口調になるのが、鬼教官キャラの照れ隠しのようです。同じく萌えシーンといえば、瓜原に腹痛の症状が出て医師の母親(斉藤由貴)に診察され、お腹を露出して押されるシーン。赤楚衛二のお腹が突然アップになり、ソフトな診察シーンに癒されました。瓜原が美幸に聞き込みしている時に、風間は横で「こういう時は疑っていると言って圧をかけて反応を見ろ」と、聞こえるようにアドバイス。「刑事になったばかりで指導受けてます」と、瓜原が正直に言うと「えっ。大変ですね」と、笑う美幸。もしかしてこれは気を緩ませて口を割らせる作戦なのでしょうか……。

風間の新たな教え子はガッキー!

今回も、わりと非現実的な場面がありました。瓜原が少年時代、不登校だった記憶を思い起こすのですが、当時、母親(斉藤由貴)が料理中に「死んでしまえばいい!」「やってやる!!」と呪いの言葉を発しながらニンジンを切る不穏なシーンが昼ドラのようでした。美幸の殺人シーンも、校庭の子どものブロンズ像が持っている本を溶接の技術で取り外し、諸田を思いきり殴った後にまた溶接で元に戻す、という手が込んだ手法でシュールでした。素人の女性が殺害推定時刻を撹乱したり、揉み合った靴の足跡を偽装したり、計画的な犯行ができるのでしょうか。
ともかく、瓜原の渾身の推理でついに事件の証拠が見つかり、校庭から教室にいる息子を涙目で見上げる美幸。宮澤エマの演技が素晴らしかったですが、なぜか息子のパーカーの「Harvard」のロゴが目立ちまくっていました。母親の学歴コンプレックスの表れか……。または、犯罪者となった母親を反面教師に息子は学業に励むというメッセージだったのでしょうか?
何かと突っ込みを入れたくなるドラマですが、風間の威厳漂う演技がドラマをシリアスに演出し、説得力を持たせています。しかし予告を見ると次回の新人刑事役は新垣結衣で変わらぬかわいさを振りまいていて、風間の口調が若干優しくなっているような……。やはり男性の新人刑事相手に、心置きなく厳しい指導をする姿を楽しみにしたいです。

辛酸なめ子

イケメンや海外セレブから政治ネタ、スピリチュアル系まで、幅広いジャンルについてのユニークな批評とイラストが支持を集め、著書も多数。近著は「女子校礼賛」(中公新書ラクレ)、「電車のおじさん」(小学館)、「新・人間関係のルール」「大人のマナー術」(光文社新書)など。