恵まれたルックスのダンサーが出演者全員と一丸になってつくる“いい舞台”【王子様の推しドコロ】

vol.4 柄本 弾さん

バレエダンサーやフィギュアスケーターなど、アスリートの中でも特に「王子様」と評されるイケメンたち。“王子様っぽさ”の理由は何なのでしょうか。それぞれの魅力をそれぞれの見所から紐解いていきます。

PROFILE

つかもと・だん/バレエダンサー(東京バレエ団所属)。1989年生まれ、京都市出身。5歳からバレエを始め2008年、東京バレエ団に入団。2010年には初主役を務め、プリンシパルに昇格したのは2013年。演技力と身体能力を生かし、古典からベジャール作品やフォーサイス作品などの現代的な作品まで、幅広いレパートリーを持つ。『旅するフランス語』(NHK Eテレ)に出演するなど、バレエを中心にテレビ出演や広告などでも活躍中。体を動かすのが好きで最近始めたゴルフがリフレッシュ法。

日本人バレエダンサーきっての甘いマスク184㎝の長身から生み出されるバネのある力強い踊りと言えば、東京バレエ団の柄本弾さんです。大好きな兄と姉が習っていたバレエを、一緒にいたいからと習い始めたのが5歳。高校生になるまでは水泳や野球、サッカーなど他のスポーツにも興味があり、バレエ一筋ではなかったそう。
「高校1年生の冬に呼んでいただいたスタジオの息子さんがバレエを習っていました。すでにコンクールで受賞するほどの実力の持ち主で、そこで初めて同世代の実力を目の当たりにしました。それまでは週1回程度しか通っていなかったにもかかわらず、僕は小学校の頃からすでに作文などでバレエダンサーになりたいと書いていたんです。実力の差にショックを受けて、それからレッスンに打ち込むようになりました。通っていたスタジオのひとつが、東京バレエ団の特別団員である高岸直樹さんの出身スタジオで、東京バレエ団に憧れてオーディションを受け、今に至ります」

※写真は『ジゼル』 ©Kiyonori Hasegawa

2008年に入団。2010年には早くも『ラ・シルフィード』『ザ・カブキ』の主役を射止め、2013年、バレエ団最高位であるプリンシパルに昇格。数々の演目の主役を踊り、日本で唯一、モーリス・ベジャールの代表作『ボレロ』(誰もが聞いたことがあるラヴェル作曲の同名曲に合わせて踊る、バレエの有名な演目。故モーリス・ベジャールの財団が許した世界で数名のダンサーしか踊ることをができない)を踊ることを許されたダンサーに!

バレエ人生を変えた3つの転機

「僕のバレエ人生は本当に恵まれていて転機だらけです。運よく入団後2年という早さで主役を掴んだ時、女性を支えることもまだおぼつかない僕に、高岸直樹さんをはじめ偉大な先輩方が半年間もかけて熱心に教えてくれたのも転機。東京バレエ団50周年のガラ公演で『ラ・バヤデール』の主役を踊った時は、出演するために来日していたバレエ界のレジェンド、マニュエル・ルグリさん、ウラジミール・マラーホフさんに踊りのアドバイスをしていただいたのも転機でした。そして、『ボレロ』を踊ることになったのは最大の転機です。踊る前と後では価値観が変わりましたから。中心でソロを踊る役を“メロディ”、周りの群舞として踊る役を“リズム”と言いますが、リズムを踊っていた時は、メロディは雲の上の人たちが踊る、次元の違う神聖な役だと思っていたんです。メロディ役を踊ることが決まった時は天にも昇る気持ちで、本番に向けていかにリズムを引っ張っていけるかに重きをおいてレッスンを重ねていきました。ところが、僕の初『ボレロ』は野外ステージで、本番は小雨が降る中という万全とはいえない条件でした。とにかく転ばないようにと必死で踊っていたのですが、開始2、3分で心が折れそうになったんです。そんな大ピンチの時に、目線や雰囲気でリズムのダンサーたちが背中を押してくれているのを感じました。メロディは周りに支えられているんだと気がついたんです。終わった後、観た方々にもおほめの言葉をいただいて、いい舞台は主役がよければいいのではない、出演者全員で作り上げるものと痛感したんです。それ以降、みんなが同じ方向を向くためにコミュニケーションを大事にするようにもなりました。ほろ苦くも、ダンサーとして大事なことに気が付けたターニングポイントだったんです」
現在、日本で『ボレロ』を踊ることが許された男性ダンサーは柄本さんだけ。そんな大役を掴んだ柄本さんに、今後どんなダンサーになっていきたいか聞くと?
「僕が好きなのは『ジゼル』や『ロミオとジュリエット』のようなドラマティックな演目。踊ってみたいと思っているのは『オネーギン』です。だから演技力のあるダンサーになりたいんです。俳優ダンサーのような。主役の王子だけでなく、主役に深みを持たせるキャラクターダンサー、物語のストーリーをより明確にする悪役、すべての役をこなせるようになりたい。柄本の演技がよかったと感想を言っていただけたらすごく嬉しいです」

※写真は『ジゼル』 ©Kiyonori Hasegawa

演技力を磨く上でテレビドラマを見て演技や仕草を学ぶこともあるそう。
「バレエも演技も間が大事。その舞台で本当に生きた相手と対話することでお客様に伝わります。この役にはこの演技、と固く考えず、ドラマや映画などから間や仕草を学ぶこともありますね」
5月20日の公演では『ジゼル』でアルブレヒトを演じる。
「アルブレヒトのアプローチはジゼルによって変えたいと思っています。今回のジゼル役、中島映理子さんは実年齢では10歳年下なので年の差カップル。年上の男性っぽさを出せればと思っています。ジゼルがアルブレヒトに惹かれていく過程を丁寧に描写することで、第2幕の悲劇性やドラマティック感が際立つと思っているので、第1幕での演技には注目してほしいです」

※写真は『ジゼル』 ©Kiyonori Hasegawa

©Koujiro Yoshikawa

アルブレヒトは(ジゼルに二股をかけて、ショックでジゼルは亡くなってしまうので)あまり好感度が高い役ではありませんが?
「アルブレヒトがただの遊び人で終わらないように、第2幕では社会的立場や責任からくる彼の内面の悩み、人間らしさ、複雑さを表現しつつ、ジゼルへの愛を示していけたらと思っています。同じ2幕では、東京バレエ団が世界に誇る精霊ウィリたちの一糸乱れぬ美しい踊りがあります。圧巻で見どころです! 僕の見せ場はやはり、第2幕でのジゼルとのパ・ド・ドゥです。ジゼルがより精霊っぽく見えるリフトの技術、ジゼルをどう見せるかが求められる、やりがいのある踊り。自分の強みだと思っているパートナリングの安定性を生かせたらと思います」

バレエの神様に選ばれてきた柄本さんが感じるバレエの魅力

「バレエは総合芸術。ダンサーだけでなく、衣装さん、照明さん、オーケストラの方々など何百人もの人たちがその舞台を作り上げるために努力しているので、ライブならではのドラマがあります。僕は、言葉がなくても観て楽しめるバレエはあらゆる舞台の原点だと思っています。バレエにしかない魅力を感じていただきたいですね。ハードルが高いと思わずに、身体能力の素晴らしさや音楽の美しさ、些細なことでもいいので何か感じて少しずつ楽しんでもらいたい。今回の『ジゼル』は海外公演に向けて東京でのお披露目になります。この作品が、バレエを観るきっかけになれば嬉しいです」

柄本さんの姿を見られるのは……東京バレエ団公演『ジゼル』東京文化会館(2023年5月20日)
1841年、パリ・オペラ座バレエ団初演の、フランスで生まれた悲恋を描いた物語バレエ。心臓が弱い村娘ジゼルは、身分を偽って森に遊びにきた貴族の青年アルブレヒトと恋に落ちる。二人は想いを通わせるが、アルブレヒトが実は貴族で婚約者もいることが発覚。ジゼルはショックのあまり狂乱し亡くなってしまい精霊になるが……涙を誘う切なくドラマティックなロマンス、美しい精霊の舞、観るものを非日常の世界へといざなうロマンティック・バレエの代表作! 柄本さんは、5月20日14:00の公演に出演予定。詳しくは東京バレエ団の公式ホームページまで。

@Kiyonori Hasegawa

取材・文/味澤彩子