元フジテレビアナウンサー大橋マキさん(46歳)、”自分の原点”に戻った今を語る

多くの人が憧れる職業〝アナウンサー〟。難関試験を突破して放送局に入社しながら、20代、30代で退職し、異なる分野でも、新たな才能を開花させる方が増えています。今回は、そんな方々を取材した第2弾。道を切り開いていく彼女たちは、人生100年時代のお手本なのかもしれません。

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元フジテレビ アナウンサー 大橋マキさん
46歳・神奈川県在住 アロマセラピスト、一般社団法人「はっぷ」代表理事

「認知症になっても手や体は覚えていることが多く、所作の全てが美しいんです。暮らしに根付いている何かを生み出す手に憧れます。傍で吸収していきたいです」。

古老賢者の知恵や日常の暮らしが
宝物。植物を通じて繫がり、
次世代へ継承したい

バラエティや「プロ野球ニュース」を担当し、人気絶頂の中わずか2年でフジテレビを退社した大橋マキさん。現在はアロマセラピストに転身。神奈川県葉山町を拠点に高齢者の方たちと共に庭づくりを有償で請け負う法人を運営し、ガーデンという場で地域の方々と繫がっています。

取材し、自分の言葉で伝える放送記者に興味を持った大橋さん。「中学の自由研究では駅前の青空駐車問題に着目し、市役所にも取材。ノート1冊にまとめる程調べることが大好きでした。スピーチコンテストでは壇上から一人ひとりの顔を見て語りかけ、言葉を受け取ってもらうライブ感に感動して、伝えることを仕事にしたいと思いました」。

局アナになり恵まれた仕事を全うする一方、どうしてもテレビの向こう側の相手に向かって伝えることに感触が得られませんでした。「その葛藤に苦しみました。自分から生み出した言葉で発信できない未熟さと人間力のなさに落ち込む日々でした」。

そんな時、リポーターとして訪れたアロマセラピーサロンが、大橋さんの運命を変えました。「脊柱側彎症で思春期の6年間はコルセット生活。毎晩痛みを解してくれた母のマッサージのタッチとセラピストさんの優しいタッチが繫がり、当時の記憶がフラッシュバックしたんです。瞬時に心を開いたタッチングと香り。その言葉以外のコミュニケーションの力に一気に惹きつけられました」。

〝もう一度コミュニケーションの原点に返ろう〟。そう心が動いた大橋さんは、その後、潔く退職し、イギリスで植物療法を学びました。「根拠のない自信と、自分の足で歩む自由に心が喜んでいました。迷惑をかけて辞めたので、今後は自分の行動で示していかなければという想いもありました」。

帰国後はアロマセラピストとして都内の病院に6年間勤務。季節の香りを調合するアロマブランドを立ち上げました。葉山へは15年前に移住。葉山町社会福祉協議会主催の「介護者のためのアロマセラピー講座」を3年間担当しました。「自然が豊かな葉山は四季の食べ物が常に足元にあり、旬のワカメやタケノコなどの香りが溢れています。海外のハーブの精油よりも身近にある物を活かしたいと思うようになり、皆さんに『畑をやりませんか』と声をかけたんです」。

賛同された方々と立ち上げた「はっぷ」は、認知症や高齢者の方々と、植物を活用した庭づくりや園芸療法のサポートなど活動は多岐にわたります。「互近助ガーデン葉山マルシェは農福連携の畑。今では地域の飲食店さんがハーブ購入を通じて支えてくださり、小さな経済が循環しています。多世代が繫がるガーデンは、体を動かすことがリハビリに、働くことや地域に貢献している誇りが生きる力を引き出します。不思議と会議室で聞いた介護などの悩みよりも、青空の下で畑作業しながら吐露される悩みの方が土に還っていくような気がします。結果、ポジティブになれることは畑と交流のもたらす効果かもしれませんね」。

福祉に関わることを「えらいね」と言われることもある大橋さん。けれどもそれには違和感があるそう。「人との距離の近さが葉山の魅力。物が行き交う文化が残り、古老の方が気さくに声をかけてくれます。魅力的な先輩方との繫がりが心地よくて。自分もハッピーに歳を重ねていきたいだけなんです」。

古くからある葉山の身近な植物を活用した自然に寄り添う暮らし。高齢者の方々の昔語りから、その知恵や工夫を知ることができました。「あまりに話がおもしろくて、わくわくを伝えたいと本にまとめました。そして生活の記憶は幾つになっても生きる喜びを創り出すと教えられました。まだ学んでいる立場ですがバトンを受け継ぐような感覚がありますね。今は受け継ぐ母の背中を子ども達に見せたいとみんなで話しています。そして子ども達にも自然と受け継いでゆけたら」。一体感が感じられる今が幸せだと笑顔で話す大橋さん。

「振り返ると心の感覚に正直に向き合い、流れに身を委ねて生きてきた気がします。心が動かず、言葉にできなかった過去があるからこそ、今は心が元気に動く感覚を一番に楽しんでいます。古老の方たちに比べたら40代はまだまだひよっこ(笑)。歳を重ねるっていいよね、と良いシワを増やしていきたいです」。

<1999年>
㈱フジテレビジョン入社

<2001年>
退社し、渡英。植物療法について学び帰国

<2003年〜>
ライターとして働きながら、ラジオパーソナリティ、テレビのナビゲーターなど活動が広がる。アロマセラピストとして都内の病院で活動を始める。アロマ空間デザインの仕事もスタート

<2010年~>
葉山町社会福祉協議会主催の「介護者のためのアロマセラピー講座」を3年にわたって開催。その後、「はっぷ」の前身グループを発起

<2018年>
一般社団法人「はっぷ」を立ち上げる

知る人ぞ知る「リトルスタンド葉山」は青い看板が目印。
息子さんとハーブの分別をする大橋さんは一男一女の母。
子ども達と葉山の自然を満喫する日常Instagramには綴られています。
はっぷ製作の「葉山和ハーブ手帖」。地元の長老の知恵、遊び、植物活用術が詰まっています。
「認知症のおばあちゃま達とカモミール摘みをしています」。
互近助ガーデン産ハーブで生まれた商品のマルシェの様子。
栽培したホーリーバジルを手に。

「葉山の未来を共に作っていく頼もしい仲間たちに偶然会うことができました。こちらでは互近助ガーデン産ハーブがブレンドされたハーブティーを召し上がっていただけます。大人気と聞き励みになっています」。

<編集後記>人生楽しんだもん勝ち。歳を重ねることも悪くない

「取材中、何人の方に大橋さんは声をかけられていたでしょうか?」と問題になるぐらい、誰もがお知り合いの距離感にビックリ!〝老いの不安と共に老いていくことの魅力も教えてもらう〟。その視点が素敵だし、何より大橋さんのとびきりの笑顔が最高で、楽しむ姿が印象的でした。今後の人生、私も心の感覚を意識して生きたいです。(ライター 孫 理奈)

撮影/BOCO 取材/孫 理奈 ※情報は2023年7月号掲載時のものです。

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