小島慶子さん「40代、あんなに悩まなくても、もっと気楽に過ごしてもよかったのになって、よく思うんです」
エッセイスト、メディアパーソナリティの小島慶子さんによる揺らぐ40代たちへ「腹声(はらごえ)」出して送るエール。新連載がスタートします。
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小島慶子さん
1972年生まれ。エッセイスト、メディアパーソナリティ。2014~23年まで息子2人と夫はオーストラリア居住、自身は日本で働く日豪往復生活を送る。息子たちが海外大学に進学し、今年から10年ぶりの日本定住生活に。
『揺らぎってしんどいけど、意外といいかも』
こんにちは。怒濤の40代を駆け抜け、一足お先に更年期真っ只中の小島慶子です。
STORY世代の心が揺らぎに揺らいでいるという話を聞いて、エストロゲンジェルをお腹に塗り塗り馳せ参じました。みんなー、大丈夫、なんとかなるよ! だからあんまり心配しないで、今この瞬間を愉快に生きてね。これは、40代の自分にかけてあげたい言葉なのです。
あんなに悩まなくても、もっと気楽に過ごしてもよかったのになって、よく思うんですよ。などと独りごちながらじっくり誌面を読んだら…… みんな素敵じゃないですか…… キラキラしてるじゃないですか…… こんなの見ちゃったら、めちゃくちゃ心揺らいでしまうじゃないですか! しんどい時は、腕を精一杯伸ばして遠目で読むようにしましょう。誌面はおとぎ話。現実世界じゃありません。
STORY世代はいわゆるミッドライフ・クライシス、「中年の危機」のお年頃です。ある日、不意に焦りと不安に襲われるのです。「ちょっと待て、もう40代だけど…… 私の人生、これでよかったのか?!」と。それでみんな奇行に走ったりカウンセリングに駆け込んだりするんですね。私もそうでした。いいんです、いいんです、それも人間らしさの表れですから。
揺らぎながら、悩みながら、思い切り人に頼って乗り切りましょう。悩みも深いけど、実りも多いのが中年期。弱さを認めると、新たな成長の機会が生まれます。そう、弱さと衰えを受容するって、大事なことです。
あれは確か、38歳の時のこと。行きつけのサロンに髪を切りに行くと、目の前に置かれた雑誌がいつもと違っていました。全部40代向けになっていたのです。ページをめくると、見たこともない言葉が次々と。「頰のコケ・ソゲ」「白髪・髪痩せ」「更年期」。何やら切実な空気が漂っています。顔を上げると、鏡の中には怯えた目をした中年女性がいました。これから一体、何が起きるの?
そりゃあもう、いろんなことが起きましたとも! 夫の退職、教育移住、中年の危機、夫婦の危機、父の他界、2度の入院、ついにはパンデミックという長期にわたる世界的危機まで。よくぞサバイブしたものです。そして今度は、更年期に突入。体は思うようになりません。いや、体だけでなくて、人生のほとんどは思うようにならないものです。次から次へと想定外のことが起きるんですから。
40〜50代の女性の変化をよく「揺らぎ」って言いますね。これは女性ホルモンの減少を指すんでしょう。でも他にもいろんなものが揺らぎます。例えば、自信。次々育つ若い才能、同期の昇進。自身がせっかく昇進したのに、力不足を実感して落ち込むことも。そして子どもの反抗期。あんなに可愛かった我が子が、どうしてこんなチンピラみたいな態度をとるんでしょう(涙)。悔しいやら情けないやらで思わずこちらも腹声でドヤしたりして、未知の自分と出会ってしまう。こんなはずでは…… うう、私の人生ってなんだったの…… まさに中年あるあるです。
やけに気分が落ち込むのは更年期の兆しかもしれません。早めにかかりつけの婦人科医を見つけておきましょう。
ちなみに私の40代は、ひたすら渡り鳥母さん生活でした。41歳の時にオーストラリアへの教育移住を決意。小学生の息子たちと夫は西オーストラリアのパースで暮らし、私は日本で働きながらひと月半ごとにパースと行ったり来たり。東京では単身赴任状態、パースでは海外出張気分で、忙しない生活です。40過ぎてから急に片働きで一家の生計を担うことになったプレッシャーと、家族と離れて暮らす寂しさとでメンタルの底が抜けることもしばしば。パタパタ、パタパタ、20センチ先だけ見て無我夢中で羽ばたいていたら、雲から抜けて子どもの巣立ちの時を迎えていました。もしも初めからうんと先のことまで考えていたら、怖くて挑戦できなかっただろうし、飛び続けることもできなかったと思います。それにしても、こんな地球規模の二拠点生活が可能だったのは、40代の気力と体力があったからこそです。
この頃よく思います。揺らぎってしんどいけど、意外といいかも。身体と心をちゃんとケアする習慣がつくし、美容やおしゃれも、上手に年齢を重ねるための工夫のしがいがあります。昨日と同じ自分でいられないのは誰しも同じ。肩の力を抜いて、もっと自分を甘やかしましょう。たまたまちょっと先に生まれてほんの数歩先を歩いているだけだけど、私、全力で応援します!
文/小島慶子 撮影/河内 彩 取材/石川 恵 ※情報は2024年7月号掲載時のものです。
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