【LIFE STYLE】パリ近郊 花とともに暮らす⑦”健やか”の場所
突然、寒さが増した。
セーターを一枚着込み薄いコートを羽織って外に出る。
昨日とは全く違う、つんとした冷たい空気だ。
家と畑のちょうど、中間くらいにある池を横目に見ながら畑に向かう。
池に水がない。
今年の夏は本当に暑さが続き雨が降らなかった。いつもならカモや水鳥がいるのが見えるのだが、からからの水たまりの様になってしまったその池には誰もいない。夏休みが終わり学校へ行くと、前触れもなく隣の席の友達が引っ越していなくなってしまった、そんな感じがする。
道端に吹きたまっている落ち葉を犬が蹴散らし地面の匂いを鼻でかきながらすごい勢いで進む。ウサギか何かが通った後の匂いを追っているのだろう。それに引っ張られて小走りになる。塀の蔦が昨日より赤みを帯びていた。
畑に着き、ぐるりと見渡す。
トマトの花
インゲンの花
昨日収穫した日本のカボチャの葉は枯れて茶色に、その横
にはまだまだ元気にインゲンがピンク色の花をつけている。夏が残っていた9月初め、そのおかげでズッキ-ニもまた復活、黄色い大きなラッパの花をつけ、トマトは星形の小さな黄花を咲かせている。春夏の野菜とは違い実となり食べるに至れるかは分からない。
青が目に入る。
ロメインレタスに何とも素朴な小さな花が咲いていた。レタスの葉からはとって付けたようにひょろっとした枝が出ていて、そこにぽつぽつと青い花が垂直に咲いている。人間が食べ時を逃がすとサラダは子孫を残すために花を咲かせ種を作ろうとする。
なすびの花
花が実になりそれをいただくトマトやなすび・ズッキ-ニなどは花を見ると、受粉をしてくれる蜂達に「よろしくお願いします」と一礼して楽しみに待つわけだが、サラダやカブなどの葉物や根菜の花は.自分が食べていれば見ることのない花なのだ。
青の花が余りにも可愛いのでじっと見ていた。
秋の畑は野菜の生命の様々な形がみえるような気がする。
満ちた野菜は収穫され、最後まで生を全うしようと花を咲かせる野菜があり、咲くことがなかったかもしれない花が咲いてみたり。ゆっくりと成長し寒くなる土に残り続けるものもある。花は生命をつなぐためのもの、それぞれのペースでそれぞれの生命の過程が混ざりながら畑で一緒に存在している。
しかし花というものは不思議だ。どうしてこんなに気になるのか自分でも分からないが、おいしいとか、きれいだな、と感じられるのは体や心が喜んでいる証拠。素直にそう思っておこう。
夕食用にインゲンを摘み、ちょっと季節外れのズッキ-ニを手でねじりながらもぎ取り、土から赤いべトラ-ブを抜いた。何を作るか予定は未定、この採れたものの中で考えることにする。
日々の身体と心を元気にしてくれる野菜と花、そして地球の子宮・土に感謝して。
文・西田啓子/ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/