【東京アートパトロール】2021年宇宙の旅 モノリス_ウイルスとしての記憶、そしてニュー・ダーク・エイジの彼方へ

 

 表参道のGYRE GALLERYで開かれている展覧会。タイトルからして、ナニコレ???感が漂ってますが、赤瀬川原平、森万里子など「見てみたいなぁ」と思う作品が展示されているので行ってきました。

展覧会は1968年に公開された映画『2001年宇宙の旅』をベースに構成。映画は人間とテクノロジーの関係、人類の進化をテーマにした有名作なので、ご存知の方も多いと思います。

映画の内容を超訳すると、猿人が黒い石版「モノリス」に触れたことで道具を手にし、「ヒト」に進化。やがて宇宙旅行に出発するまでに発展、人類は「モノリス」の謎を解き明かそうと、初の有人木星探査に出発。その旅の途中で宇宙船をコントロールしていたAI(人工知能)「HAL9000」が乗組員に反乱を起こすという話。続編『2010年宇宙の旅』ではモノリスが電脳空間であるとともに、コンピュータ・ウィルス的であることが証明されます。

展覧会はこの映画の時代背景となった2001年から20年たった、2021年の現代で「HAL 9000」の夢、「モノリス」のヴィジョンは何だったのか? を問いただすのが趣旨です。

展示は3つの空間に分かれていて、第1章が『時空の歪み』第2章が『月面とポストトゥルース』第3章が『隠喩としてのスターチャイルド』。

 

最初の部屋に入って最初に目に入るのが赤瀬川原平の『宇宙の罐詰』です。

赤瀬川原平 宇宙の罐詰

赤瀬川原平(1934~2014)宇宙の罐詰1964/1994罐詰4.5×8.6×8.6 cm

 

缶詰を開けて中身を取り出し(高級蟹缶だったので、美味しく食べたのだと思います)、ラベルを剥がして内側に貼り、再びハンダで缶を密閉したもの。缶の中に缶の外側、つまりは宇宙を閉じ込めた作品です。

謎かけみたいだけど、日常の生活の中にある缶詰を宇宙的な時空まで広げた解釈を提示するとはドキッとさせられました。

 

その隣がアニッシュ・カプーアの黒い作品。作家はヨーロッパのモダニズムとインド文化を融合させ、シンプルなフォルムの中に深い精神性を表す作品が特徴。現在もっとも影響力のある彫刻家の一人と言われている方です。

アニッシュ・カプーア_1

アニッシュ・カプーア(1954年〜)syphon Mirror- Kuro 2008140  x  140 x  45 cm 樹脂、漆 / Synthetic wood, Japanese lacquer

 

巨大なタイヤかスピーカーか?に見えますが、宇宙の共鳴とかそんなものを凡人の私にも感じさせてくれる作品でした。

使われている塗料の一部が日本の漆だったり、作品名に「kuro」という日本語表記が使われているのも意外。これだけで親近感湧いちゃいます。

 

続く第二章の部屋にあるのが、展覧会のイメージフォトでも使われているピエール・ユイグの映像作品。

 

ピエール・ユイグ

ピエール・ユイグ(1962〜)100万年王国 2001 映像6 分 石川文化振興財団蔵

 

市場から見捨てられたキャラクター〝アン・リー〟がデジタル合成したニール・アームストロングの声のナレーションで月面をさまよっている映像が「月面着陸の偽装を訴えたウィキリークス」として上映されています。

アームストロングの声が雑音混じりの掠れた、いかにも昔の音声とシンプルなアニメ、3Dの画像に時空を感じました。

 

そして最後の部屋が『比喩としてのスターチャイルド』。

ネリ・オックスマンによる、宇宙でも人間が生きられるように臓器の機能を拡張するために作品化したコルセットなどが展示されています。

 

01_Mushtari_overview

“Mushtari : Jupiter’s Wanderer” 2014 映像 4分22秒 作家蔵 In collaboration with Christoph Bader and Dominik Kolb Photos: Yoram Reshef

 ㈯NeriOxman_0501417_2

 ちなみに作家のネリ・オックスマン、ブラッド・ピッドと噂のMIT教授としてネットで話題。イスラエル生まれで徴兵を終えた後にヘブライ大学医学部に進学、その後建築を学び、最終的にはMITデザイン&コンピュテーションの博士号取得というスーパーなキャリアを誇る、美女です。

 

ざっとまとめてみましたが、私にとってはかなり難解な展覧会。

1周見て??? 2周目になんとなく面白くなって、途中でお茶休憩を挟んで3周目で何だかすごーい、面白い!と感じられたものでした。

そして、展示を見たあとは生活のあちこちに、『2001年宇宙の旅』が作られたころの未来が現実になっていることに気づきました。

毎日ニュースで話題になる『ECMO(人工心肺装置)』はネリ・オックスマンの作品なのか?と思えてきたり。

AirPodsProのアクティブノイズキャンセリング機能はピーター・ユイグの作品で流されていた、雑音混じりのルイ・アームストロングの声をノスタルジックなものに感じさせ、自分の耳の機能の拡張装置のよう。

 展覧会が行われているのは表参道のど真ん中。入場無料で気軽に訪れることができるので複数回足を運ぶことをおすすめします。

最初に見えなかったものが、徐々に見えてきてその内容がジワっとくる。

そんな展覧会です。

 

DATA

会期/〜425日(日)
会場/GYRE GALLERY
住所/東京都渋谷区神宮前 5-10-1 GYRE 3F
URLgyre-omotesando.com

 

TEXT: 安西繁美

女性誌やカタログで主にファッション、食関係、アートの企画を担当する編集・ライター。流行には程よく流されるタイプで、食いしん坊、ワインと旅行好き。東京日本橋出身、よって下町気質。家族や友人に美大出身が多いのに私は画力ゼロ。描けないけど書けるようになれたらいいなと。3月は学生の卒展があちこちで開かれているので、そのパトロールにも出没。どれも開催期間が短いので、こちらでは紹介することが難しいのですが、プロとは違う熱量を感じられて涙モノなのでおすすめです。