“ふるさと納税”ではなく“ふるさと株主”? 移住者・定住者が増えている町北海道・東川町の魅力とは?
北海道のほぼ中央に位置する北海道上川郡東川町。人口約8,400人の小さな町がさまざまな理由で注目を集めています。
前編では、「椅子の日」の制定や建築家・隈研吾氏と連携した取り組み「『隈研吾×東川町』KAGUデザインコンペ」の紹介など、「木工の町」にフォーカスしましたが、後編では、“住みたい町”東川町の魅力についてご紹介します。
東川町の豊かな暮らし、その暮らしを育む文化を解説した本も!
未来の町づくりのヒントがつまった「東川スタイル」とは?
人口減少の時代に定住者が増える東川町のライフスタイルを解説した「Higashikawa Style 東川スタイル」(玉村雅敏/慶應義塾大学総合政策学部教授、小島敏明/慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授 編著)では、東川町では当たり前のことはふつうではなく、東川町に暮らす人々の豊かなライフスタイル=東川スタイルには、まちが共創する未来の価値基準=スタンダードがある。そして、それを育む文化には、未来の町や社会を考えるたくさんのヒントがあると述べられています。
人口減少の時代に移住者・定住者が増加する町
東川町の人口は、1950年の10,754人をピークに減少し、7,000人を切ったこともあったそうです。その後、約20年で人口は約14%増加し、2020年12 月には、実に51年ぶりで8,400人に。人口増加の理由には恵まれた自然環境だけでなく、未来を見据えた町の取り組みによるものも大きいと思います。
*東川町域に、大雪山連峰の最高峰・旭岳(2,291m)が所在。豊富な森林資源と天然水など、自然豊かな環境。
*旭川空港から7km(車で約10分)、旭川市の中心から13km(車で約15分)という利便性の高さ。
*豊かな文化田園都市づくりを目指して、1985年に「写真の町」宣言を行い、「東川町国際写真フェスティバル」「写真甲子園」の開催をはじめ、長期にわたる文化事業によって自然と文化と人の出会いが生まれています。
*暮らしの中に仕事を持つというライフスタイルを大切に考え、さまざまな助成・支援事業の実施やショートステイによる東川体験などの取り組みによって、町の教育環境に共感した子育て世代や豊かで文化的な暮らしを求めるリタイア層、自然環境と町の支援に共感したクリエーターなど、幅広い世代、職業の人々が集まっています。
芸術・文化と町民・世界の人々を繋ぐ拠点の存在
町の中心にある複合交流施設「せんとぴゅあI、II」は、利用者が心地よい時間を過ごせる第三の居場所“サードプレイス”を目指した施設。東川町の多様な文化活動の発信拠点でもあります。この施設は、東川町での暮らしに欠かせないものであり、町民の豊かなライフスタイルを象徴するものだと思います。
写真は、せんとぴゅあII。図書スペース「ほんの森」を中心に、町の写真文化を紹介する「東川写真コレクション」、“織田コレクション”をはじめ優れたデザインの家具を紹介する「家具デザインアーカイブス」、大雪山関連の資料を展示する「大雪山アーカイブス」で構成。せんとぴゅあIには、ギャラリー、コミュニティーカフェなどのほか非常時用施設としても利用できる宿泊棟も。
ともに町の未来を育んでいく「ひがしかわ株主制度」
東川町を応援したい人が町への投資(寄付)によって「株主」となり、まちづくりに参加する制度です。東川町らしい大きく4つに区分されたプロジェクト、「“写真の町”プロジェクト」「日本の未来を育むプロジェクト」「自然と環境を守るプロジェクト」「地域資源活用プロジェクト」から選び投資します。この制度による投資は「ふるさと納税」として寄付金税額控除の対象となります。
写真は、「東川暮らし体験館3号館」202号室。家具は「北匠工房」。
https://higashikawa-town.jp/kabunushi/about
町内には、小学校4校、中学校1校、高校1校があります。写真は東川小学校で、広々とした芝生の運動場や小山を子供たちが元気に走り回る姿が印象に残っています。子育て世代にはとても魅力的な環境ではないでしょうか。
360度のパノラマウォークはこちらhttps://sites.google.com/view/higashikawa-els1898
自然なライフスタイルを実感できる 東川町で是非訪れたいお店
北海道でも唯一の上水道がない町として知られる東川町。各戸が、旭岳の雪解け水を源とする天然ミネラル水を利用しています。美味しい水が豊富にあるということは米や野菜やお酒、そして、お菓子やコーヒーも美味しいはず。ということで、魅力的な4軒を取材してきました。
Wednesday CAFÉ & BAKE
店主の齋藤智博さんは、お隣の旭川市出身。ポートランドにある「ストンプタウン・コーヒー・ロースターズ」のような空間を探していたところ、出会ったのがこの元倉庫という物件。齋藤さん自身が設計図を描き、家具を選ぶなど改装にも積極的に関わり、2017年8月に開業。冬は氷点下になるこの地では、壁に断熱材を入れるのが一般的ですが、コンクリートと鉄というマテリアルにこだわり、壁はコンクリートブロックのままに。カウンターや家具に使われている木材によって心地よいバランスが生まれている、とても居心地のいい空間です。
ラテアートが施されたカフェラテ(¥520)と、小麦粉ではなく米粉を使った人気の焼き菓子カヌレ(¥300)。カヌレは、米粉、はちみつ、蜜蝋、すべて東川産。米粉を使用することで表面はよりサクッとして香ばしく、中はもっちりとしてより滑らかに。甘いものが苦手という男性にも人気があるそうです。
10種類ほどのコーヒー豆、グラノーラの販売も行い、ランチタイムには、バターキーマカレー、ガーリックシュリンププレートなども味わえます。
上川郡東川町東8号北1番地
TEL:0166-85-6283
ランチ 11:00〜14:00、カフェ 14:00〜17:00 木曜休
*1組につき2名まで https://www.instagram.com/wednesday_cafeandbake/
手づくりハム工房 あおい杜
ハムの美味しさに魅せられ、脱サラしてハム作りを始めた畑中昭夫さん。ハムに欠かせない美味しい天然水が豊富にある東川に移住して、2011年に店をオープン。畑中さんのハムは合成保存料や着色料などの添加物は一切使用せず、北海道産の新鮮な豚肉と鶏肉を、沖縄の塩ときび砂糖、そして東川町の美味しい水で作ったソミュール液に漬け込んで燻製にします。
ロースハム(豚ロース肉)¥600/100g、カワガラス(豚肩肉)¥490/100g、チキンロール(鶏胸肉)¥265/100gなど、12種類のハム・ベーコンが並びます。燻製に使用する薪も東川町なら調達しやすく「広葉樹のミズナラをよく使います。ハムにはクルミ、サクラ、リンゴのおがくずをブレンドして使用しています」(畑中さん)東川町の自然と店主のこだわりで作られる美味しいハムは、札幌から買いにくる人もいるそうです。
上川郡東川町南町2丁目3番2号
TEL:0166-82-2310
10:00〜19:00 火曜休
玄米おむすび ちゃみせ
旭岳の伏流水で育った東川産の玄米のおむすびが味わえる、田んぼに囲まれた店。食物繊維やビタミン、ミネラルを豊富に含む玄米は健康・美容効果が期待できる食品として注目されている玄米。「どこでも気軽に食べられる玄米おむすびはサプリより手軽かもしれませんね」そう教えてくれたのは店主の千葉紘子さん。旭川から東川に移住し、2014年にこちらの店をオープン。千葉さんは食育アドバイザーで雑穀マイスターでもあります。
おむすびの具材にも東川や近郊産のものを使用。店内には平日で15種類ほど、週末はそれに数種類追加されたおむすびが並びます。ぬか漬けしたニシンを焼いた「ぬかにしん」、麹に漬けて旨味を出した「紅鮭」、「焼きチーズ」「梅とろろ昆布」など、食欲をそそられる具材ばかり。新おむすびも続々と登場しています。夏は店の前にテーブルと椅子が置かれ、田んぼと遠くに旭岳を眺めながら食べることもできるのだそうです。
上川郡東川町西2号北2番地
TEL:0166-82-3887
7:30〜14:00 *現在、しばらくの間は7:30~13:00で短縮営業
月曜火曜休(祝日の場合は営業、翌日休)
https://www.instagram.com/chamise_higashikawa/
liko
以前は東京でアートディレクターとして働いていた店主の桐原紘太郎さん。空気と水が綺麗な場所を求めて家族で国内外を旅したのち、6年前に東川町に移住。2店舗目となるこちらの店ではオリジナルブランド「NUPURI(ヌプリ)」(アイヌ語で山の意)のビーントゥーバーの販売を中心に、道産の材料で作る「どらやき」、カカオ豆と道産のハチミツで作る「カカオニブハニー」の販売やハンバーガーとチョコディップソフトクリームなどのテイクアウト販売も行っています。
また、東川町の伏流水で醸造した東川町初のクラフトビール「東川エール」の企画・醸造にも参加。昨年開催された、東川町や道内外の作家がクラフトや革小物などを販売する「おくりもの市」の企画・運営にも携わったという桐原さん。「東川町は自然の豊かさだけでなく、昔と今のバランスの良さがいいと思います。東京に近いスタイルで仕事ができるのも魅力」(桐原さん)クリエイティブな魅力が詰まった店です。
上川郡東川町東町1丁目1-1
TEL:0166-85-6336
11:30〜16:00 不定休
https://liko-cafe.shop
今回、初めて東川町を訪れましたが、まず、旭川空港から近い=東京からの距離がとても近く感じられて驚きました。そして、町の特徴や魅力を深く理解した上で行われている、“こうありたい”という具体的な未来を見据えた長期的かつ地に足のついた取り組みが確実に実を結び、成果を上げていると思いました。
ぜひ、東川町を訪れてみてください。リフレッシュできること請け合いです。
撮影/よねくらりょう 取材・文/齊藤素子