何もかも〝ちょうどいい〞相続系ミステリー|大久保佳代子のあけすけ書評
鬱々とした日常をいっとき忘れられる何もかも〝ちょうどいい〞相続系ミステリー
今回は第19回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作です。
ミステリーなのですが、設定や展開が「ギリありえなくないかも」という現実感がちょうどいい塩梅。個人的には、実際の事件をベースにした社会派なモノやドロドロとした恋愛がらみの重めなモノが好みなのですが、この作品はライトでエンタメ色強めな遺産相続ミステリー。読み進めていくうちにぐんぐん引き込まれ「この先どうなるの?」と飽きずに一気にラストまで。
コロナ禍で現実にお疲れ気味な今だからこそ、日常とはかけ離れた世界で無責任に犯人捜しをする時間がありがたいのです。
物語は渉外弁護士である主人公·剣持麗子が恋人から約43万円のカルティエの指輪を差し出され、プロポーズされる場面から始まります。麗子さん、まさかの「私をこの程度の価値としか思っていないのか」と一喝。強欲かつドライ、裏表なく破天荒という切れ者な麗子さん、冒頭から好感しかないです。
今って、誰にでも優しくて悪口を言わない良い人がもてはやされやすいのに、まさかの「まずまず性格が悪い」って素敵じゃないですか。麗子さん、動物にも好かれず犬にも吠えまくられて。
そんな麗子さんのもとに持ち込まれたのが「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」という奇妙な遺言状を残した元彼案件。
彼女は死んだ元彼とも共通の友人だった依頼人を犯人にするべく奔走するという前代未聞のストーリー。「犯人に仕立てるってどうするの?」「そもそも遺言の目的は何?」とかなり複雑難解に進んでいきますが、見事な発想力で意外な方向へ展開していきます。
遺産相続モノなので登場人物が多く人間関係も複雑ですが、それぞれの人物造形がユニークでしっかりしているので、意外とすんなり読めました。特に女性陣は、少しずつ嫌な部分を持ち合わせている曲者ばかりなのでワクワクします。あと〝程よい専門性〞も悪くないです。
相続する上での法律問題や株式による企業のM&A話、「ポトラッチ」という文化人類学のくだりなど、理解したかどうかは別にして知識欲が満たされます。あと著者が弁護士なのもあってか「法律の前では、悪い人も善い人も、強い人も弱い人も平等で、どんな悪どいクズ野郎でも高貴な善人と同じだけの権利を持っている。私はそこが好き」という言葉は、「法の番人」である弁護士のプライドが感じられグッときました。
弁護士·剣持麗子、シリーズ化されて映像化されそうな予感大です。となると麗子役は、小池栄子さんか真木よう子さんあたりが合うんじゃないかと勝手にキャスティング。ドラマ化が実現した際には、原作には出てこないけれど、麗子さんの行きつけの飲み屋のママ役あたりを狙っていきたいと思います。女性の活躍が期待される令和という時代に生まれたヒロイン麗子。彼女の活躍、楽しみです。
おおくぼかよこ / ’71年、愛知県生まれ。千葉大学文学部文学科卒。’92年、幼なじみの光浦靖子と大学のお笑いサークルでコンビ「オアシズ」を結成。現在は「ゴゴスマ」(TBS系)をはじめ、数多くのバラエティ番組、情報番組などで活躍中。女性の本音や赤裸々トークで、女性たちから絶大な支持を得ている。
撮影/田頭拓人 取材/柏崎恵理 ※情報は2021年5月号掲載時のものです。