【東京アートパトロール】ファッション イン ジャパン1945-2020—流行と社会
コロナ禍で約1年間延期され、やっとはじまった六本木の国立新美術館で行われている「ファッション イン ジャパン1945-2020—流行と社会」。
待ちに待って出かけてきました。
会場は戦後を約10年ごとに9つのパートに分け、時系列に沿って構成されています。
ファッションは自分や家族の歴史と重ねリアリティを持って鑑賞できる部分が多く、その視点からもとても楽しめる展示です。
スタートは戦中のモンペスタイルから。ネイビーのボトムにカーキのトップスの婦人標準服。そこから5年くらいで一気に真知子巻き・太陽族の時代に変化していく速度感は迫るものがありました。当時の映画やポスターはモノクロなので、あまり色の印象がなかったのですが実物の服を見てその色の鮮やかさに驚きました。
「ぜいたくは敵」と言われた時代から一転して、消費爆発していたことがよくわかります。
撮影/加藤健
左の2体のマネキンは戦前の国民服と婦人標準服。一番右のマネキンは第二次世界大戦中にたくさんの女性が身につけていたモンペ。カーキ×ネイビー×グレーの色合わせは現在でもバランスのよいベーシックカラーの組み合わせだと思いました。ですが、現代社会が戦時中のように汚れも自分自身も目立たない色を無意識のうちに求めているのか、と思うと複雑な気分。
撮影/加藤健
奥に見えるのが1956年公開の映画「狂った果実」で石原裕次郎が着ていた森英恵デザインのアロハシャツ。裕次郎の足の長さが映える、丈が短くタイトフィットなデザイン。
手前は女性の間で洋裁ブームだった頃の服たち。ジャケットの襟の膨らみや仕立ての立体感など上質感がにじみ出ています。現在の大量生産の服とは一線を画した高貴さ。どんな人が仕立て、誰が着て、誰とどこへ出かけたのか、平和になった社会の豊かさと街の高揚感が伝わります。
1960年代に入ると服は「作る」から「買う」へ変化。東京オリンピックと皇太子ご成婚でカラーテレビが普及、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」の好景気の時代ですね。大量生産された既製服が登場することで、服に対する消費の仕方に大きな変化が。
撮影/加藤健
1964年のオリンピック東京大会の日本選手団開会式・閉会式用ユニフォーム。VANの創業者の故石津謙介氏のデザインというのは通説で、実際は神田で日照堂という洋服店を営んでいた望月靖之氏によるもの。
50年近く経った今でも奥行きのある発色と質感。今回のオリンピックの公式ユニフォームと対比させると感慨深い。
70年代になるとジーンズ(デニムではない)、ヒッピー。そしてファッションの文脈でのチープシックが躍進してきます。
「フォークロア」や「ユニセックス」という概念など、個人の生き方を反映させた装いが出てきたのもこの頃。
ベトナム反戦運動が展開されて、Tシャツやジーンズ、男性の長髪が大流行。団塊パパの青春時代です。
1970年「anan」1975年「JJ」が創刊されて誰もがファッションへの関心が深まり、男女を問わず若い世代が広く「着る」ということに並ならぬパワーを注ぐことができるようになったことがわかりました。
撮影/加藤健
山本寛斎の手がけたデヴィッドボウイのジャンプスーツ。クリエーターの情熱の爆発。
そして80年代はDCブランド全盛という斬り口でした。
ファッション・イン・ジャパンなので、一方で流行していたインポート系は外してあるのはわかるのですが、個人的にはハマトラもサーファーもアルファ・キュービックもほぼ展示がなかったのは寂しく感じました。
90年代は裏原とコギャルです。
バブル感はありません。
撮影/加藤健
80年代のDCブランド。中央はピンクハウスでしょうか。今の服より手の込んだ素材や縫製でブランドによって個性の多様化があるように感じます。
撮影/加藤健
左はジュンコシマダ。溜池や西麻布のJトリップが懐かしい!
中央は小泉今日子の舞台衣装、聖子ちゃんもあればよかったのに。
右から二番目の学生服は「今日から俺は!」の世界観そのまま。大げさなリーゼントをバランス良く見せるためのビックショルダー、高いウエスト位置とボンタンシルエットでスタイルを良くみせようと苦心の結果生まれたシルエットなのだとわかりました。右のビームスの袋を持ったプレッピー調のスタイルとの対比が面白い。
展覧会とは別ですがこの時代の副読本として鑑賞前に読んでいただきたい、甘糟りり子さんの新刊『バブル盆に帰らず』。「アルファ・キュービック」の章は必読。当時私は中学生、甘糟さん同様に渋谷109でコーデュロイのダークブランの太うねの8枚はぎのスカートとイエローのボルトのトレーナーを買ったのを思い出しました。懐かしや。
今一度、あの時代を振り返って正しく記憶に再インストールできます。
そして2000年代の「Kawaii」を経て、2010年代の「いいね」の時代へ。
この頃の展示から、いくつかユニクロの高機能素材(ヒートテックなど)が見つけられるのですが、制作への圧を感じるデザイナーの服と並べられるとなんとも違和感、脱力感を感じました。
「自分を表現するために服を着る」ということの根幹が変わっていく足音。
撮影/加藤健
青文字系と言われたゴスロリ、カワイイは今や日本のカルチャー。
2010年以降はインターネットとファストブランドの普及で、リアルの世界ではファッションがフラットになってくるのですが。
展示の最後にあったコム デ ギャルソンの「ジェンター」をテーマにした服の迫力と美しさが、服の持つ力を再び感じさせてくれました。
撮影/加藤健
左から
ボディスカート│川久保玲│コム デギャルソン│2020年春夏│京都服飾文化研究財団 トップ、パンツ、靴下、ブーツ│川久保玲│コム デ ギャルソン│2020年春夏│京都服飾文化研究財団 ボディス、スカート│川久保玲│コム デギャルソン│2020年春夏│京都服飾文化研究財団
コムデギャルソンの2020年春夏の作品。ヴァージニア・ウルフの小説「オーランドー」の舞台化のためにデザインされた衣装と同じテーマで発表されたコレクションより。
どの時代の展示も自分や家族の服の歴史と反映させて鑑賞することができ、楽しく、飽きさせません。
服について改めて考えさせられる展示。
昔話を共有できる女友達と訪れれば、楽しさ倍増するはずです。
【DATA】
ファッション イン ジャパン-1945—2020 流行と社会
会期:〜2021年9月6日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室1E
東京都港区六本木7-22-2
観覧料金:一般¥1,700ほか チケットは事前予約制(日時指定券)
詳細は展覧会HPまで。
TEXT:安西繁美
女性誌やカタログで主にファッション、食関係、アートの企画を担当する編集・ライター。流行には程よく流されるタイプで、食いしん坊、ワインと旅行好き。東京日本橋出身、よって下町気質。家族や友人に美大出身が多いのに私は画力ゼロ。描けないけど書けるようになれたらいいなと。