上野千鶴子さんに質問「ジェンダーギャップの激しい日本で、女性が政治参画する意味とは?」
現在は、だいぶジェンダー平等が進んできたと思います。それなのに、今あえて「セレブな専業主婦」に憧れる娘もいるとか……。これからの時代を生き抜いてもらうために、娘たちにはどう伝えていくべきか、「女性学」のパイオニア・上野千鶴子さんに教えてもらいました。
セレブな専業主婦になりたい娘になんと伝えたらいい?
女らしいというのは本当に誉め言葉ですか?
現代に男子校、女子校って必要ですか?
◯ 上野千鶴子さん
1948年富山県生まれ。社会学者。京都大学大学院修了、東京大学名誉教授。東大退職後、現在、NPOウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長として活動中。女性学、ジェンダー研究の第一人者。
2019年東大入学式での祝辞が大きな話題に。ベストセラー『おひとりさまの老後』や『在宅ひとり死のススメ』など著書多数。
<娘たちの言葉 >
――政治に興味がない女性は多いです。無理に女性を増やす必要はありますか?
〔上野さん〕
女性に限らず、将来なりたい職業に政治家を挙げる子どもは少ないですよね。〝政治家〟が魅力的な職業だと映らず、噓とごまかし、利権まみれの嫌な人たちの集まりだと思われてる。
国会を見てたらそう思うよね。でも、女性議員が増えない背景には供託金がかかる、仕事を辞めないといけない、地盤看板がない、とかいろんな理由がいっぱいある中で、最大の原因は「家庭内抵抗勢力」があることだとわかっています。
――「家庭内抵抗勢力」ですか?
〔上野さん〕
そう、夫と親族。議員って地方では名士だから、家族と周囲が夫より妻が一歩前に出ることを許さない。だから立候補できない。女性議員が増えないのは女性候補者が増えないからです。政治家になるハードルが下がったら、政治家になりたい女性も増えると思いますよ。
――確かに、夫と周りが辞めろっていいそう!
〔上野さん〕
意外に子どもはお母さんを応援してくれる。結果、女性議員はシングル率が高く、未亡人やシングルマザー、あるいは子育てが終わった人じゃないと出にくかった。最近やっと、子育て中の人が出てくるようになったよね。議員用の託児所や、産休·育休も必要よね。
*衆議院は2021年4月27日、参議院は2021年5月27日現在(衆議院および参議院HPより)。
*都道府県および市区町村は令和2年12月31日現在(総務省調べ)。
*有権者に占める女性の割合は、51.7%
(令和元年7月21日執行参議院議員通常選挙速報結果より)。
――でもやはりそんなに無理して、女性を増やす必要はあるのですか?
〔上野さん〕
いきなり国会議員のことを考えずに、地方政治から女性議員を増やしていくと、確実に変わることがある。
予算の配分が変わって待機児童がなくなるとか、給食の添加物をなくすとか、男の議員には見えない課題の優先順位が上がる。言えば通る、やりたいことが実現できるという達成感を味わえば、やりたい人も増えると思う。
私は「パートタイム政治家」「パート議会制」を採用すれば女性議員は確実に増えると思ってる。アフターファイブに議会をやる。議会に出席した時だけ、日当もらうとか。地方自治体は割合、議員になるためのハードルが低いからチャレンジしてほしい。
女性議員が増えないと、日本は今のまま。変わらない。それでよければ「政治に興味がない」「無理に増やす必要はない」と言っていればいいけど、その代わりあなたも今の社会の「共犯者」になるよね。
<これからの女子たちに読んでほしい・観てほしい>
――上野千鶴子・選
<右から>
・育児放棄された少女が叔父とその恋人トランスジェンダーの女性と出会い、3人で共同生活する人間ドラマ。『彼らが本気で編むときは、』監督・脚本:荻上直子 発売元:ジェイ・ストーム 販売元:ソニー・ミュージックソリューションズ Ⓒ2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会
・女子にエールを送る本。『「女子」という呪い』雨宮処凛/集英社クリエイティブ
・小学生もいいたいことを言おう。『いいたいことがあります!』魚住直子/偕成社
・ドラマも話題になった、契約結婚マンガ。『逃げるは恥だが役に立つ』海野つなみ/講談社
撮影/吉澤健太 取材/東 理恵 ※情報は2021年8月号掲載時のものです。