ヨシタケシンスケさん 『あんなに あんなに』誕生秘話インタビュー!【イラストラフ公開】

6月に発売されたヨシタケシンスケさんの最新刊『あんなに あんなに』(ポプラ社)は、子育てと、成長・変化していく子どもがテーマになっており、子育て真っ最中のママたちからは共感のあとに最後は目頭が熱くなる、という声が多数届いています。インタビュー3回目となる今回は、この本が生まれることになったきっかけを伺いました。(全3回。前回はこちら

 

 子育てに限らず、人生とは『変化にとまどい続けること』でしかない

 

——あの本(『あんなに あんなに』)を読んで、自分は子どもの成長や変化のスピードにちゃんと日々向き合えてるだろうか?と焦ってしまう気持ちもありました。

この本はもともと、子どもってすぐ飽きるよね、きれいにしてもすぐ汚れるよね、っていう『子どものあるある』ネタからスタートしたんですけど、書きすすめるうちに望むと望まざるにかかわらず、どんなこともどんどん変わっていっちゃってその都度驚いたり寂しくなったり、逆にほっとすることもあったり…、結局全部どんなことも変わっていっちゃうっていうことしか言ってない本なんです。そのことに僕自身が気づいて、描いたことでちょっとラクになれました。

——ヨシタケさんのご家族は、この本をどう読まれていましたか?

「家族に読ませたら、子ども達は自分たちのことを『あんなに~~だったのに』と怒られてると思ったらしく、『こんなにひどくない!』と憤慨していました(笑)。妻は妻で、時が流れてお母さんがあっという間に老けて体型が変わって…というページを、これまた自分のことだと捉えてしまったようで、読み終わった途端に『なにこれ!?』と……。ささやかな日常の思い出を物語に置き換えたつもりだったんですが、家族からしてみると余計なことを暴露されたと感じたようです。ラフの段階で見せていたら出版を止められていたかもしれないので、完成してからで本当によかった!と思いました(笑)。

『まだたりない』のページが特に印象的だった、と言っていただくことが多いのですが、ラフの段階ではあの言葉はなかったんです。子育てって、いろんなことがあるけどでもいつまでたっても満足はしないというか、子どもがどんなに可愛くても、もう十分! とはならないし、器がいっぱいになるものではないんだな、というのが自分の子育ての感想としてあって。これでおしまい、とは絶対にならない。飽きることも、慣れることもない、ずっと『まだたりない』。人ってそういうものだなぁと思って描きました」

ヨシタケさんの手帳にメモされている原案のイラストラフ
「まだたりない」のページもメモされている
一番最初のテーマ「子どもの飽きっぽさ」はここから
どれも2~3センチ四方の大きさで書かれているイラストたち

 父親として大事にしたいのは
“尊敬”と“軽蔑”のバランス

 

——ヨシタケさんが、お父さんとしてお子さんたちに接するときに大事にしてることはなんですか?

「親としていちばん大事にしていることは、尊敬も軽蔑も両方してもらえるバランスを探ること。たくさん失敗談を伝えたいと思っていて、『子どものころこんな失敗したんだよ、大人になってからもこんな失敗したよ。でも、別に死にはしないし、君たちのお父さんになれてるし、全然大丈夫だった。だからお前も失敗してもいいんだよ』っていうことを伝えられたらいちばんいいなと。人間っていうのは完璧な人なんていなくて、みんなどこか足りなくて、そこを補い合って群れで暮らしている。だから、自分で全部できなくてもいいけど、そのかわり何か一個できることがあれば他の人を助けてあげられるし、自分の足りないところは他の人に助けてもらえばいいっていう世の中のありようを伝えられればいいんじゃないのかなと思っています。

大人ぶってえらいことばっかり言っていても、子どもが大きくなってくるとどこかのタイミングで追い越されるわけですよ。僕自身、親父が小さく見えたときショックが大きくて、
将来子どもたちにそう思われるのが怖いので、今のうちからハードルを下げておこうと。『な、たいしたことなかっただろ。でもさ、お父さんいいとこもけっこうあると思わない?』って(笑)。でも子育てなんて、そんなうまいこといかないんですよね、きっと。今だって絵本作家として、仕事として子育て論みたいなこと話してますけど、うちに帰ると僕『早くしなさい!』しか言ってませんから(笑)」

 

 絵本作家って『いい人』って思われがちだけど……

 

——失敗談をたくさん話す、納得です。ヨシタケさんも怒ったりすることってあるんですか?

「ほぼ怒ってますよ(笑)。こんな仕事をしていると、絵本作家ってすごくいい人って思われるじゃないですか。それに対する罪悪感がすごくある、みんなに嘘をついているみたいな。これはあくまで仕事としてのお父さん論であって、仕事じゃない時のお父さんは全然余裕もないし、『あの銅像なんて言ってると思う?』って子どもと想像して遊んだりしてるのも相当機嫌のいいときです。いつも“いいお父さん”なんてできない。そこまでできる日はめったになくても、言い方のバリエーションを増やしておけば、今日はこんな風に子どもと遊んでみようかな、とか。本当はいつも全力で向き合いたいんだけどね、こっちも忙しいんだよって子どもに許してもらう。そういう大人も子どもも無理のない関係性がいちばん理想なんだろうなって思いますね」

 

 

『あんなに あんなに』(ポプラ社)

子育ては「あんなに〇〇だったのに」の連続。あんなにほしがってたのに、あんなに心配したのに、あんなに小さかったのに——。日常にあふれるたくさんの「あんなに」の中で大人になっていく子どもの成長が描かれた絵本。子どもの飽きっぽさあるあるに共感しつつ、子どもの成長、変化に胸がきゅっとなるやさしい一冊。

◉ヨシタケシンスケ

絵本作家。1973年神奈川県生まれ。日常のさりげないひとコマを独特の角度で切り取ったスケッチ集や、児童書の挿絵、装画、イラストエッセイなど多岐にわたり作品を発表。絵本デビュー作『りんごかもしれない』で第6回MOE絵本屋さん大賞第1位、第61回産経児童出版文化賞美術賞などを受賞。『つまんないつまんない』で2019年ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞に選出。近著に『あるかしら書店』『もしものせかい』などがある。二児の父。

取材・文/北山えいみ 撮影/須藤敬一

▼あわせて読みたい

【第1回】ヨシタケシンスケさん「“想像力神話”を子供に押し付けるのは無責任なこと」

 

【第2回】ヨシタケシンスケさん流「子どもの”好き”の見つけ方」って?

 

VERYモデルの毎夜の「読み聞かせ絵本」と子どもとの「思い出絵本」

 

[虫好きのための図鑑]昆虫ハンター牧田習さんのおすすめ2選