医療の進化に私たちの心は追いついてる?「出生前診断」の意味を考える
松原未知さん( 50歳・神奈川県在住) 社会福祉士/精神保健福祉
私にとって、出生前診断は産む・産まないの選択のためでなく
万全の準備を整えて子どもを迎えるためのものでした
39歳で結婚した松原未知さんは、晩婚だったこともあり、すぐに不妊治療を始め、体外受精を3回行いました。着床はしましたが、すべて流産という辛い結果に。「不育症かもしれないと、専門病院に通院。4回目の妊娠では、流産するのは絶対に嫌なので、胎児の情報を最大限得たいと、高性能エコーで検査していただきました。すると、医師から『鼻骨形成不全で、1/2の確率でダウン症』と告げられたのです」。
もし、そうなら、合併症の心配もあり、出産までに十分な準備がしたいと思った未知さんは、16週に羊水検査も受け、ダウン症との診断を受けました。「ショックでした。でも、だから産まないという考えは湧きませんでした」。
実は、未知さんは、結婚前から、障がい者の就労に関わる仕事をしていました。「障がい者でも経済的に困窮することはなく、自立して働き、社会に貢献できることを仕事の経験から知っていましたし、親御さんとお会いする機会もありました。また、中高時代ミッションスクールで育ったこともあり、『産む、産まないは神の領域』と 思っていたんですね」。
ところが、ご主人は「最初は困っていたようです。 旅行も、飲み会も行けない。何より他人からかわいそうと言われるのが嫌だと。ところが、彼が親友に打ち明ける と『親になるってすばらしいことだよ。本当によかったね。男の子?女の子?』とすごく喜んでくれて。以来、少しずつ受け入れていきました。夫は元アイスホッケーの選手で、子どもを選手にするのが夢でした。私も子育てに夢はあった。それを再構築しなければならないのは大変でしたね」。
産む意思をご両親に伝えると賛成し、応援する、さらに未知さんが産後も仕事を続けられるように近くに引っ越して手伝うと言ってくれました。「障がいのある子を産むと、働けなくなるとか、お金がかかるとか、一生面倒見なければならないとかいう理由で出産を諦める人もいます。出生前診断後、カウンセリングで精神的なケアはあったとしても、経済的なことや家族の生活がどうなるかなど、具体的なことを教えてもらえる機会は少ないんです。出産を諦める前に、充分な支援を受けられることをぜひ知ってほしいです。息子が生まれてきてよかったと思える人生を歩めるように、手を尽くして育ててきました。出生前検査の是非を語るつもりはないのですが、私は検査を受けたことで、万全の準備をして子どもを迎えられた。だから、やっぱり受けてよかったと思っていますね」。
撮影/BOCO 取材/秋元恵美 ※情報は2021年10月号掲載時のものです。