窓から外を見ていると目の前に鳥が横切った。右から一羽、左から一羽と次々にその小さな鳥たちが林檎の木の周りを飛び交いだした。しだれ柳の枝で出来た餌箱。 « もう寒いね » ある日、子供が又それを取り出し裏庭の林檎の木の枝にを吊り下げた。一年前の秋に、選定された枝を拾い集め彼が自分でかごを編むようにして作ったのだ。冷たい風や霜やらがやって来た今の庭には虫たちはもうなかなか見つからないだろう。そんな時期になると、このちょっとへんてこりんな餌箱が林檎の木の下でぶらぶらと揺れ出す。

目をこらしよく見てみるとその鳥は青いお腹のシジュウガラ。ひゅんひゅんと波を描くように飛んできては餌箱に止まり、かわりばんこに餌をつついている。スズメは草の中にくちばしを入れ、地面に落ちた餌を地道に探している。葉がすっかり散り落ちてしまった林檎の木が鳥たちでにぎわう季節。モノト–ンになった裏庭が少しはしゃぎだした。

今朝も芝生は白い。雪のような潔癖な白を待ちながら、今の朝の庭はみどりがかったグレイに近い。そのグレイの中を繊細な白が行き来するような気配がする。犬に連れられ散歩に出ると、半分凍ったような草の上を歩くたびに、シャキシャキと小さく音が鳴った。遠くに聞こえる鳥の声と自分の足音。そんな微かな音が耳に響くくらい庭の植物は眠りこけているような感じがした。

冬の時間はときおり足踏みをする。その中にいると毎日の雑音がその風景に吸い込まれ、心までも真空管の中にいるかのように静かになった。

降り積もった落ち葉をけり散らしながら犬が進んでいく。木の上にある葉の数より地面を覆う葉が随分多くなった。そうすると景色はぐっと風通しが良くなり、どっしりとした存在感のかたまりの大木もどこか透明感が増し、まるで別人になった様に立っている。空を背景にくっきり映し出された裸木の並木。そしてその枝の間から小さくみえる森。目の前にあるものより遠くに見える地平線がどことなく身近に感じてしまうのが不思議だ。冬は、いつも見ているもののその先にある何かを気づかせてくれるような気がする。そして寒さに背を丸くする億劫な身体とは反対に気持ちは一直線に遠くへ飛んで行くのかもしれない。

 

家に戻ると時計の針が一回りほどしていた。

窓から明るい陽がさしこんでいる。

冬の朝のつかぬ間の空想。

微かな冬の足音が聞こえた。

 

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【PROFILE】
西田啓子：ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ－カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/