【LIFESTYLE】パリ近郊 花とともに暮らす (70) 待っていた白いバラ

旅から帰ると窓の外に白いバラが咲いていた。

両手で急いでベランダの戸を開け裏庭へ飛び出す。2つの大きな窓の間にある壁を背にして、堂々と立っているバラの木は年を重ねるごとに成長し、私の手の届かないくらいの高さに枝を伸ばした。窓ガラスの前に泉から水が流れるようにしなり落ちている枝、そこ沢山のバラが豊かに咲いている。微かな甘い香り。思わず顔を花の近くに寄せ、その辺りのパステルに染まったような空気を吸い込む。すぐ側まで近づかないと気が付かないような親密なその香りは、美しいが控えめなこのバラの芯の強さを表しているような気がした。後ろを振り返ると犬が陽に照らされ寝そべっている。慌てて裏庭に飛び出した私につられて一緒に出て来たのだろう。今日も空は青い。暑くなりそうだ。

たった1週間の留守中に植物たちは初夏の太陽と月の光を浴び大きく成長していた。

見事な花が咲くマロニエの木が奥の方に見える。その姿は空を見上げる山のようで小さな裏庭の植物の成長や私たちを見守っているようにも見えた。

緑の粒がたわわにでき、しなっているカシスの枝。その合間に見え隠れするブラックべリーの花。足元にはオダマキが花びらを落としている。夏に咲くダリアも葉を出し、しっかり成長していた。

 

庭中をうろうろしている私に目もくれず相変わらず庭の真ん中の一等席で寝そべっているつれない犬。その横に腰を下ろし芝生の上に手をついて座った。 « マリーの心臓 »と言う名を持つ花、青い花、グラミネや野草の花。その間を花から花へとひっきりなしに飛び回る蜂の羽音が鳥の声に混ざり微かに聞こえる。地面についた手からひんやりとした感じが伝わり気持ちがいい。この下に植物の根が無数に伸びている。そしてそれと同じくらい沢山の虫が土の中に生きている。子供の頃に盛んにした土や草遊びは、確かに何か至福ともいえる喜びに繋がっていた。目をつぶり自分の手から根が伸び出すような感覚を確かめてみる。土はやはり私の原体験なのだろう。

 

冬を越し心待ちにしていた花たちが軽やかに庭を駆け巡る季節が始まった。

花が緑色の心の中に次々と現れそして消えていくだろう。

 

モモが見た時間の花のように。

 

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【PROFILE】
西田啓子:ファーマーズフローリストInstagram@keikonishidafleuriste
フランス・パリ近郊花農園シェライユ在住。パリの花のアトリエに勤務後、自然を身近に感じる生活を求め移住。以来、ロ-カルの季節に咲く花を使いウエデイングの装飾や、農園内で花を切る事から始める花のレッスンを開催。花・自然・人との出会いを大切にする。
https://keikonishida-fleuriste.jimdo.com/

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