【中学受験相談】「自分で受験するって言ったのにやる気が見えない」母の悩みに受験ジャーナリストが回答

【今月の質問】

勉強嫌いな子に、無理に
受験させる意味はありますか?

[受験進路相談室]

Yさんの場合

【家族構成】
夫、長女(小5)、長男(小1)

【今回相談する子どもの状況】
小1夏から今年の1月まで栄光ゼミナール、現在は日能研に通塾。ほか、お習字と英語をそれぞれ週1で。夫婦ともに中学受験は未経験で、塾やお友達の情報を頼りに受験対策をしています。

もともとは、娘が高校受験をしたくないという理由で中学受験を希望しています。夫も私も本人の希望を優先し、受験のサポートをと考えていますが、本人が受験したい!と言うわりに勉強量も多くなく、毎日必ずやらなければならない少しの課題すら、忘れてしまっている状態です。基本的には、しなくていいなら勉強はしたくないという態度で成績が伸びるわけもなく、入塾時よりクラスも落ちてしまいました。今後このような子がこれからもっと大変になる受験勉強に耐えられるのか?ここまでしてやる必要はあるのか?やる気はいつか入るのか?悩んでいます。

受験勉強は嫌な気持ちに
打ち勝ってやるものだっていう
構図に既になりかけている気がします

Y(相談者):5年生に上がるときに、受験を続けるのかどうかを家族で話し合いました。自分から受験すると言い出したのに、意欲的に勉強に取り組んでいるようには見えないからです。「やりなさい!」と言えばダラダラやるんですが、基本的に勉強は好きじゃないようで。私も夫も無理やり受験しなくちゃいけないとは思っていないので話し合いをしましたが、本人はしたいと。高校受験をしたくないという理由です。テストの点が良ければ嬉しそうにやっているし、悪いとまずいって顔はするんですけど、難しい問題や新しい問題が出てくると嫌だなあという感じの態度になります。そういう態度を見てしまうと「自分で受験するって言ったのに」ってなっちゃうっていうかこのままで大丈夫かなと……。

オ(おおたさん):大丈夫かなっていうのは、どうなったら大丈夫なんでしょうか?

Y:彼女を見ていると、どうしてもできないものはできなくていいみたいなスタンスで、それは勉強だけじゃなくて何でもそうなんです。例えば社会の点数が良かったら、私は社会が得意なんだって、張りきります。でも国語が悪くても、私は国語が苦手なんだと言って、それを克服しようとしません。だから、自分から課題を見つけて弱点を克服して……みたいになってほしいんです。残りの2年間で4教科を平均的に良くしたほうがいいんだろうし、好きなものだけ勉強してればいいって問題じゃないんだと思うんですけど。

オ:なるほど、そうお考えなわけですね。

Y:向上心が感じられないので、もっと意欲的に、目標に向かって楽しく勉強するみたいになってくれたら軌道に乗ると思うし、それなら私たちも応援してあげたいという気持ちになれると思います。もっと集中してやれば、早く終えられて、遊ぶ時間も確保できるのに、イヤイヤやってるから時間がかかって、遊ぶ時間が減って、本人もイライラするし、こっちもイライラするし。内面的にちょっと幼い部分があるので、このままで大丈夫なのかなと心配です。

オ:でも、自分から受験するって言って、ダラダラとはいえ、やることはやってるんですよね。

Y:そうですね。でも、3時間かけてこれだけ?みたいな。

オ:3時間もやってるんですか!

Y:でも、全然効率が悪くて。隣に親がついていればやらざるを得ないんでしょうけど、大人の目がなければ気が逸れて途中でお絵描きしたりとか。

オ:なるほどなるほど。でも、3時間もやってるんですよね。すごいじゃないですか。

Y:一応、座ってます。

オ:それだけでもすごいことですよね。多分ね、はっきり言いますけど、今のお母さんの基準で言ったら、世の中の9割以上の受験生は駄目です。効率悪いです。ダラダラだろうが嫌々だろうが頑張ってるだけで素晴らしいことなので、まずはそこを認めるところから始めましょうか。

Y:はっ⁉

オ:あとね、僕がちょっと不思議だったのは、「自分から受験するって言ってるのにその態度?」っておっしゃってましたが、自分から受験する意志をもっているのは素晴らしいじゃないですか。でも、「だったらこうじゃなきゃいけない」っていう理想像がお母さんの中にあるわけですよね。それが何なんだろうなって。

Y:ん?

オ:難しいと嫌になっちゃうのはとても自然なことで、僕だって原稿がうまく書けなくて今日やめた!ってことあるし、それは人間として正常な反応です。子どもの自然な反応を見てイラッとしてしまうものを、何かお母さんがもっているんですよ。例えば、受験勉強は嫌々でもやるものだっていう信念だったりとか、中途半端は駄目だっていう信念だったりとか。受験するって言った以上は100%でやりなさいって、ゼロか100かって。でも、人間って常に意欲的でいられるわけがないので。それをただでさえ、目の前に難しい問題があって嫌だっていうときに、さらに人間的に強くなれって言ってるわけじゃないですか。今の状態は、勉強ができるできないとは別のところで、受験生としての完成度を求められちゃってると思うので。人間っていろんな経験をして強くなって、ようやく大人になるころに自分の気持ちをコントロールできるようになるわけであって、中高生だって自分の感情をコントロールなんてなかなかできません。ましてや小学生なわけだから。人間としてまだ未発達なだけの部分をそんなに責められたら、「自分は駄目なんだ」って刷り込むことになっちゃいますよ。「嫌なのが普通だよ。でも3時間もやれたら素晴らしいことだよ」って言ってもらえたら嬉しいと思うんだけどな。嫌でも3時間も頑張ったのにそこを否定されたら、僕だって辛いと思うな。

Y:はぁ。

オ:たしかに最終的には点数をそろえていなきゃいけないんだけど、それは最後の最後だから。まずは社会なら社会でこうしたら点数取れるんだって経験が自信の核になれば、じゃあ理科や国語も頑張ってみようかなって成功体験が広がっていくわけなので。今は成功体験を積ませてあげることが後々の裾野を広げることになります。受験勉強は嫌な気持ちに打ち勝ってやるものだっていう構図に既になりかけている気がします。それはね、お嬢さんからしてみれば、呪いの言葉をかけられちゃったかなっていう気がします。でもその中で、私は社会が得意なんだって言えるだけの心の強さをもっているわけだから、そこに焦点を当ててあげて、弱点の部分は見えているけど見ないフリというか。

Y:なるほど。

家庭の空気をつくるのは親ですから。
あなたの成績が悪いからこんなに空気が悪いのよって、
それ、違いますから。

オ:受験するってあなたが言ったんだから、もっと意欲的にやりなさいよって理屈は、オールオアナッシングみたいに聞こえるんですよね。中間はないの?みたいなね。それなりに頑張るっていうのがあってもいいんじゃないの?って。家族会議を開いたっていうのも、会議というよりは、言質を取る、みたいな感じじゃないですか。僕の仕事で言うと、月末までに原稿上げてくれるって言いましたよね?って言われると、楽しく書いていた原稿が、急に苦行みたいになるというか、そういう構造にはもっていかないほうがいいんじゃないかなって思いますけど……。

Y:私も夫も中学受験の経験はないので、中学受験が未知すぎるというか……。ママ友からは年々難しくなっているという話を聞いていて、今のうちにどこまでできていれば今後うまくやっていけるのかがわからないんです。受験で家族の雰囲気が悪くなるのは避けたいって思っているんですけど、本人がやるって言っている以上、厳しくなってしまいます。実際娘の態度を見ていると私もピリついちゃって、親子のコミュニケーションも微妙になってきています。そこまでして中学受験をする必要あるのかなっていうのが本音です。

オ:ご家庭の空気がお嬢さんの成績に左右されちゃってるっていうことですかね。

Y:そうですね、ずっとではないですけど。

オ:本来は、お嬢さんの成績が下がったときこそ、おうちのなかの空気を快適にしてあげなきゃいけないですよね。そこで空気が悪くなっちゃうっていうのは、みんなでお嬢さんの足を引っ張っていることになるから。

Y:えっ⁉

オ:さっきから、「受験をするんだったら苦しいとかそんなのはもう関係ないからちゃんとやりなさい」という強固な思考がお母さんの中にありますよね。それ高校受験的なんですよね。高校受験って基本的にクラスの全員がやることになってるから、逃げ場がないですよね。やるしかない状況に追い込まれて、勉強が好きでも嫌いでも苦しかろうが何だろうがやれという世界。それが「受験」というものだと、日本中の子どもたちが刷り込まれるわけですよね。それを今、小学生のお嬢さんに重ねてしまっているんだと思うんです。その信条を一度脇に置いてみませんか?中学受験ってそもそもやらなくていいことに自分の意志で挑戦しているだけで素晴らしいじゃないですか。自分で挑戦しようと思ってもときどきサボりたくなっちゃうのは人間の性じゃないですか。それでも「これじゃ駄目だ」と思って少しずつ頑張れるようになっていくのが人間の成長であって、そのために今、中学受験をしているんですよね。最初から頑張れる子なら中学受験なんてしなくていいんですよ。

Y:なるほど!

オ:テストの結果が悪くて嫌な気分になったら、それを誰かに受け止めてほしいじゃないですか。そこをやってあげるのがまず一番の親の役割です。ただでさえ不安になってるときに、さらに親から責められたらますます不安になりますから。大人だってそうですよね。疲れて帰ってきて家事するの嫌だなっていうときに、「散らかってるじゃん!」って言われたらますますやる気なくすじゃないですか。なんだかふてくされてるなっていうときこそ、ケーキ買ってきて一緒に食べようとかね、ちょっとそこで優しさを見せられたら、本人ももう一度頑張ってみようってなるから。サッカーのサポーターと同じですよね。辛いときこそ声を出して応援してあげるわけで。「自分って頑張れるんだ」っていう成功体験を6年生になる前になるべく経験させてあげれば、強くなれるので。辛い中でも本人がちゃんと向き合えるようになったら本当の受験生。でも、そうなれるのは6年生のギリギリですよ。

Y:そうなんですね。

オ:と、今まで言ったのは理想論。やっぱり勉強はさせないといけないので、ネガティブじゃない形で、まわりがあの手この手で盛り上げてあげないと。それが中学受験です。

Y:受験自体をもうちょっとポジティブにとらえるべきですね。

オ:そうそう。悪いとこを見るとどんどんどんどん悪いところばっかり目につくようになるじゃないですか。でも、ちょっとしたことでいいので、お嬢さんの頑張りに目を向け始めると、「この子こんなに頑張ってるじゃん」ってところが次々と見えてくるようになると思います。お母さん、明るい人だから、「お母さん今日からキャラ変するわ!」みたいに、今までのことをなかったことにしちゃうくらいでもいいのかなって思いますけどね。そうしておうちの空気を良くしましょう。家庭の空気をつくるのは親ですから。あなたの成績が悪いからこんなに空気が悪いのよって、それ、違いますから。

Y:頑張ります(笑)。

【 おおたさんからひとこと 】

本当のカウンセリングだったらもっと丁寧にこのお母さんの中にあるものを聞いていって、自分で自分を縛っている考え方に気づいてもらわなきゃいけないのですが、今回は、ちょっと単刀直入に指摘させてもらいました。苦しかろうが何だろうが受験勉強は歯を食いしばってでもやるものだという信念に基づいてやると、小学生にとっては辛いだけの経験になってしまいます。そんな中学受験ならやらないほうがいいと私は思います。子どもが自分の成長を感じられる中学受験を目指しましょう。

Profile

おおたとしまさ

教育ジャーナリスト。1973年東京都生まれ。東京外国語大学中退、上智大学英語学科卒。リクルートから独立後、育児・教育分野で活躍。執筆・講演活動を行う。著書は『なぜ中学受験するのか?』(光文社新書)など70冊以上。
http://toshimasaota.jp/

イラスト/Jody Asano コーディネート/宇野安紀子 編集/羽城麻子 

VERY NaVY6月号『おおたとしまささんの「悩めるママのための、受験進路相談室」』より。詳しくは2022年5/7発売VERY NaVY6月号に掲載しています。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。

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