これで上級者!「申し上げる」「申し伝える」紛らわしい敬語の応用ルール

文法はややこしいところもありますが、一度理解しておけば、応用が利くものです。

今回は、「申し上げる」と「申し伝える」の違いなど、「ここまでマスターしていれば敬語上級者!」という敬語の応用ルールを紹介します。

紛らわしい敬語の違いを、自分で説明できるようになりましょう!

 

(1)「存じ上げる」と「存じる」の違い

敬語と言えば、尊敬語・謙譲語・丁寧語の3種類が基本です。

しかし実は、謙譲語(自分側の動作をへりくだって表す敬語)には、

・謙譲語Ⅰ 例)存じ上げる、申し上げる、うかがう

・謙譲語Ⅱ 例)存じる、申す、参る

の2種類があるのです。

 

謙譲語Ⅰは、自分側の動作のうち、“目上の相手に関わる動作”です。

たとえば、「うかがう」は取引先を訪ねたり、目上の方の話を聞いたりする際に用いる動詞ですね。

一方、謙譲語Ⅱは、動作の対象や目的語が何であるかが特に関係なく、丁寧語「です」「ます」を用いた上で、さらに丁重さを出そうとする際に用いる敬語です。

丁寧語だけの「私が行きます」よりも、謙譲語Ⅱが加わって「私が参ります」と言ったほうが、話の聞き手に対する丁重さが出るのです。

 

したがって、謙譲語Ⅰ「存じ上げる」と謙譲語Ⅱ「存じる」は、以下のように使い分けられます。

謙譲語Ⅰの「存じ上げる」:“目上の相手の存在そのもの”を知っていることを表すときに使う動詞。

例文:前々から山田様のことを存じ上げておりました。

謙譲語Ⅱ「存じる」:話している相手が、目上の方であるときに用いる丁重表現。知っている内容、思っている内容は何でも構わない。

例文:仕事柄、オリンピックの情報は一通り存じております。

(2)「申し上げる」と「申し伝える」の違い

「申し上げる」は謙譲語Ⅰで、“申し上げる相手”に対して敬意を払う表現です。

たとえば、お客様の要望を聞いた後に、「上の者に申し上げます」と言ってしまうと、お客様の目の前であるにもかかわらず、社内の人間である「上の者」を立てるような言い方になってしまうのです。

とはいえ、「お客様のご意見は上の者に言います」では、少々軽い感じがしてしまいますので、丁重さを増す謙譲語Ⅱ「申す」を取り入れるのです。

こういうシチュエーションの場合、“伝えておく”という意味を加えるために、「申し伝える」という複合動詞にして用いるのが一般的です。

したがって、この場合の正解は「上の者に申し伝えます」ですね。

(3)「ご利用してください」は文法上NG

「ご利用してください」は「ご」も付いているし、きちんと相手を敬った表現でしょ? と勘違いしている人は多いのですが、実は「ご利用し」の部分が文法上NGなのです。

「お~する」「ご~する」は、敬語の種類でいうと、謙譲語に当たります。

たとえば、

・お渡しする

・お知らせする

・ご案内する

・ご連絡する

いずれも、“自分から目上の相手に対する動作”に用いる表現です。

「ご利用」という名詞なら尊敬語になるのですが、「ご利用する」では「ご~する」の形に当てはまるので、分類上、謙譲語になるのです。

「ご利用になってください」「ご利用ください」なら問題はありません。

 

アルバイトや就活などの経験から、「敬語はある程度なら大丈夫!」と自信のある人も多いかもしれません。

しかし、周囲の真似やテンプレートのコピペなどで実践的に身に付けてきた場合、敬語のルール自体は理解していないこともあります。

敬語の仕組みから深く理解していれば、自由に応用がききますし、人にも説明ができますよね。

後輩の敬語の間違いも適切に指導できる、スマートな先輩になりましょう。

 

文/吉田裕子 国語講師。塾やカルチャースクールなどで講師を務める他、『テストの花道 ニューベンゼミ』(NHK Eテレ)に国語の専門家として出演するなど、メディアでも活躍中。東京大学教養学部卒。

画像/PIXTA(ピクスタ)(shimi、 SAMURAI 、xiangtao) 

参考書籍/吉田裕子『たった一言で印象が変わる大人の日本語100』(ちくま新書)