入山法子さん「ずっとチャレンジングな役柄をやりたかった」【映画『天上の花』公開記念インタビュー】
ドラマ『雪女と蟹を食う』の謎めいた人妻役が印象的だった、女優の入山法子さん。昭和の詩人・三好達治を描いた映画『天上の花』の公開を機に、スぺシャルインタビューを敢行。前編では、達治の妻・慶子を演じた映画の話をメインに伺いました。
PROFILE
入山法子
‘85年8月1日生まれ 埼玉県出身●大学入学と同時にモデルの活動をスタートし、’06年ドラマ『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』で本格的に女優デビュー。‘11年『霧に棲む悪魔』でドラマ初主演、同年『ハナばあちゃん!! わたしのヤマノカミサマ』で映画初主演。主な出演作は、映画『ハッピーフライト』『SP 野望篇・革命篇』『となりの怪物くん』、ドラマ『きみはペット』NHK連続テレビ小説『エール』『雪女と蟹を食う』など。
「ずっとチャレンジングな役柄をやりたかった」新作映画への思い
――映画『天上の花』は戦争の時代に翻弄されつつ、詩と愛に葛藤しながら懸命に生きた者たちを描く文芸作品。入山さんが演じたのは、詩人・萩原朔太郎の美貌の妹・慶子。三好達治と結婚後は壮絶なDV描写もある作品ですが、オファーが来たときの思いはいかがでしたか?
企画書と準備稿をいただいた時点で、精神的にも身体的にもハードな現場になるだろうなって想像できましたが、チャレンジングな役柄をやりたいってずっと願っていたので、結構すぐに「やりたい」って言ったと思います。芝居に没頭したいっていう欲が高まっていた時期でもあり、充実度の高い現場になるだろうなと思って、ぜひやらせていただきたいと思いました。
――完成作を観たときの率直な感想はいかがでしたか?
まずは全然、客観的に観られなくて…。そうですね、自分が出ていない三好達治と萩原朔太郎のシーンがすごい良いシーンだなあって(笑)。二人が戦争詩(達治の戦争を賛美する詩)について語っているシーンがあるんですが、脚本では詩が書いてあるだけでどんな映像になるのか書かれてなかったので、すごい見応えがあるなあって思いました。自分のシーンは…やりきったつもりだったんだけど、もうちょっとできたんじゃないかって思ったり…。最初はあまり冷静には見れなかったですね。その後、3、4回観てからやっと「いい映画だなあ」って俯瞰して見られるようになりました(笑)。
時代に翻弄された女性を“かわいそうな人”には見せたくなかった
――慶子は当時の男尊女卑な時代にあっても、自分の欲に正直な強い女性と感じました。慶子を演じるにおいて、もっとも大事にしたことはなんでしょう?
彼女は食べることにしてもお金にしても、今、目の前にある欲を満たしたいというか、そうすることで自分は満たされると思っているところがちょっと悲しいなと感じたことがあって…。でもそういう風にしか生きられなかった彼女を、かわいそうには見られたくなかったですね。彼女もすごく愛情を求めていたと思うんですが、あの時代においてはあの選択しかできなかったんだっていうことを大事にしたかったかな。たぶん当時は少数派の女性だったと思うけど、彼女も時代に翻弄されたんだということは大事に表現したいと思っていました。
――確かに、かわいそうな女性には見えなかったです。
良かったです。力のある男にあれだけ弾き飛ばされても立ち向かっていかなきゃいけないところで、かわいそうには見られちゃいけないって思ってましたし。三好に対して、それだけの酷い言葉を彼女も投げつけてますしね。
過酷でハードな現場だったけれど…すごく楽しかったです
――暴力を受けるシーンはもちろんですが、風の吹きつける海辺の家という撮影ロケーションも厳しそうな環境でした。特に大変だったことは何でしたか?
その過酷さがすごく楽しくて(笑)。新潟の柏崎に2週間行きっぱなしで、人数的にも絞っていた現場だったのでマネージャーもつかず一人で撮影していて。ハードはハードでしたけど、だからこそ意見の出しやすい現場だったというか。監督ともプロデューサーとも出演者の皆さんともたくさん話して、みんなで作っている感じがいい意味での映画同好会みたいで(笑)。同級生たちみんなで作ってるみたいで、青春のような楽しさがありました。ハードはハードでしたけど(笑)、自分がやりたいと思って飛び込んだ作品でしたから楽しかったです。
――撮影時の特に印象的だったエピソードはありますか?
最後の方の、走って逃げる慶子と追ってくる三好の愛憎がぶつかり合う壮絶なシーンは、何度も撮り直せるような芝居じゃないので、出演者もプロデューサーも監督もカメラマンも照明さんも音声さんも本当にみんなを交えて細かく話し合って、リハーサルを重ねて撮ったシーンだったのですごく印象的でした。見てくださる皆さんにも印象に残るシーンになったんじゃないかなと思います。本当に映画が好きな人が集まっていて、いい映画を撮ろうという映画愛が強い人たちしかいなかったのが、そういう雰囲気を作っていたんだと思いますね。
目標は「入山法子が出てるから面白そうだ」と思われる人になること
――入山さんにとって『天上の花』はどんな作品になったでしょうか。
思い入れはとても強いですね。最初にも話しましたが、芝居に没頭したいという気持ちが高まっていた時期に出会った作品なので、今後、積み重ねていく役者としての経験の一歩になったと思っています。作品のテーマ自体はとても普遍的なものだと思っていて、愛することとか愛に近しい憎しみとか、許したり許せなかったりすることとか、人には理解できないような曖昧な感情を救ってくれるような気がしていてーー。言葉にならないような思いに寄り添ってくれる作品になればいいなと思います。
――女優デビュー18年目となりますが、こんな役者でいたいという理想像はありますか?
入山法子が出てるから面白そうだなとか、観てみたいって思われるような役者になりたいですね。
フォトギャラリー(全4枚)
映画『天上の花』
没後80年「萩原朔太郎大全2022」記念映画。昭和になってすぐ、萩原朔太郎を師と仰ぐ三好達治は美貌の末妹・慶子と出会う。たちまち恋に落ちた達治だったが慶子の母に結婚を拒絶され、失意のなか佐藤春夫の姪と見合い結婚をする。時は過ぎ、朔太郎三回忌で再会した達治は未亡人となっていた慶子に16年4ヶ月の思いを伝え、妻子と離縁し、慶子を家に迎える。東京に空襲が迫りくるなかで越前三国に新居を構えた二人だったが、そこには過酷な生活が待ち受けていた…。原作/萩原葉子「天上の花―三好達治抄―」 出演/東出昌大 入山法子 浦沢直樹 萩原朔美 有森也実 吹越満ほか。脚本/五藤さや香・荒井晴彦 監督/片嶋一貴●‘22年12月9日(金)よりロードショー。新宿武蔵野館、ユーロスペース、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほか順次公開。
【衣装詳細】
ブラウス¥27,500 デニム¥29,700(ともにSINME/www.sinme.jp)
撮影/木村 敦 ヘアメーク/美舟(SIGNO) スタイリング/小川恭平 取材・文/駿河良美 編集/宮島彰子(CLASSY.ONLINE編集室)