【不登校】もし、子どもが「学校に行きたくない」と言ったら?
「不登校YouTuber」ゆたぽんがワイドショーにもとりあげられ、毀誉褒貶ありながらも話題になりました。2018年文科省発表の速報値によると、小中学校の不登校児童生徒数は14万4031人と統計開始以降はじめて14万人を超え過去最多に。私たち世代が小中学生の頃〈登校拒否〉と呼ばれていた時点からみても、〈不登校〉を取り巻く環境は様変わりしました。
「VERY」2019年7月号から「行きたくない」と子どもに言われたママたちの実例や、不登校児を取り巻く現状、多様化している「解決」への選択についてご紹介します。
***** Contents *****
■「学校に行きたくない」と言われたママたちの実例5
■フリースクール「東京シューレ」代表・奥地圭子さん〜不登校児を取り巻く現状は?〜
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「学校に行きたくない」と
子どもに言われたママたちの実例5
◉低学年の娘を連れて職場に行きました
娘が学校に通えなくなったのは小1の頃。一人で留守番させるのも難しく、しばらくの間は有休を使い、実母と交代で娘に付き添っていました。とはいえ、実家は遠方で仕事を休み続けるわけにもいかないので、職場に相談し、娘を連れていくことに。外回りの仕事は同僚に代わってもらうなど協力を得て仕事を続けることができています。娘も大人たちと触れ合うことで、社会の中で過ごすのもまんざら悪くないなと思えたよう。その後、娘は区の支援センターに通えるようになったのですが、開始時間が遅く10時くらいからなので、朝、娘といったん出勤した後、娘だけ職場から電車で支援センターに通うようになりました。(T.Nさん 39歳 団体職員 娘小2)
◉学校が嫌いではない娘。中休みから通うように
友人も多く、勉強も嫌いではないのですが、学校に行けたり行けなかったりと「さみだれ登校」が続き、今では中休みから登校することが多くなっています。いじめなどのはっきりした原因があるわけではないので当初は休ませていいものかと悩みました。連絡帳に「体調不良で……」などと言い訳を書くのも気まずく。幸い担任の先生も校長先生も理解がある方で、娘の希望を尊重してくれますし、クラスの友だちもあたたかく迎えてくれるので今の登校スタイルを続けています。先日は運動会の応援団に立候補したそう。勉強が遅れるのではという心配もありましたが、タブレットでできる通信教材などで自習しているようです。(T.Sさん 35歳 専業主婦 娘小4)
◉息子に付き添い、自宅や学校で仕事をしました
小1の頃から「学校に行きたくない」と言われたものの、仕事もあるので休ませられず。子どもはしぶしぶ通学するようになり、一見、学校に馴染んでいるような印象でしたが、「親も助けてくれないからあきらめた」と後から言われショックでした。その後、不登校に。専門職で比較的融通のきく職場ということもあり、自宅で仕事をし、親の付き添いで通学できるときは学校へ。とはいえ校内に母親が過ごせるような場所の用意がなく、屋外に椅子を置きPCを開いて作業するような毎日。その後、不登校専門の塾や区の支援センターなどで、少しずつ学校に向かう気力や自信を回復させていき、高学年の今では毎日通学できるようになりました。(M.Kさん 39歳 会社員 息子小5)
◉適応指導教室の人数が多すぎて通えなくなり
4年生のときから不登校。大きな原因はいじめと先生の無理解です。学習障害やADHDなどがありみんなと同じことをするのが苦手な息子はいじめにあい、教室に入れなくなりました。ひどい言葉を言われて逆上した息子がものを投げたとき、先生は悪口を言った子どもを叱らず、息子の行動だけを問題視。こういったことが続いたので「もう学校に行かなくてもいいよ」と言いました。適応指導教室に通うことになったのですが、区内の不登校児が増えるにしたがい、年々登録人数が増えていて、集団行動が苦手な息子にとっては元のクラスと変わらない居心地の悪い場所に。区内には人数の少ない不登校児のための拠点も他にあるのでそちらに移ることを考えています。(W.Sさん 39歳 専業主婦 息子小6)
◉勉強に厳しい先生が担任になったことから
区内の適応指導教室に通っています。最近は希望者が多く、登録人数は100人ほど。そのうちの3分の1くらいはコンスタントに通っているようです。人数が増えたため、時間割りも高学年用、低学年用に分かれました。娘はもともと勉強が苦手ですが、クラス替えで担任になった先生は勉強に厳しく、一度提出した宿題に赤字を入れ、やり直させます。そのため毎日の宿題がどんどんたまってしまい、娘にはこなせないほどに。「宿題が終わらないなら校外学習には行けないね」と言われたことがショックで、それ以降仮病を使い学校を休むようになってしまいました。民間のフリースクールもありますが高額なので、増税するならこういうところにも財政支援がほしいです。(N.Nさん 35歳 専業主婦 娘小6)
■フリースクール「東京シューレ」代表・奥地圭子さん〜不登校児を取り巻く現状は?〜
不登校児のためのフリースクールとして長い歴史を持つ「東京シューレ」代表の奥地圭子さん。「不登校児を取り巻く現状は?」「親はどう寄り添えばいい?」「子どものための居場所は?」「進路は?」。不登校児を取り巻く環境の変化についてお聞きしました。
政府は「不登校は
問題行動ではない」と通知
--VERY世代が子どもの頃と今で変化はあるのでしょうか?
かつては、不登校の原因は親が甘いからだ、と家庭のせいにされたり、基礎学力や社会性は家庭では身につけられないだろうと言われ、子どもを早く学校に戻そうとすることが多くありました。しかし、不登校の児童・生徒の数は現在も右肩上がりで増えています。政府は不登校をめぐる政策を見直す必要にせまられ、無理に学校に戻ることにこだわらなくてもいいというスタンスに変化しています。大きなきっかけは教育機会確保法が制定されたことです。政府は「不登校は問題行動ではない」と全国通知しました。学校復帰を促す政策から学校に行かなくても社会的自立を目指せる政策へと方向が変わってきています。
--子どもたちはどんな理由で不登校になるのでしょうか
昔も今も、原因として多いのはいじめの問題ですね。長期休み明けの自殺が話題になっていますが、いじめでつらいから不登校になるのは当たり前のことで、無理に登校すると自殺する子も出てしまう。いじめはもちろんないほうがいいけれど、根絶するのは難しい。いじめのある学校に通い続けるよりも他の選択肢を探したほうがいいという方向にシフトしています。
また「理由のない不登校」というのもよくあること。人間関係もうまくいっているのに行けない。今の学校は部活の朝練、放課後も部活と長時間拘束され、さらに宿題や塾と詰め込まれるので、疲れてしまう子が多いことも原因の一つです。発達障害で、という話もありますが、発達障害が即不登校につながるわけではない。今の公教育はみんなでいっせいに何かをやらせるのがスタンダードなので、いろいろな特性をもつ子どもにとっては、合わせてもらえず、つらいところになりがちなのです。
ネットにより情報へのアクセスが
容易になった、が……
--今のお母さんたちは情報をつかむのも早いですね
今はインターネットがあるので親が不登校について相談できる場所やフリースクールの情報にはすぐにたどりつけるようになりました。それはとてもよいことですがマイナスの面もあるのです。学校でつらいことがあって不登校になった子どもは自信や気力を回復させるまで時間がかかります。学校を休み始めてすぐに「こんな場所があるから行きましょう」と無理やり連れだすのは逆効果。学校にいけない自分はダメなんだとますます自信をなくしてしまいます。「学校に行きたくない」と言われたら、「今まで頑張ってきたんだから休んでもいいんじゃない」とお休みすることを認めてあげることが大事です。「お腹が痛い」「頭が痛い」といって休みたがることもあるでしょう。そういう身体症状が出るというのはかなり強いサインで、休んでいいとなるとホッとして、体調がよくなるケースが多いのです。そこであせって「もう治ったから行けるよね?」と迫るとまたぶり返すということもあります。
--学校の教室以外に通うにはどんな選択肢がありますか
適応指導教室(支援センターなど名称は様々)やフリースクールなど多様な学びの場があります。今はフリースクールに通った日数も学校長の判断で出席日数として認められますし、通学定期券も出ます。日本は国が決める学習指導要領一本ですが、海外では、モンテッソーリやシュタイナー教育に代表されるような多様な学び方を選択できる国もたくさんあります。実際、その子に合った学び方をえらべるほうが長所や個性を伸ばしやすいのではないでしょうか。
子どもが学校に行かないと、自立できるのだろうか、このまま引きこもりになるのではないかと不安になると思いますが、いろいろな学びの方法があるという実例を知っていれば、方法は一つでないと気がつくはず。シューレのホームページでも各界で活躍している卒業生のインタビューを掲載しています。あれほど学校嫌いだったのに、スクールカウンセラーになって毎日のように学校に通っているという人もいれば、いじめでつらい思いをしたから、自分は弱い立場の人を助けられる人になりたいと大学院卒業後国連で難民の支援をしている卒業生もいます。
少子化の今、
大学進学の門戸も広がった?
--今後の進路についても不安が。受験に不利になりますか
少子化で高校、特に私立受験の実情も変わってきています。以前は、出席日数を重視し不登校児を敬遠する私立校も多かったのですが、少子化の今、各校は生徒の確保に必死です。一部の人気進学校などを除きかなり門戸が広がっていますから心配はいりません。通信制の学校や不登校でも入学しやすい都立高校のチャレンジスクールも増えていますから、高校卒業資格を得たいということなら、まず問題はないでしょう。通信制なんて、という方もいますが、通信制は少ないスクーリングと決められたレポートを書けば単位の取れる科目も多く、最短の労力で高卒認定が得られるのがメリット。趣味の時間を確保したいから、とあえて通信制を選ぶ子も。勉強が嫌いだったのに、将来の夢のために進学したいと自ら大学進学を目指すようになる子も多いのです。不登校になってから、昼夜逆転の生活でゲームばかりと心配になる親御さんもいます。今ではバリバリ働いている人の中にも、不登校期間には引きこもってゲーム漬けだった人は多いです。不安になるお気持ちはよくわかりますが、疲れた心を休ませる期間をしっかり取り、お子さんの学びたいという意欲の回復を待つのが一番の近道ですよ。
■学校に戻る、他の居場所へ……。「解決」への選択もいろいろ
学校に戻る、他の居場所へ……。
「解決」への選択もいろいろ
不登校になった後の選択肢は様々、適応指導教室やフリースクールに通う子、自宅で過ごす子、転校する子も元の学校に戻る子もいます。
◉CASE:01
不登校になっても
放課後には友人と遊びます
はっきりとした原因はわからないものの、昨年から「お腹が痛い」と言って学校を休むように。活発な息子は不登校になった今も、放課後には友だちと遊びに行きます。「なんで学校に来ないの?」と聞かれることもあるそうですが、サラリとかわしているようです。同じ小学校に通うお兄ちゃんが宿題を持ち帰ってくれるので、通信教材なども使いながら自宅で勉強しています。適応指導教室などに行く選択肢もあるのですが、日中息子は私から離れようとせず、他の居場所で過ごしたり転校するよりも、元の小学校に戻りたいと言うので今の生活を続けています。(S.Tさん 40歳 自営業 息子小2)
◉CASE:02
学校には通えないが
学童には通えます
友人もおり、学校嫌いではないのですが、HSC(※Highly Sensitive Child 繊細で騒音や他人が叱責される様子などに人一倍敏感に反応してしまう)で騒がしい小学校のクラスでは過ごすことができず不登校になりました。娘は絵を描くことが大好きなので、家では存分に描く時間を作り、時々一緒に美術館などに出かけることも。日記を書く、庭で植物を育てる、一人でお昼ご飯を作ってみるなど、なるべく生活の中で学びにつなげられるようにしています。学校には通えないのですが、学童には通えるので放課後は民間学童へ。他校の子から「学校は?」と聞かれることもあるようですが「行ってないよ」ととくに隠すことはなさそうです。(N.Kさん 37歳 フリーランス 娘小3)
◉CASE:03
理由はわからないものの
「学校に行く」と言うように
2年生くらいから授業中にパニックを起こし、学校から迎えに来るようにと連絡が来ることが増えました。3年の中頃からは毎日のように「休みたい」と言うようになり、4年生のときは1年間ずっと不登校でした。5年生から理由はわからないものの学校に行くと言いだし、通学するようになりました。学校に行かない時期も、児童館の手伝いをさせてもらったり、子ども食堂で食事の準備から参加したり、いろいろな年齢、立場の人が集まる場に参加することは多かったです。そこで改めて感じたのは「学びの場は学校だけではない。自分で選べる」ということですね。(N・Sさん 43歳 自営業 息子小6)
◉フリースクール東京シューレ
1985年、当時は登校拒否と言われた不登校の子どもたちの居場所、学びの場となるようにと開設されたフリースクールのパイオニア的存在。王子、新宿、流山、大田の各校のほか、東京シューレ葛飾中学校、高校、シューレ大学などの系列校がある(※詳細はHPにて。https://www.shure.or.jp/)。フリースクールの対象年齢は小1~23歳(入学は20歳まで)。今年2月には世田谷区が開設した公設民営の支援施設ほっとスクール「希望丘」運営。教育委員会が設置する不登校の子のための教育支援センターだが、2016年教育機会確保法成立を受け、「学校復帰を求めない施設」として開設した。利用は無料で、区内在住であれば公立小中学校在籍者に限らず、私立校に籍を置く子どもも通える。
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■異才発掘プロジェクト「東大ROCKET」が目指すもの
異才発掘プロジェクト
「東大ROCKET」が目指すもの
「学校に行かない」からこそ
できることがたくさんある
不登校の特権を生かした教育をしたいと5年前からROCKETの活動をはじめました。あえて、普段学校に通っている子は参加が難しい平日をメインに活動しています。集まってくるのは学校の枠組みからはみ出したユニークな子どもたち。机にじっと座ってみんなと同じペースで学ぶことが苦手だと、学校では問題児扱いされるでしょう。でもROCKETは人と違う変わったことをしている子どもほど活躍できる場所です。日本財団によれば中学生の不登校は33万人。これは文科省の調査の実に3倍の数字です。10人に1人が不登校ということになる。なぜこういうことが起きるかというと、文科省では30日以上の長期欠席を不登校と定義していて、それよりも短い日数だったり、保健室登校のように教室以外に通う子どもの数をカウントしていないからです。
全国の子どもに
「学校お休み券」を配りたい
私の夢は、日本全国の子どもたちに1週間学校を休めるチケットを配ること。その券を使って堂々と学校を休み、その間は自分の興味のあることをとことん追究できる。そんな世の中を作りたいのです。今年、ROCKETでは「山手線ホームの長さを測れ!」 という課題を出しました。東大生も参戦し、「JRや鉄オタに教えてもらう」「国会図書館で調べる」「現地に行って測る」などチームごとのアイデアで謎を解決しようと挑戦しました。結果はどうなったと思いますか。環状線である山手線のホームはまっすぐではないので正確に計測するのは難しいのですが、優勝は実際に現地に行ったチーム。彼らは公開されていたデータには誤りがあることにも気が付きました。世の中で「正解」だとされていることを鵜呑みにするのではなく、「はたして本当なのだろうか」と疑問に思う心を育てることが真の教育なのではないでしょうか。
褒めるだけではなく
能力を生かすチャンスを作る
私はそのユニークさゆえに学校に馴染めない子どもが無理に学校に通うことで不適応を起こす現状に疑問を感じています。もっと新しい学びの場所と自由な学びのスタイルが必要なはず。今年から、よりたくさんの子どもに参加してもらえるように、プログラムの応募方法を変更しました。これまでも、いろいろな子どもが活躍しています。キノコが大好きで、野生のトリュフを採ってくる子どもがいました。そんな趣味を理解する友だちはほとんどいないんです。でも、「トリュフを10万円で譲ってほしい!」とミシュランに掲載される店のシェフから懇願されていました。価値がわかる人に出会えばすごいと認めてもらえる。ユニークな子どもをただ褒めるだけではなく、その能力を社会に還元していく、仕組みを作りたいのです。
撮影/古本麻由未(東京シューレ分) 取材・文/髙田翔子 編集/フォレスト・ガンプJr.
*VERY2019年7月号「小中学生不登校児童数は14万人越え もし、子どもが『学校に行きたくない』と言ったら……?」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。