不登校の小三の息子がコロナ休校後、学校に通えるように

 

子どもの発達障害、不登校……フルタイムの仕事を辞めた私と
コロナ休校後から毎日学校に通えるようになった息子の9年間【後編】

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前半に続き、「コロナ休校後から不登校の息子が毎日学校に行けるようになったんです」と話す、二児の母のTさん。葛藤の末仕事を辞めることにしたTさんは「人生全体でワークライフバランスが取れていればいい」と話します。お子さんたちの今、そして母親自身のこれからは?

 

お話を伺ったのは…
T.Nさん 40歳・制作会社勤務を経て専業主婦/子ども・小3、年長

 

 

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──保育園では登園渋りが続いていた息子さんですが入学後の様子はいかがでしたか?

 

私が「小学校は義務教育なので、行かなくてはならないよ」と子どもに伝えていたこともあり、1年生の4月5月は毎日通えていたのですが、6月頃から学校に行くのが辛くなり、保健室や相談室、図書室で過ごすことが多くなりました。ただそれを本人から私に言うということは一切なく、担任の先生から初めて聞かされるといった状態でした。これは我が子が自分の気持ちや状況を相手にうまく伝えられないと言った特性からきていたようです。6月以降、あまりにも辛そうな顔をしているので、これは無理に通い続けるのは難しいだろうと感じ、学校以外の場所を探し始めました。

 

──最近は、「子どもが行きたがらないときは無理に通わせない」という考えの方も増えていますよね。あえて「学校に行ってほしい」と伝えた理由はありますか?

 

多くの方は、できるならば、やはり普通に学校に行ってほしいという気持ちがあると思います。学校は勉強するための場所と考えられていますが、それだけでなく、お友達や先生、地域の方々などたくさんの人と出会い、さまざまな経験をする場です。私自身、学校に通ったからこそ、得られたものがたくさんあるので、最初から学校に行く可能性をゼロにするのはもったいないと考えました。教室に通うのがつらく、不登校になったとしても、本人が学校の中で行けそうなところを探して、多少でも学校と関係を持っておくと、何かをきっかけに戻れる時期が来るかもしれません。それからきょうだいどちらかが不登校になると、きょうだいで不登校になるケースも多いと聞きます。下の子は年長の男の子です。長男ほどではないですが、若干凸凹があります。幼稚園生活でも、支度が全くできない、勝ち負けのある遊びを嫌がる、間違いを指摘すると癇癪を起こす等の特性があり、ちょっとした配慮が必要な子です。来年、就学を迎えており、兄弟で不登校になるケースが多いため、長男の不登校に影響されないか不安に思っています。次男は現在、就学相談を受けているところです。

 

──お子さんが教室以外で過ごす場所の選択肢としてどんな所がありましたか?

 

当初は、同じ学校にある固定の支援学級に入れようかと考えていたのですが、知的に問題がないわが子の場合、支援級には入れないと言われてしまいました。そこで、支援センターの相談員の方に何度も相談をして、適応指導教室など他の選択肢をいろいろアドバイス頂いた中で出てきたのが、自治体が独自に運営している不登校向けの“居場所”でした 。
ここはいわゆる適用指導教室と違い、学校復帰を目指す場所ではありません。なので、適応指導教室のように学習をしたり、時間割に沿って活動することなどはありません。この場所を本人も私もとても気に入り、 夏休み明けからここで過ごすことにしました。 ただ、小学校の特別支援教室(情緒障害クラス)に週一で通っていたため、「この時間だけは学校に行こうね」と本人と約束をしていました。これはあくまでも、学校に通っている子のための教室であり、1度不登校になってしまうと制度が使えなくなってしまうのです。本人もそれは理解して、必ず週一回は学校に行くという生活リズムをずっと続けていました。それが1年生の夏から2年生の終わりまでです。

 

コロナ休校後、毎日学校に行けるようになった理由

 

──その後、コロナ休校明けのタイミングで登校するようになったということですが……?

 

3年生に進級するタイミングで、今回のコロナ禍が起こりました。当初は、2年生までと同じように週一の登校日だけは必ず学校に行くという流れで考えていたのですが、休校期間があったことをきっかけに我が子は毎日学校に行くことができるようになりました。学校再開後は、慣らし期間ということもあり1日2時間授業から学校が始まりました。徐々に授業時間が長くなっていくのが我が子に合ったのか、今は学校に行くことが当たり前になりつつあります。ただ、もちろん、今までの“居場所”も彼にとっては必要な場所のため、午前中は学校に行き、午後に“居場所”に行くという生活を送っています。コロナをきっかけに今は学校に通えていますが、それはやはりこれまで学校とずっと関わりがあったから抵抗なく復帰できている、ということと、おそらく本人が成長して学校は行かなくてはならない場所なんだということがようやく認識できたからだと思います。

 

できることなら仕事は続けたかったけれど……

──Tさん自身、共働きでしたが、お子さんのことをきっかけに仕事を辞めるという選択をされます。退職するにあたって葛藤はありましたか?

 

今は共働きの家庭も多くなっていますが、不登校や発達障害などの悩みを抱えたときに子どもに寄り添うということは難しい状況だと思います。私もできるならば働き続けたかったです。経済的にも、自分のキャリア形成という意味でも働き続けたかった。夫は私の退職後も世帯年収をカバーできるよう、好きだった会社を辞めてより年収の高い企業に転職しました。迷いはありましたが、子どもを支えられるのは親しかいないですし、その成長に深く関わるのであれば、幼い時しかないと考えました。例えば、子どもが中学生高校生となった時に私が仕事を辞めてサポートしようと思ってもできることはかなり限られていると思います。保育園、小学校の低学年だからこそ私にできることが多かったのかなとは思います。

 

──今後、育児が落ち着いたら仕事に復帰したいというお気持ちはありますか? お子さんの不登校や発達障害というと、悩んで八方塞がりになってしまう人もいるでしょうが、Tさんは、情報収集したり、解決策を探るのがものすごく得意ですよね。

 

もともとの職業柄でしょうか。新規事業の立ち上げをサポートしたり、リサーチすることも多かったので、悩んでいるよりもロジカルに考えて問題解決したほうが早いと考えるタイプなのかもしれないです。私自身は、子どもがある程度落ち着いた時に、仕事をしたいなとは考えていますが、子どももようやく不登校から抜け始めたばかりで、先が見えないのでしばらくは子育てに専念する予定です。下の子もおり、こちらも発達に課題があるため、下の子の就学をしばらくサポートしていかなくてはならないと考えています。仕事をしたい気持ちもありますが、これまでめちゃくちゃ働いてきたので、30代、40代が家庭重視の生き方になっても、人生全体でワークライフバランスがとれていたらいいかなと、長い目で見て考えるようになりました。

 

──今後のお子さんの進路についてはどのようにお考えでしょうか?

 

長男は興味関心や得意不得意がとても偏っていて、苦手分野がある反面、人より目立って能力が長けたところがあるタイプです。鉄道関連やプログラミングなどの知識・能力はものすごく高く、コンテストなどでも何度か入賞しています。今後は本人の能力を最大限伸ばせるところを探していきたいと思っています。おそらく小学校中学校は義務教育なので、その期間が一番本人にとっては苦しいのではないかなと。逆に高校以降になると通信制の学校も多くありますし、好きなジャンルに特化した学校というのも多く存在するので、以降は本人も生きやすく感じるのではないかと考えています。

 

子どもが「社会と繋がれる場所を増やす」

 

──みんなで同じことを同じ時間に学ばなくてはいけない、という環境でなくなるとお子さん自身も学校が楽しくなるかもしれませんね。いま、不登校などお子さんのことで悩んでいる人に伝えたいことはありますか?

 

ひとつ言えるのは、人生には波があるということです。そして子どもは必ず成長するということ。子どもは成長していくので、今、不登校だったり、学校を嫌がっていても、時間が解決してくれることも多いと思います。不登校だと親も子も苦しいですが、いつまでも続くものではない。いつかはきっと変わるはずと信じて、長い目でお子さんを支えてほしいです。

あとは、学校に限らず本人が行ける場所を増やすことは、親として必要ではないかなと思います。今回のコロナ禍で学校が一時休校になり、学習面もそうですが、対人スキルや社会性が育つのかが一番心配になった方は多いと思います。子どもがどこかで社会と繋がれるという場所を見つけてあげることが唯一、親にできることじゃないかなと思っています。

 

 

取材・文/髙田翔子