多様な価値観を認め合う今の時代の教育に「子どもとアート鑑賞」が役に立つ
<STORY読者の子どもたちに3枚の絵の印象を聞きました>
正解はひとつ、という教育を受けてきた私たちにとって、多様な価値観を認め合う今の時代は戸惑うことがありませんか? だから子どもたちにはもっと能動的な理解の仕方を身につけてほしい。そのためにはアートが役に立つようです。
★ 感じて、話し合って、自分なりの納得を見つける――それが「理解する」 ということ
★ 人によって感じ方はさまざまだということを学ぼう!
「夜のプロヴァンスの田舎道」 フィンセント・ファン・ゴッホ
- 人の顔に見える(小学5年生・女子)
- 針の山みたい。栗。栗が縦に(小学5年生・男子)
- 川に人が流れてる。木が長すぎ(中学1年生・男子)
- 大きな炎があって火事みたい(小学1年生・男子)
- 魂が来たみたい。人の顔にも見えるね(小学1年生・男子)
- 涼しそう。明るい夜(小学5年生・女子)
- 太陽が何個もあってありえない世界。空が渦を巻いていて少し怖い。燃えている炎のような木は、化け物っぽく見えるから人間の欲望?とか表しているのかな?(小学4年生・男子)
- 虫(3歳・女子)
- クリスマスツリーみたい(小学1年生・男子)
- ずっと見てると目が回る。川の上を人と馬車が歩いてる(小学6年生・女子)
「限りない人類愛は全世界を包んでほしい 」 草間彌生
- よく見ると怖いけど、ピンクで怖くなくしてる(小学2年生・女子)
- 死の世界、地獄みたい(小学4年生・男子)
- ちょっと怖い。目とか手とかサングラスみたい(小学1年生・男子)
- 食虫植物! 腸内細菌みたいに点々がたくさんある! オオサンショウウオの卵みたい! 横にギザギザと草が 生えているようで素敵だね!(小学3年生・男子)
- 怖い、半分、鬼滅(小学3年生・女子)
- まつ毛がかわいい(4歳・女子)
- 夕方。家に帰ってるところみたい(5歳・男子)
- 蛇がたくさんいる。怖い。悪魔が目を作り出している(小学5年生・男子)
- 目と手があるので、その人の人生を表していると思う(高校1年生・女子)
- 怖いけど、これ、めちゃくちゃ松本さん(ダウンタウン)に見える。松本さんがいっぱいいて、渋滞させてるみたい。 ぷっしゅん、ぷっしゅん、ってやってる。トイレ、ヤバいことになるかもよ(5歳・女子)
「樹花鳥獣図屏風」 伊藤若冲
- ジャングルで楽しそうな暖かい感じ(小学5年生・女子)
- 昔の絵って感じ。海外のもの?(小学5年生・女子)
- 動物たちが一直線になって人間の世界に向かってきている。環境破壊をした人間への恨みなんじゃないかと思う(小学4年生・男子)
- モンキー(3歳・男子)
- 動物の天国。象、狭苦しそう(中学1年生・男子)
- あ、あれだ! インドの釈迦だ(小学3年生・男子)
- 中国の動物園。動物の中でいちばん強いのは虎だけど、それよりも強い象がいて、周りの動物は象の子分(小学6年生・女子)
- 熊。熊がいないから(5歳・男子)
- 動物の国。描き方が和風に見える(小学5年生・女子)
- 人が泳いでいるみたい! なんで海に動物がいるの?(小学1年生・男子)
http://spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/collection/jakuchu/
★ 感じて、話し合って、自分なりの納得を見つける――それが「理解する」 ということ
東京藝術大学 社会連携センター特任准教授 とびらプロジェクト/ Museum Start あいうえのプロジェクトマネージャ 伊藤 達矢さん
東京藝術大学大学院修了(博士号取得)。専門は美術教育。東京都美術館と東京藝術大学連携のアートプロジェクト 「とびらプロジェクト」「Museum Start あいうえの」マネージャ。小5娘も美術館好き。
子どもたち、面白いですね。そう、いろんな意見や見方があっていい。親は「どうしてそう思ったの?」「何に気付いたの?」と尋ね、対話しながら鑑賞してみてください。聞いてあげることで、言葉にして伝えてみたくなる、そこから“観る”ということが子どもにとっても楽しくなってきます。
意見を発言し合い、対話によって掘り下げることで自分なりに理解できる。美術館や博物館は、学校教育だけでは補えない「多数解」「答えのないもの」に向き合えます。学校はベースの教育です。社会に出ると、「答えのない問題。答えが複数ある問題」に取り組まなければならない。グレーの世界に向き合わないといけない。
物事を理解することは、元々自分の持つ経験に新しく入った知識が融合し、人ははじめて「わかった!」と理解する。自分以外の人の意見を聞きながら、考え方を更新し、自分なりに「納得解」を作っていくことが重要なプロセスなのです。そういったアクティブ・ラーニングを実践していくうえで、対話しながらアートを鑑賞することは、とても意味のあることだと考えています。
◯ 子どものミュージアムデビューを応援 「Museum Start あいうえの」の活動
撮影/吉澤健太 ヘア・メーク/RYO〈ROI〉 取材/東 理恵 ※情報は2021年10月号掲載時のものです。