何十年も変わらない「ヤングケアラー」の悩みを解決するために必要なこととは

本来、大人が担うような介護や家事の責任を負っている子どもは「ヤングケアラー」と呼ばれていますが、日本では、まだ実態は把握しきれていません。子どもであるがゆえに、行政に相談したり、支援を求めたりするすべを知らず、孤独な闘いをしている子どもは少なくありません。今回は、そんなヤングケアラーを見守り、支えようと活動しているみなさんから、お話をうかがいました。

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持田 恭子さん(55歳・東京都在住) ケアラーアクションネットワーク協会代表理事

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何十年も変わらないヤングケアラーの悩みを解決したい。
映像を通じて〝希望に満ちた未来〟 へ羽ばたくきっかけを

ダウン症の兄と情緒的ケアが必要だった母親と共に過ごしていた持田恭子さん。2013年に〝ケアラーアクションネットワーク〟という、ケアラー同士のつながりやワークショップを提供する団体を設立しました。「イギリスに滞在していた頃、F1の会場でダウン症の人たちがチラシを配っていました。当時の日本ではまだダウン症は隠すような存在。公共の場に堂々と出ることはなかったので、驚きました」。その光景が忘れられなかった持田さんは、自分と同じようにダウン症がある人のきょうだいに会いたいと思うように。「日本にできたダウン症の会に問い合わせましたが、〝親の会〟だったので、きょうだいはいませんでした」。そこで自分でホームページを作成し、きょうだいを募集。現在の協会のきっかけとなっています。

協会ではヤングケアラーの支援も行っています。イギリスで行われているヤングケアラー向けのプログラムを日本版にアレンジ。現在は中高生向けの居場所として、オンラインで毎月プログラムを提供しています。「最初はチャットだけで参加している高校生もいましたが、勇気を出して対話することで、周りに自分の気持ちを話せるようになっていきました。自分より若いヤングケアラーのサポートをしたいと言 っています」。

最近は報道やCMによりヤングケアラーについて知る人が増えています。しかし、ヤングケアラーは大変そうで かわいそうな子どもというイメージが広がっていることを懸念してます。「イギリスではヤングケアラーはとても前向きです。ヤングケアラーズフェスティバルが開催されるなど、希望に満ちたプログラムがたくさんあります。日本の中高生にも、家族のケアをしながら、自分の人生に希望を持って羽ばた いていこうというメッセージを伝えたいと思っていました」。そこで自身の経験を元に短編映画を制作。映画制作にあたりヤングケアラーにインタビューをすると、持田さんが高校生だった時の悩みと、今の高校生のケアラーの悩みが一緒だということを知りました。「何十年もヤングケアラーの問題が解決されていないことが分かりました。子どもには物事を解決できる力が備わっていると思います。ただ、経験や情報が足りないので、それを提供してあげる大人が必要です。私たちは力を引き出すだけです。大人がヤングケアラーの応援団になって、共に成長していく環境を作っていきたいです」。

ご自身も兄と母のケアラーだった持田さん。
自身の経験を元に制作された短編映画『陽菜のせかい』は、高校生のヤングケアラーが主人公。「ヤングケアラーとその母親の台詞のやり取りは、当時の私と母の言葉がそのまま使われています」。試写会では出演者たちと共にヤングケアラーについてのトークショーも行われました。
全英からヤングケアラーが集まり、3日間キャンプをする〝ヤングケアラーズフェスティバル〟で折り紙のブースを出した持田さん。
イギリスのヤングケアラーからもらったメッセージ。イギリスはケアラー先進国。
持田さんとお兄さん。
いつも姉と弟に間違えられていたそう。「当時は私はお姉ちゃんじゃない! と言いたくても言えませんでした」。

撮影/BOCO 取材/星 花絵 ※情報は2022年3月号掲載時のものです。

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