学校で他の生徒も快適に過ごせるよう、セクシャルマイノリティであると親子でカミングアウト

女性の社会進出すら遅れている日本の中で、トランスジェンダーたちは自分らしく生きるためにどれだけ苦悩し、つらい経験をしてきたのでしょうか。そして、家族たちはどのような思いだったのでしょうか。LGBTQを本当に理解するためには、そばで支えてきた人たちの声にこそ耳を傾けるべきなのかもしれません。

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Y・Nさん 16歳 /  母・沼倉智美さん 46歳 作業療法士・「ちばLGBTQフレンズ」代表 ともに千葉県在住

2歳で「男の子になりたい」と
訴えていた長女。小学校・中学校では
いろいろありましたが、今は男の子と
して高校に通えるようになりました

沼倉智美さんの長女Yさんは、2歳のときから「男の子になりたい、ズボンを穿きたい」と訴えるようになりました。「幼稚園で男女一緒のトイレを使うようになると、『なぜ自分にはおちんちんがついていないのか』と、毎日泣きながら帰ってきました。ある時は、発表会の衣装で可愛いスカートを穿くのが嫌だと、大泣きしたこともあります」。

そんな姿を見て、男の子として育てた方がいいのかもしれない、と感じた沼倉さん。しかし、すぐに受け入れることはできなかったそう。「はじめは髪の毛を短く切ることもためらってしまって。まずはボブくらいにして、少しずつショートカットにしていきました」。徐々に男の子の洋服を着せるなど、気持ちが変わっていきました。

小学校入学を機に、男の子として育てる決心が固まっていった沼倉さん。「男の子なの? 女の子なの? と咄嗟に言われた言葉に傷つくこともありました。また、トイレに行きづらくなり膀胱炎になってしまったことも。この子を守れるのは家族しかいない。学校や周りの人に受け入れてもらえる努力をしようと決意しました」。

Yさんだけではなく他の生徒も快適に過ごせるよう、カミングアウトしようと決意した沼倉親子。Yさんは小学校1年生のときから、クラスが変わるたびに自らの言葉でクラスメイトに話をしています。沼倉さんは保護者会で、セクシャルマイノリティについて家庭で話してほしいと伝えました。その甲斐もあってか、友達やママ友に恵まれた学校生活を送ることができたそう。

中学では制服を着用する必要があるため、学校に男子生徒の制服を着たいと交渉した沼倉さん。「学校を通して教育委員会に話をしてもらったのですが、前例がないからと断られました」。その後も掛け合ったものの、受け入れてくれませんでした。しかし、困っている沼倉さんの話を聞いた市議会議員を通して交渉してもらうと、すぐに快諾。「嬉しいと同時に、悔しい思いもあって。私一人の行動では何もできなかったので、団体を作る必要性を感じました。また、同じ悩みを抱えている人同士が、フランクに相談できる場がほしいと思い、ちばLGBTQフレンズを立ち上げました」。

現在高校2年生のYさん。胸が大きくなり、生理が始まったことで苦しんだ時期がありました。Yさんは、自分と同じ思いをしている子どもに寄り添いたい、と教師を夢見ています。沼倉さんのちばLGBTQフレンズの活動を応援し、一緒に交流会に参加しています。「男の子として産んであげられなくてごめんねと、申し訳ない気持ちになったこともありました。今ではYはYらしく、好きなことを大切にして、自分の意思を尊重して生きてほしいと願っています」。

ちばLGBTQフレンズでは、トランスジェンダー当事者やその家族、サポートしてくれる人たちがフランクに情報交換や悩みを話す場として、交流会を開催しています。
嫌がりながら制服のスカートを穿いていた幼稚園の頃。
外では徐々に男の子の服を着せていました。
小学校の卒業式では袴を着て参加し、中学では念願の学ランを着用しました。

妹と弟からは「おにい」と呼ばれているY・Nさん。高校では写真部に所属。男女共に友達が多く、楽しく過ごしています。

<編集後記>わが子やクラスメイトがもしカミングアウトしたら……

やっと会話ができる2歳から自分の意思を伝えていたことに驚きました。その思いを少しずつ受け入れながら、子どものために行動を起こした沼倉さん。学校との交渉では、心ないことも言われた一方で、理解ある先生のおかげで沼倉さん自身が助けられたこともあったそう。当事者だけではなく、周りの理解や知識が進むといいですね(ライター 星 花絵)

撮影/BOCO 取材/星 花絵 ※情報は2023年5月号掲載時のものです。

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