【映画ライターの年末映画案内】ため息が出るようなグルメと大人の恋愛が堪能できる『ポトフ 美⾷家と料理⼈』
『青いパパイヤの香り』『ノルウェイの森』などのトラン・アン・ユン監督がジュリエット・ビノシュとブノワ・マジメルを主演に迎え、料理への情熱で結ばれた美食家と料理人の愛と人生を描いた『ポトフ 美食家と料理人』。12月15日(金)より全国順次公開です。
2023年・第76回カンヌ国際映画祭で最優秀監督賞を受賞したフランスのグルメ映画について、見どころを紹介します。
目次
- 『ポトフ美食家と料理人』あらすじ
- 【見どころ①】長回しの調理シーンにひたすら見入ってしまう
- 【見どころ②】食を通してつながる大人の恋愛模様
- 【見どころ③】最小限のサウンドで感性を研ぎ澄まさせてくれる
- 作品情報
『ポトフ美食家と料理人』あらすじ
1885年、フランス。〈⾷〉を追求し芸術にまで⾼めた美⾷家ドダン(ブノワ・マジメル)と、彼が閃いたメニューを完璧に再現する料理⼈ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)。⼆⼈が⽣み出した極上の料理は⼈々を驚かせ、類まれなる才能への熱狂はヨーロッパ各国にまで広がっていた。
ある時、ユーラシア皇太⼦から晩餐会に招待されたドダンは、豪華なだけで論理もテーマもない⼤量の料理にうんざりする。〈⾷〉の真髄を⽰すべく、最もシンプルな料理〈ポトフ〉で皇太⼦をもてなすとウージェニーに打ち明けるドダン。だが、そんな中、ウージェニーが倒れてしまう。ドダンは⼈⽣初の挑戦として、すべて⾃分の⼿で作る渾⾝の料理で、愛するウージェニーを元気づけようと決意するのだが……。
【見どころ①】長回しの調理シーンにひたすら見入ってしまう
過去の作品でも食事や調理描写にはこだわってきたトラン・アン・ユン監督。今作では三ツ星シェフのピエール・ガニェールの監修による料理が数多く登場します。
調理シーンは1台のカメラによる長回しで、いくつものメニューが完成するまでライブ感あふれるキッチンの様子が映し出されます。流れるような一連の手作業から魔法みたいに美味しそうな料理が次々と完成し、ひたすら見入ってしまいます。
冒頭、ウージェニーは畑で野菜を収穫し、朝から魚の肝を使ったオムレツをつくって食べた後は、ドダンが美食仲間を招いた午餐会の準備に取りかかります。
魚や鶏をさばき、野菜を刻んでフライパンで炒め、ザリガニや丸ごとレタスを鍋でゆでる。大きな鍋にバラ肉、ベーコン、赤ピーマン、トマト、オレンジ、マッシュルーム、ワイン、そしてフェンネルやタイムなど数々のスパイスを加えて煮込む。骨付きの仔牛肉とアーティチョークをオーブンで焼き、丁寧にこしたソースをかけてまたオーブンへ。立派な舌平目はレモンとハーブのソースにひたして窯焼きに。あー、画面から香りが漂ってきそう!
何て手の込んだ料理なんだろう。どんな味がするんだろう。想像しているうちに完成した料理を美食家たちが「うーん!」とため息をもらしながら満足気に食べ始め、観ているこちらもため息が。このシーンだけですでに19世紀フランスの美食世界に引き込まれてしまいます。
【見どころ②】食を通してつながる大人の恋愛模様
美食の世界と並行して描かれるのが、ドダンとウージェニーのパートナー関係。ウージェニーはドダンのもとで20年働き、彼が考案したメニューを完璧に再現するばかりか時には想像を超えるひと皿をつくり出してきました。二人は互いを高め合うと共に愛し合ってもいますが、プロの誇りと自由を愛するウージェニーは、ドダンの求婚を断り続けています。
互いを認め合う落ち着いた大人の恋愛で、直接の官能的なシーンがあるわけではないにも関わらず、ウージェニーのふとした仕草や、またドダンが料理の説明をしている姿からも艶っぽさを感じます。そういえばジュリエット・ビノシュは『ショコラ』(2001年)でチョコレートをつくって食べているシーンからすでに色っぽかったことを思い出しました。
ただ、二人の関係はずっとそのままというわけにいかず……。食を通して描かれる、大人の恋愛模様にも注目です。
【見どころ③】最小限のサウンドで感性を研ぎ澄まさせてくれる
たっぷりと目から美食を楽しませてくれる作品ですが、その分サウンドトラックは最小限。調理シーンも食事シーンもリアルな音を生かすため、エンディング近くにピアノ曲が流れる以外は劇伴が流れません。
調理中は肉が焼ける音、バターが焦げる音、包丁がまな板に当たる音、スープをこす音。食事中にはナイフやスプーンがお皿に当たる音、パイ生地がサクッと切れる音、ワインを注ぐ音。さらには風の音、鳥のさえずり、虫の羽音まで聞こえてきます。自然と感性が研ぎ澄まされ、19世紀フランスグルメと円熟した恋愛模様が堪能できる作品、ぜひ大人の女性にこそ観ていただきたいです。
取材・文/富田夏子
作品情報
『ポトフ 美⾷家と料理⼈』
12 ⽉15 ⽇(⾦) Bunkamura ル・シネマ 渋⾕宮下、シネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほか 全国順次公開
- 監督・脚本・脚色:トラン・アン・ユン
- 出演:ジュリエット・ビノシュ、ブノワ・マジメル
- 料理監修:ピエール・ガニェール
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