【映画ライターの年末映画案内】役所広司が“演じている”ように見えない『PERFECT DAYS』は余韻がいつまでも続く

映画パーフェクトデイズ場面写真

ドイツの名匠ヴィム・ベンダース監督の最新作『PERFECT DAYS』が12月22日(金)より全国公開中です。東京・渋谷を舞台に、トイレの清掃員の男が送る日々を描いたヒューマン・ドラマ。主演の役所広司さんが2023年・第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞し、公開前から話題になっています。

「おもしろい」と一言で片づけることはできない今作の見どころを紹介します。

目次

  • 『PERFECT DAYS』あらすじ
  • 【見どころ①】あるトイレ清掃員の日々の積み重ねを描く静かな作品
  • 【見どころ②】完全に「平山」として作品の中で生きる役所広司がすごい
  • 【みどころ③】観終わってからもじわじわと余韻が続く
  • 作品情報

『PERFECT DAYS』あらすじ

映画パーフェクトデイズメインカット

東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、静かに淡々とした日々を生きていた。同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いた。いい加減な同僚の清掃員タカシ(柄本時生)は愚痴が多いが憎めず、時々出会うホームレスの男(田中泯)が気になっている。

平山は木々を愛し、木々がつくる木漏れ日に目を細め、フィルムカメラでその写真を撮るのが好きだった。休日には写真を現像し、なじみのママ(石川さゆり)の店で酒を飲む。その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、同じ日は1日としてなく、平山は毎日を新しい日として生きていた。

そんな平山の前に姪のニコ(中野有紗)が現れる。平山の日々に思いがけない出来事が起き、それは彼の過去や今を小さく揺らした。

【見どころ①】あるトイレ清掃員の日々の積み重ねを描く静かな作品

パーフェクトデイズ場面写真

下町の古いアパートで早朝、近所の老婆が掃除する竹ぼうきの音で目覚める平山。薄い布団を畳み、読みかけだった本を片づけ、洗面所で顔を洗って歯を磨く。ひげを整え、育てている小さな木々に水をやり、作業着を着てタオルを巻く。玄関に規則正しく並んだ車の鍵や小銭、ガラケーをポケットに入れて部屋を出る。

自動販売機で缶コーヒーを買い、古い車に乗り込んで仕事に出かける。BGMはカセットテープから流れる懐かしい洋楽。

パーフェクトデイズ場面写真

建築物としても知られる風変りな渋谷の公衆トイレを何カ所か回って念入りに掃除をし、夕方仕事を終えると店を開けたばかりの銭湯へ出向く。地下街にあるなじみの居酒屋で「いつもの」酒とつまみを飲んで食べる。帰宅して布団を敷き、文庫本で昨夜の続きを読みながら寝落ちする。翌朝も竹ぼうきの音で目覚め、新しい一日が始まる。

映画パーフェクトデイズサブカット

長々と説明しましたが、このように平山の日常をカメラが淡々と丁寧に追い、スクリーンの中で静かに時間は流れていきます。仕事の日、休日、それぞれのルーティンがあり、画面からは平山が規則正しく生活することを楽しんでいる様子が伝わってきます。

ただ、誰もが生きていてまったく同じ日というのはないように、平山が過ごす毎日も同じようでいて同じではありません。大事件というほどではなくても、思いがけない出来事だってあります。

ささやかな変化やいつも会う人との交流があり、つつましく暮らす平山の様子は本当に幸せそうで、美しくてかっこいい。トイレが美しくなっていく様子も相まって、心が洗われるような気分になります。

【見どころ②】完全に「平山」として作品の中で生きる役所広司がすごい

映画パーフェクトデイズ場面写真

主演の役所広司さんは、この作品で第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞しました。これは日本人としては柳楽優弥さん以来19年ぶり2人目の快挙。授賞式で「やっと柳楽くんに追いついたかな」とスピーチしたのは有名です。

『PERFECT DAYS』を観ていると、役所さんが平山を演じているように見えなくなってきて、平山そのものとなってありのままの姿でカメラの前で生活しているかのようでした。

ヴィム・ヴェンダース監督 ©Peter Lindbergh2015

ヴィム・ヴェンダース監督 ©Peter Lindbergh2015

実際に撮影中、ヴィム・ヴェンダース監督は撮影が始まる度に「平山に会いに行こう」と言っていたそうですし、ドキュメンタリーのように撮ることを目標としていたそうです(プレス資料より)。かなり高度で難しいことを自然体でやってのける役所広司さんのすごさを、改めて思い知る作品です。

【みどころ③】観終わってからもじわじわと余韻が続く

映画パーフェクトデイズ場面写真

物語は平山の姪が登場してから少し動き出しますが、映画の中で彼の過去はぼんやりと想像できる程度ではっきりと明かされません。なぜトイレ清掃員をしているのか、今のような暮らしをしているのかもわからないままです。

でもラストシーンの平山の顔を見ると、彼は続けられる限りこういう日々を過ごしたいんだな。誇りを持って仕事をし、つつましく生きることが幸せなんだな、と想像できます。いつまで続くかわからないし、自分が知らない世界もあるだろうけれど、自分はこの世界を、毎日を生きていくんだ、という覚悟を感じてじんわり感動が広がりました。

試写会で観終わって2カ月以上経った今でも、この映画のことに触れるとじわじわと余韻が続いているように感じますし、そのくらい心に残る作品でした。ぜひ劇場で観て、それぞれの余韻を味わってください。

取材・文/富田夏子

作品情報

パーフェクトデイズポスター

『PERFECT DAYS』
TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中

  • 監督:ヴィム・ヴェンダース
  • 脚本:ヴィム・ヴェンダース、 高崎卓馬
  • 製作:柳井康治
  • 出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和
  • 製作:MASTER MIND
  • 配給:ビターズ・エンド

ⓒ 2023 MASTER MIND Ltd.

公式サイト perfectdays-movie.jp