阿部サダヲさん(54)業界人のみならず家族の食いつきに驚き「娘に『不適切!』と注意されるようになりました」
コミカルでキレキレなキャラクターから、冷酷な殺人鬼、はたまた温厚でチャーミングな好人物まで、見事に演じて魅せる阿部サダヲさん。ドラマ『不適切にもほどがある!』の主人公・小川市郎役も大好評だった、狂気と愛嬌と色気を併せ持つ稀有な俳優が、舞台『ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-』に出演します。2作品についてのお話を中心に、演じる仕事の面白さや家族のこと、40代から50代にかけての変化などについて伺いました。
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家族も楽しみにしていた『不適切にもほどがある!』
阿部さんが主演を務めた今年1月期の連続ドラマ『不適切にもほどがある!』は、“体罰上等”だった1986年の中学校の体育教師・小川市郎が、コンプライアンス重視の令和の時代にタイムスリップし……という痛快作。親子の情愛を軸に、昭和と令和という二つの時代を笑いたっぷりに描きながら“本当に大切なことは何なのか”を問いかけ、終盤のミュージカルシーンも含めて毎回大きな話題を呼びました。
「世の中全体の反響は僕にはよくわからないですけど、業界の人たちの反応は、今までで一番大きかったかもしれないです。放送中、別の現場に行くとだいたい『不適切~』の話をされるので、皆さん毎回観てくださっているんだなあと感じました。世代が一緒の人や先輩たちに『観るとスッキリする』っていうふうに言ってもらうことも多くて、高田文夫さんには『よくやった』みたいなことを言っていただいて嬉しかったです。まあ、僕が書いたわけじゃないですけど(笑)。あのミュージカル仕立てになるところは、クレージーキャッツの映画から来ているらしいです。セリフにすると恥ずかしくなりそうなことを歌っちゃうって、すごくいいなと思いました」
様々な規制の中で作品づくりをしている業界人のみならず、阿部さんのご家族も毎週放送を楽しみにしていたようです。
「びっくりしました。いつもサークルとかバイトで出かけている娘が、放送がある金曜日の夜10時には家にいるんですよ。そんなことは今までなかったので、こっちは、どうした、どうした!? という感じで(笑)。観終わると、何かしら質問をしてきたり、TVerやNETFLIXでもう1回観たりしてましたね。そういえば、僕が何か適当なことを言うと、『不適切!』って指摘するようにもなりました(笑)。もともとレトロなものがちょっと流行っていたこともあるんでしょうけど、息子のほうも昭和に興味が湧いたみたいで、レコードを買ってプレイヤーで聴いていたり。今思うと、面白い時代ですよね。飛行機でも喫煙できて、どこへ行ってもタバコ臭いのが普通だったなんて、今では考えられないです(笑)」
歌舞伎町つながりで面白いなと思っています
ちなみに脚本は、阿部さんと同じ「大人計画」に所属する売れっ子、宮藤官九郎さん。阿部さん主演の映画『謝罪の王様』やNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』などの脚本も手がけています。そして個性派俳優が揃う「大人計画」を主宰するのは、やはり作家・演出家・俳優として活躍している松尾スズキさん。一つの劇団に、幅広く活躍する作家・演出家が複数名いるのは珍しいことです。
「確かにそういう劇団は、なかなかないかもしれないですね。松尾さんや宮藤さんの作品があるおかげで、僕はいろんな映像の仕事をしながら毎年舞台もやらせてもらえて、本当にありがたいです。実は大人計画の事務所には、細川徹という作家・演出家もいて、7月には明治座の松平健さんの舞台(『松平健芸能生活50周年記念公演』)の作・演出をやるんですよ。僕も聞いてびっくりしたんですけど。宮藤さん脚本の新しいドラマ(『新宿野戦病院』)も7月に始まるので楽しみです。歌舞伎町が舞台のドラマらしいので、不思議な歌舞伎町つながりで面白いなと思っています」
毒と哀切にまみれた怒涛のダークエンターテインメント
その歌舞伎町に昨春オープンした劇場で7月に幕を開けるのが、阿部さんが出演する『ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-』。1991年に初演され、98年、2012年と上演を重ねてきた松尾スズキさんの代表作で、今回は台本からリニューアルしての上演となります。薬剤によって身体に障がいを持って生まれた少年“フクスケ”を巡って、歌舞伎町を舞台に毒と笑いたっぷりに展開する、哀しくも美しい怒涛のダークエンターテインメントです。
「僕は98年と2012年の公演には出ていますけど、オーディションを受けて大人計画に入ったのが92年なので、91年の初演は観ていないんです。今回出演する松本穂香さんの世代では、たぶんまだ生まれてもいない頃に書かれた話なのに、全然古臭く感じないというか、逆に今のほうがリアルに感じるんですよね。『なんかいるよね、こういう人』って感じる人たちがたくさん出てきて。僕自身、役が変わったし、新しい出演者が増えたり、松尾さんがいろいろリニューアルしているので、稽古をしていてもすごく新鮮です。前回から12年経っていて結構忘れているというのもあるんですけど(苦笑)、オープニングは前と全然違うし、音楽が新しくなって劇中曲の印象もだいぶ変わりました。三味線奏者の山中(信人)さんという方がミュージシャンとして入るので、和のテイストも加わってます。内容的にも、今回はコオロギとサカエの話がクローズアップされている感じです」
演劇だからできる世界を思いっきりやれたら
98年と2012年公演でフクスケを務めた阿部さんは、今回コオロギを演じます。フクスケが入院する病院の警備員で、盲目の妻サカエに歪んだ愛情を抱く怪しい男です。98年公演で松尾さんが演じるのを見て、阿部さんは、やってみたいなと思っていたとか。
「昔から松尾さんの作品は、それぞれの役に何かしら光が当たるというか、見せ場があるものが多くて。どの役も面白いんですけど、中でもコオロギには“何にも縛られていない自由な人”みたいなイメージがあって、いいなと思っていたんです。でも実際にやってみると難しい(苦笑)。どうにでもできるというか、やってることが場面、場面で変わっちゃうようなところがあって、感情もめちゃくちゃで。ただ、コオロギに対する愛着は少し湧きました。前はフクスケの目線でしか台本を読んでいなかったから、コオロギを見ると“嫌な人来ちゃったな”と感じていたんです。サカエも含めて、面倒くさい人たちだなって。それが今回よくよく台本を読んでみると、なんだか救いのない可哀想な人たちだなと思えてきて。黒木華さんのサカエがまたいいんですよ。結局コオロギは、誰からも愛されていない、誰かにすがりたい、愛されたい人なんだなと感じています。悪い奴だけど、でも実はサカエのことが好きなんだっていうところは大事にしたいですね」
ちなみに今回フクスケを演じるのは、岸井ゆきのさんです。
「岸井さんは少年ぽさをイメージできるというか、すごくいい感じのフクスケになっていると思います。びっくりしたのは、この間、フクスケとコオロギのシーンの稽古をした時に、セリフで『誰だ?』って聞かれて、僕、コオロギをやってるのに『フクスケ』って言っちゃったんですよ(笑)。どこかに何か染みついているんですかね。ちょうど都知事選もありますし、新興宗教が出てきたりもするので、お客さんにも結構リアルに感じてもらえるところがあるんじゃないかと思います。というか、今じゃ逆に、現実の方がすごいことになっている感じですよね。テレビ的には“不敵切”な表現もたくさん出てくる作品です。演劇だからできる世界を、思いっきりやれたらなと思います」
COCOON PRODUCTION 2024
『ふくすけ2024-歌舞伎町黙示録-』
盲目の妻サカエに歪んだ愛情を抱く警備員コオロギが務める病院に、ある日、薬剤被害で身体に障がいを持って生まれ、製薬会社の社長に監禁されて育った少年フクスケが保護される。一方、北九州から上京したヒデイチは、コズマ三姉妹が勢いを増す歌舞伎町で、ホテトル嬢フタバと自称ルポライターのタムラとともに、14年前に失踪した妻マスの行方を追い……。
作・演出:松尾スズキ 出演:阿部サダヲ、黒木 華、荒川良々、岸井ゆきの、皆川猿時、松本穂香、松尾スズキ、秋山菜津子 ほか
2024年7月9日~8月4日:THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)
8月9日~15日:ロームシアター京都メインホール
8月23日~26日:キャナルシティ劇場(福岡)
阿部サダヲ
1970年、千葉県生まれ。1992年より大人計画に参加し、同年、舞台『冬の皮』で俳優デビュー。パンクコントバンド「グループ魂」では“破壊”の名でボーカルを務める。数々の舞台、ドラマ、映画、CMなどで活躍し、2007年の初主演映画『舞妓Haaaan!!!』で日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞したのをはじめ、受賞も多数。最近の主な出演作は、ドラマ『広重ぶるう』、映画『シャイロックの子供たち』、舞台『もうがまんできない』など。また、映画『ラストマイル』が2024年8月23日より、『十一人の賊軍』が11月1日より公開予定。
撮影/沼尾翔平 ヘア・メーク/中山知美 スタイリスト/チヨ 構成・文/岡﨑 香
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