【27歳の最注目文筆家&モデル】伊藤亜和「Amazonレビューも読むし、エゴサもめちゃくちゃします」

今、話題の新人作家・伊藤亜和さんはJJ世代の27歳。昨年、noteに書いた文章が“バズり”、今や各所からオファーの続く人気者に。文章が面白いだけではなく、現役モデルとしても雑誌の表紙も飾るという活躍を見せ、その裏ではバニーガールのアルバイトも続けるという、独自の感性を持ち合わせている亜和さん。そんな彼女の素顔に迫ったインタビュー前半、スタートです。

伊藤亜和(いとう・あわ)

文筆家。1996年横浜市生まれ。学習院大学(文学部・フランス語圏文化学科)卒業。noteに掲載した「パパと私」がXでジェーン・スー氏、糸井重里氏などの目に留まり、バズり、一躍時の人に。各エッセイの連載やラジオなどで、物事を独自の視点で表現している。

デビュー作は「ある女の体験記」みたいな一冊です

――デビュー作の『存在の耐えられない愛おしさ』、著者さんから説明するとどんな一冊ですか?

伊藤亜和(以下、亜和):(ゆっくりとした口調で)愛について、とか格好つけたことを思ったんですけど……。ある女のおもしろ体験記くらいに思ってもらえたらうれしいです。「あ、この人、こんなことがあったんだ」くらいに思ってもらえたら。説教くさい本って、読みたくないじゃないですか。

――重版もかかり、ヒット作となりました。「売れたな〜」と実感することはありますか?

亜和:読んでくださっている方がいるのは、SNSとかで分かるんですけど、どのくらいの規模なのかが分からなくて……。でも初めて会った方が「山口(書籍内に登場する、亜和さんの親友)がね」と、普通に話してきてくれるので、実感することはありますね。

――ご家族のことを中心に書かれています。同居中のおじいさん、おばあさん。それから近所に住むお母さん、弟さんにはなにか言われました?

亜和:特に何もないですね(笑)。そもそも意見交換をする文化が我が家にはないので、書いたところで反応はないな、と思っていました。母親は読んでくれたみたいですけど、それについてどうのこうの言う人でもない。

祖母からは山口の話について「友達の悪口を書くのはやめろ」と言われました(笑)。多分、祖母とは“友情”の感覚が違うんですよ。祖母には(自分にとっての)山口みたいに、気を遣わず、素のままで接するような友人がいないように感じます。昭和初期生まれで、家庭第一で生きてきた人だから、私みたいに山口に辛辣なことを言って成立する関係性を理解できないのかもしれません

――あの表現は山口への愛情でしたよね?

亜和:愛情っていうと……冒頭の、なんだか不本意なのでまた違うんですけど(笑)。

 

Amazonレビューも読むし、エゴサもめちゃくちゃします

――亜和さんはnoteがバズったことがきっかけで、文筆家になった。バズるって、運が大きく関係していると思うのですが、バズった当時に何か心がけていたこと、ありますか?

亜和:当時、私はいろんな場所へ1人でガンガン出かけていました。旅に出るほどではないけど、知らないバーに入ったり、変な人について行ったり。

――変な人?

亜和:例えば本に書いた、一緒に焼き肉を食べていた人なんですけど。画家のおじさんなんですよ。モデルをしてバイト代をもらっている関係で、たまに触ってこようともする。その度にキツく拒否して。「あ、ごめん、ごめん」と言われて。聞くだけでも危ないですよね。でも当時、そういう経験値が溜められたから今があるのかな、という思いもあります。実際、そういう話を書いて、皆さんへの注意喚起にもなったから、それは得したかもしれません。

――無事で良かったです……。他には?

亜和:そういえば小説家の朱野帰子さんが書いた、『急な「売れ」に備える作家のためのサバイバル読本』を読んでいました。

――売れる予兆があったんでしょうか?

亜和:「もうすぐ売れる気配がするぞ」っていうことはなくて。もし売れるとしたら、落ち着いていられるようには準備していたんでしょうね。

――結果、取材も増えましたよね。

亜和:人前に出るのが好きなんです。もちろん、リスクはあって、悪く言われたり、チヤホヤされたりとあります。でも自分の話をされるのがとにかく好きなんです。こういう取材を受けている時もそうですし、SNSで悪口書かれていても平気。それらを読んでいるのも好きです。

――嬉しそうですね(笑)。

亜和:はい(笑)。

――エゴサもします?

亜和:めちゃくちゃします。Amazonのレビューも全部読みます。誹謗中傷をされて気にしないわけではないけど、傷つくことはないタイプです。不健康かもしれないけど(嫌なコメントをしてくる人が)なぜこの考えに至ったのかを、考えるのが好きなんです。言い返すまでは行かないけど、どう反論するかは考えますね。

――反論だから論破するわけではないですよね?

亜和:論破ではないです。この人には何を言ってあげれば、誤解だと分かってもらえるのかを考えます。それが文章になっているので。

 

ディスってくる人たちとも向き合います

――今、文筆以外にもモデルの仕事もして、以前は俳優も目指していたそうですね。今後何かやってみたいこと、ありますか?

亜和:俳優はまたトライしてみたいと思います。ただ、今の日本のドラマはなんかおかしいんです。私みたいなハーフとか、”普通”とは違った容姿の人だと、役どころがだいたい「謎の女」「敏腕秘書」とかミステリアスな雰囲気を漂わせている人ばかりなんですよ。例えば冨永愛さんが、デビルマンの役をしているとか。

――ああ、分かります。

亜和:そういうキャスティングではなくて、できれば物語の本編に関わるような役がいいです。今までになかったことを開拓していきたい。あと最近よく言っているのが『ドラえもん』の映画ゲスト声優に抜擢されたい。

――そういうふうに希望を口に出されるのは“言霊”を信じていらっしゃる方ですか?

亜和:はい。最初は抵抗があったけど、note に「仕事が欲しい」と一行だけ書いてみたら、口にも出せるようになりました。大事ですよ、言霊。

――ずっとお話を聞いていると亜和さんは、ものすごく度胸があると思います。危険そうだなと思っても、一旦は行ってみる。それはいつから身についたものでしょうか?

亜和:幼い頃はそんなことなかったんですけど、きっかけは『2ちゃんねる』です。私、ハーフだから色々と誤解されることが多かった。その度に「なんだ、こいつ」と思っていたんですけど、その怒りが興味に変わった瞬間があったんですよ。で、自分でスレを立ててみたんです。「ハーフだけど質問ある?」って。

――スレの反応はどうでしたか?

亜和:「キモい」「死ね」「臭い」と散々な反応でした。そこにひとつずつ応えて、書き込みました。そしたら次第に「面白いやつだな」と反応が変わってきた。なんだ、ちゃんと向き合って話せばよかったんだなって、思いましたね。それが今につながっています。私みたいな方法は不健康だからお勧めはしませんけど(笑)、いつもと違うことをする。一つハードルを飛び越えるのは、新しい世界が広がると思います。

インタビューは後編に続く。

 

存在の耐えられない愛おしさ/1,500円(税別)/(株)KADOKAWA

バズったnoteの記事「パパと私」はもちろん、各媒体での連載記事、自身の半径5メートル以内にある家族、友人、バイト、旅行……など、日々の出来事を独特の文調で綴った、読み応えと共感心あふれる一冊。本作にてエッセイデビュー。

撮影/まくらあさみ 取材/小林久乃 編集/齋藤菜月