松山ケンイチさん『廃棄される皮を革へ』里山暮らしで心動いた“宝もの”とは?

俳優として活躍する、松山ケンイチさん。2022年から、妻である小雪さんとともに、捨てられていく資源をアップサイクルするプロジェクト「momiji(モミジ)」を始動させています。家族で東京から里山へと移住し、農業に携わりながら山の生態多様性にも目を向けている松山さん。「momiji」立ち上げの背景や、二拠点生活の中で心高鳴らせる瞬間など熱い思いを語っていただきました。

里山の暮らしから見えてきたこと
進む道を教えてくれた運命の出会い

──「momiji」を始めたキッカケは、なんだったのですか?

鹿、熊、猪……、日本にはいろんな野生動物がいますが、時にその数が増えてしまったり環境の変化などで動物が畑の作物を食べてしまったりして、何十億、何百億円という規模で農林業へ被害を与えていることを知ったことが、直接のキッカケです。その被害を防ぐため、野生動物の個体数調整として有害鳥獣捕獲の取り組みが全国各地で行われています。この対策によって出た鹿肉を食べた時の感動が、大きなキッカケになりました。スーパーで売っている肉とは違う、いろんなストーリーを知ったんです。

鹿を仕留めてその肉を食べる行為は、自然から命をいただくこと。自分たちが生きていくために必要なものを、最初から最後まで知ることができたような気がしたんです。

──「momiji」の活動は、どのようなことからスタートされたのですか?

有害鳥獣として捕獲された鹿肉は食べることができるけれど、鹿皮は使えずに処分されているという現実です。そこで、仕留めた命のすべてを、無駄にすることなく活かす方法はないのかと考えました。色々探していくうちに、鹿皮を鞣(なめ)してくれる製革業者(タンナー)に出会い、皮が革(レザー)に仕上がったのをみて、日本でもこういうことができるんだと、感動したんです。

そして、もったいないものを、なんとかしたいという思いから「momiji」のプロジェクトが始まったんです。ハンターやタンナーの仕事が減っているという事実もあったので、命のサイクルを活かそうと働く人たちの生きる糧にもなるのではないか、という思いもありました。

──個人的な活動だった「momiji」は、その後どのように広がっていったのですか?

個人のハンターだったら、狩猟をしたその場で解体をして、皮はそのまま土の中に埋めることで自然に還っていくという循環ができるんですが、解体場から出た皮は全部、産業廃棄物として焼却処分になってしまうので、できる限り、解体場から廃棄されるはずの皮を引き取っています。

──引き取った皮を本革にして、松山さんが商品をデザイン・プロデュースしていくのですね?

引き取った数百枚単位の皮をきちんと製品に変えることで、より多くの方に使ってもらいたくて、鹿革の帽子や今日着てるレザージャケットなどを作っています。メーカーさんには、鹿革そのものを販売したりもしています。

狩猟で捕獲された「momiji」の鹿革を使って制作された、ライダーズベスト。着込むほどにやわらかく身体になじみ、味わいが生まれる。

「もったいない」からはじまった
日本中の“宝もの”探し

──日本全国の「もったいない」に目を向けると、たくさんの可能性がありますよね。最近は、どんな取り組みをされているのですか?

今回は「シマデニムワークス」とコラボして、沖縄県のサトウキビを精製するときに搾りカスとして出る「バガス」という端材を主原料にしたデニムを発表します。沖縄県内でも年間20万トン発生するバガスは、有効活用しきれていない状況でした。このバガスをパウダー状にし、日本古来の技術で和紙に変え、さらにそれを細かくスリットし撚り合わせて作った和紙糸から、デニムが作られているんです。

「シマデニムワークス」とのコラボにより誕生したデニムを、松山さんはスタイリッシュに穿きこなす。小さいサイズなら女性も穿くことができる。

和紙糸で作ったデニム生地は、綿よりも軽くて、吸水性も高く、速乾性もある独特な肌触り。アップサイクルから生まれたデニムとして、他にトートバッグや、「トーキョーハット」とトリプルコラボした帽子も制作しました。

──サトウキビから作られたデニムの穿き心地はどうですか?

僕は農業もやっているので、「農業にも耐えられるもの」ということをテーマに作っています。釣りにも行くし、山にも行く、そして東京で仕事をする時も。だから、どこにいっても活躍するような、普段着のかっこよさと、動きやすいパターンにこだわっています。

東京の老舗帽子メーカー「トーキョーハット」と「シマデニムワークス」とのトリプルコラボにより実現した、バケットハット。

 

里山暮らしは出会いの連続
いま、俳優業のベースを作るもの

──俳優業以外に、農業や「momiji」のプロジェクトに邁進する原動力はなんだと思いますか?

やっぱり、何かを知りたいっていうことでしかないんですよね。俳優をやっていても、演技について知りたいって思ったときは、過去の映画をひたすら見て、やっぱりすごいな、どうやってるんだろうなって想像して研究して、自分に生かしていった感じです。

そんな好奇心がある程度落ち着いてくると、技術的な表現だけではなくて、本物を見たくなったんですよね。俳優業にはその人自身が持っている感性みたいなものこそ大事で、それが新鮮味でもあるということ。僕が鹿と出会ったのは、そういう時期でもあったわけです。

鹿を狩るハンターだったり、鹿の被害に遭っている農家だったり、プロフェッショナルとして生きる人たちと知り合っていく中で、彼らの話も生き方も、全部が自分にとって身になるものだったんです。面白いな面白いな、と思ってどんどん質問していくと、全部答えてくれる存在でした。

それで今度は、撮影の現場に入っていったとき、驚いたのは、自分の引き出しがすごく増えていたことだったんです。人とコミュニケーションをとって、いろんな人の考え方とか環境みたいなものを汲んでいく中で、俳優としての引き出しが結果的に増えたんです。やっぱり自分の足で動いて自分の目で見て自分で体験することがどれだけ大事なことなのかっていうのも、この活動を通してよくわかりました。だから、俳優や演技のためにやっているっていうような言い方もできますし、逆に、僕が俳優だからこそ発信することで注目をしてくれる方もいるという、良いバランスなんだと思います。

地方の伝統工芸の職人さんに会っても、「朝ドラ出ている人だよね」って、それだけで壁を越えられるわけですから。「momiji」も俳優も、お互いがお互いをうまく進ませてくれるような状況だと思っています。

photo: TOGAVISION

 

momiji x SHIMA DENIM WORKS デニムコレクション

沖縄の「シマデニムワークス」とコラボレーションしたデニムコレクション。サトウキビから砂糖を生産する際に残る搾りかす「バガス」をアップサイクルした、軽やかな質感のデニム。ジーンズは、ワンウォッシュをかけた濃紺タイプ(¥60,500)と、ストーンウォッシュ仕上げ(¥66,000)の2タイプ。サイズは30(S)、32(M)、34(L)の展開。同じデニム生地を使用したトートバッグ、大(¥44,000)、小(¥38,500)と、渋沢栄一が創業した国内初の帽子ブランド「トーキョーハット」とのトリプルコラボで実現したバケットハット(¥25,300)、キャップ(¥22,000)もラインナップ。

【販売先/ジーンズ・トートバッグ】
SHIMA DENIM WORKS 沖縄直営店、オンラインストア

【販売先/帽子】
オーロラ オンラインストア
他、全国百貨店(伊勢丹新宿店メンズ館、日本橋三越本店、銀座三越、阪急メンズ大阪、あべのハルカス近鉄本店、名鉄百貨店本店、博多阪急)の紳士帽子売場にて販売中。

「momiji」ポップアップ情報

「momiji」を直接手に取ることのできるポップアップショップの最新情報は、松山ケンイチさんのオフィシャルInstagram【momiji2022_official】をチェック!

Profile

松山ケンイチ

1985年生まれ、青森県出身。2002年俳優デビュー。以降、映画、ドラマ、CMなどで幅広く活躍。2023年は大河ドラマ『どうする家康』、TBS金曜ドラマ『100万回言えばよかった』などに出演し、主演映画『ロストケア』が公開された。2024年は連続テレビ小説『虎に翼』に出演。12月20日には主演映画『聖☆おにいさん THE MOVIE ホーリーメンvs悪魔軍団』の公開を控えている。

撮影/金 玖美 スタイリング/五十嵐堂寿 ヘアメーク/五十嵐将寿 協力/杉山絵美 取材・編集/須賀美季