ノーベル文学賞受賞で話題沸騰!なぜ人気?今さらながらの「韓国文学入門」

2024年ノーベル文学賞を、韓国の小説家ハン・ガンが受賞するなど大きな注目を集める韓国の文学シーン。VERYでも2019年の『82年生まれ、キム・ジヨン』特集をはじめ、韓国文学、カルチャーを取り上げることがしばしば。なぜ今、韓国文学が支持されるのか。その背景や作品の魅力を、韓国文学を日本に広めた第一人者として知られる出版社代表の金承福さんに一から解説していただきました。

*VERY2022年2月号「2022年はK-文学の沼にはまる」を再編集したものです。

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金 承福さん
(出版社「クオン」代表)

ソウル芸術大学で現代詩を専攻。1991年に卒業し来日。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、広告代理店勤務、ウェブ制作会社社長を経て、2007年「クオン」を立ち上げる。15年、神田神保町に韓国語書籍を専門に扱うブックカフェ「CHEKCCORI(チェッコリ)」をオープンした。K-BOOK振興会の専務理事も務める。

「村上春樹に影響された韓国の作家たちの小説が今の日本の若い人たちに受けています」

今、なぜ韓国文学(K-文学)なのか?

──数年前、日本で『82年生まれ、キム・ジヨン』が刊行されたタイミングでVERYでも本の特集をしたのですが、その後も続々とベストセラーになる作品が生まれ、K–文学が注目を集めています。なぜ日本でこれほど広く読まれるようになったのでしょう。

日本の、特に若い人たちが韓国文学に興味を持つ大きな理由として、まず個人の悩みや困難には政治や社会問題が絡んでいるということへの気づきがあると思います。それで、賃金格差や女性の生きづらさなど、個々が抱える問題には社会制度が密接に絡んでいることを、物語の面白さはそのままにきちんと描く韓国の小説に惹かれるのではないでしょうか。2002年日韓W杯の後に、冬ソナに代表される韓流ブームが起こりました。今は第4次韓流ブームといわれています。BTS等のアイドルや韓国のドラマもとても人気がありますよね。韓国カルチャーに親しんだ人が今、K-文学を手に取る。この流れはかつて韓国で起きていたこととそっくりだなと感じています。私自身もそうだったように、多くの韓国人が民主化以降に、日本のJ-POP、漫画、小説などに親しんでいます。私は、日本と韓国それぞれ人生の半分ずつくらいの時間を過ごしていますが、他の東アジア諸国と比べても普段の生活パターンはもとより、どんなことに喜び、悲しみを感じるかといった感受性の部分が日韓両国はよく似ていることも、互いの文化に親和性を持つ理由になっているように思います。

日本文学を読んで「小説を書こう」と思った作家たち

──お互いに影響を受けているというのは興味深いところですね。韓国の今に至る歴史には、植民地支配や朝鮮戦争、軍事政権と激動の時代がありました。

60~80年代の軍事独裁政権下の韓国で小説家は、社会問題、民族、イデオロギー問題をリードする存在でした。韓国人として国を背負って、骨太の大きなテーマに取り組む作品が多く書かれた時代です。その後80年の光州民主化運動を経て、87年に民主化宣言、88年のソウルオリンピックがあり国は大きく変わっていきました。海外旅行が自由化され、日本をはじめとした海外の映画や文学作品も多く輸入されるようになりました。そして迎えた90年代は、個人の生き方を大事にする時代になります。そこで村上春樹や村上龍、吉本ばななといった日本の作家の作品が読まれるようになりました。韓国の人気作家キム・ヨンスはインタビューで「村上春樹を読んで、自分も小説が書けると思った」と話しています。今まで読んできた自国の文学とのギャップが大きかったんですね。今紹介したキム・ヨンスやハン・ガンなど70年代生まれの作家たちは、日本の小説を読んで、個人的なことや日常を小説にしてもいいということに気づいた世代です。でも、それだけではありません。韓国の作家は、個人的な話だけではなくて、社会問題、歴史問題を小説の中にもうまく折り込んでいるのです。

──それは、今までの歴史があるからでしょうか?

はい。今、2020年代になって日本の読者は、そんな韓国の小説を求めています。90年代に日本の小説に影響された作家たちやその後の世代の作家たちの書いた小説が今、日本の若い人たちに受けているという流れがあるのです。

「日本と韓国の現状、人々が抱える閉塞感はとてもよく似ていると思います」

閉塞感ある時代に読まれているエッセイ

──時を超えて、互いに影響を受ける図式があると知りました。それからこのところ、韓国の生き方、自己啓発系のエッセイも日本でよく読まれていてベストセラーになっていますよね。なぜ売れるのでしょうか。

エッセイは『死にたいけどトッポッキは食べたい』(光文社)、『あやうく一生懸命生きるところだった』(ダイヤモンド社)をはじめ人気作品が続々と出ています。今は日本も韓国も明るく希望の見える社会とはとてもいえないですよね。閉塞感のある時代だからこそ、「無理しなくていい」「そのままの自分でいい」という癒し系のテイストのものがよく読まれている気がします。

──両国の現状が似ているということですが、もしも違いがあるとするならば、社会制度や政治問題など、おかしいと感じたときに声をあげる意識は韓国のほうが強いのではないかと感じるのですが。

民主主義を獲得し、政治腐敗を追求するなど、声をあげることで自由を勝ち取ったという感覚が、韓国人は強いと思いますね。声を出すことによって自分の存在を主張するし、間違いを正すことにつながるという感覚を持っています。だから、みんなで声をあげるんだという意識は強くありますね。もちろん日本でもやっている人はいると思いますが、なかなかその声が広がらないとしたら、おそらくそれは、成功事例が少ないからではないでしょうか。私たちは世の中を変えられると信じて声をあげることは、とても大事だと思います。

これから読みたい人におすすめの本

──これから読みたいという人におすすめの本を教えていただけますか。

韓国の物語の面白さに触れてみたいという人には、『アーモンド』や、『フィフティ・ピープル』はいかがでしょう。俳優の小泉今日子さんもこの二作をお好きだと話していました。結婚や仕事に悩める人に、『仕事の喜びと哀しみ』やエッセイ『女ふたり、暮らしています。』も。「女ふたり~」は、ふたりの女性が、マンションを共同購入して暮らし始める話です。シングルでも恋人同士でも結婚でもない同居生活の姿を見ると、「家族とはこういうもの」という固定概念が変わっていきます。ドラマの登場人物が手にしていたことで話題になる本も多いです。韓国ドラマは放送の際に日本のようなテレビCMが入らないので、話の中で実際の商品を使って広告費を稼ぎます。携帯電話や車はもちろん、ストーリーの展開と関係なく、突然フライドチキンを食べたりするのはそのせいです(笑)。ナ・テジュさんの詩集も、ドラマの中に登場し、アイドルたちがこぞって読んだことで人気沸騰中です。

韓国文学BOOKGUIDE

『フィフティ・ピープル』

チョン・セラン著 斎藤真理子訳(亜紀書房 2,420円)大学病院を舞台に、幸福、別れ、病、死、愛、再生など50人の「主人公」の人生模様がつながっていく連作短編集。痛くて、おかしくて、悲しくて、愛しい。50人のドラマが、あやとりのように絡まり合う。『屋上で会いましょう』『保健室のアン・ウニョン先生』『声をあげます』などで韓国文学をリードする若手女性作家による、物語の楽しさに満ちた作品。

『女ふたり、暮らしています。』

キム・ハナ、 ファン・ソヌ著 清水知佐子訳(CCCメディアハウス 1,650円)元ファッション誌編集者とコピーライター兼文筆家のふたりの共同生活を描くエッセイ。シングルでも結婚でもない、恋人同士でもない。女ふたりと猫4匹の愉快な生活。一人で暮らすことに孤独や不安を感じ始めたふたりは、「情緒的体温の維持」のため、尊敬できて気の合う相手を人生の「パートナー」に選んだ。新しい家族の形を模索するふたりの生活の記録。

『アーモンド』

ソン・ウォンピョン著 矢島暁子訳(祥伝社 1,760円)扁桃体(アーモンド)が人より小さく、怒りや恐怖を感じることができない高校生のユンジェ。「わが子が期待とは全く違う姿に成長したとしても、変わることなく愛情を注げるか」   出産時に芽生えた著者自身の問いをもとに誕生した、喪失と再生、そして成長の物語。韓国で80万部、日本でも15万部を突破。2020年本屋大賞翻訳小説部門第1位となった。

『仕事の喜びと哀しみ』

チャン・リュジン著 牧野美加訳(クオン 1,980円)1986年生まれミレニアル世代の著者が、同世代の人々を主人公に描いた8篇を収録。フリマアプリを開発するスタートアップ企業を舞台にした表題作はチャンビ新人小説賞を受賞し、後に韓国KBSでドラマ化された。他、同期入社でも性別や学歴による格差がある職場で繰り広げられる神経戦「幸せになります」など、日々の労働と暮らしを、辛辣かつユーモアをこめて書く短編集。

『愛だけが残る』

ナ・テジュ著 黒河星子訳(かんき出版 1,650円)「誰かの恋人であり、妻であり、娘だったあなたへ」。BTS(防弾少年団)J-HOPE、NCTテヨン、少女時代ユナ、俳優イ・ジョンソクなど、人気K-POPアーティスト、著名人たちが敬愛する、日韓累計67万部突破の大ベストセラー『花を見るように君を見る』の著者による待望の第2弾。「何度読んでも泣ける」「人生で大切にしたい一冊」と日本でもあらゆる世代から支持される詩集。

「K-BOOKフェスティバル 2024 in Japan」が11月23日(土)、24日(日)に開催!

 

 

 

K-POPや韓国ドラマに続き、今や日本の人々が楽しむカルチャーとして定着した韓国の本=「K-BOOK」。そんなK-BOOKをさらに楽しめる「K-BOOKフェスティバル 2024 in Japan」が11月23日(土)、24日(日)に東京・神保町の出版クラブビルにて開催!日本語で読める最新の韓国文学に直接触れられる場としては最大級の、日本で唯一のお祭りです。詳細はこちら

*VERY2022年2月号「2022年はK-文学の沼にはまる」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。商品は販売終了している場合があります

韓国の本とちょっとしたカフェ CHEKCCORI

出版社「クオン」が運営する韓国書籍専門のブックカフェ。韓国語の小説や詩、エッセイ、絵本、コミック、人文書など約3,500冊に加え、韓国語学習書、日本語の韓国関連本約500冊を取り揃え販売。 東京都千代田区神田神保町1-7-3 三光堂ビル3階

撮影/古本麻由未 取材・文/髙田翔子 編集/フォレスト・ガンプJr. 

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