「障がい」でなく「個性」を生きる、美馬アンナさんとご長男の物語
子どもが生まれた時、あるいは何年か経った時、はじめて直面する子どもの「障がい」や「難病」──。皆さん一様に、驚きや混乱に包まれたとおっしゃいます。「一体何が起きているの?」「この後、この子はどうなるの?」……そんな不安の中から立ち上がり、力強くそれぞれの人生を歩む親子たちのお話を聞きました。
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「障がい」でなく「個性」を生きる、美馬アンナさんとご長男【画像集】
美馬アンナさん 俳優、タレント、歌手
37歳・東京都在住
子役として芸能活動を始め、歌手やタレント、俳優として幅広く活動。’14年、プロ野球選手の美馬学さんと結婚。’19年10月に長男を出産、’23年8月に長女を出産。

「あなたの手が大好き」
同じ道を辿る後輩ママたちの
ためにも発信したい
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プロ野球の千葉ロッテマリーンズ(現在)で活躍する美馬学選手と結婚後、’19年に長男を出産した美馬アンナさん。長男は生まれつき右手首から先がない「先天性四肢欠損」でした。子宮の中で臍の緒や浮遊物などが絡まってしまい、成長を止めてしまったと考えられていますが、はっきりとした原因は分かっていません。
出産した直後に「右手首から先がない」と気がついたアンナさん。長男は間もなく大きな病院へ転院することとなりました。「30時間に及ぶ分娩の末、やっと会えた我が子でしたが、右手首から先がないということでパニックに。しかもすぐに転院することになってしまったので、不安というより一体今何が起きてるの? と混乱状態でした」。
それからは泣いてばかりだったと振り返るアンナさん。四肢欠損症についての知識がなかったので、頭を洗う時、食事をする時、「この子はこんな日常生活の些細なこともできないんじゃないか」と思い込んで悲しくなるばかりだったそう。
そんな時アンナさんを支えてくれたのが、夫の美馬選手です。「お腹の中で右手のことが分かっていても、この子を産んでほしいとお願いしたし、この子が良かった。この子が俺たちの元に生まれて幸せだと思わせてあげられる自信があるよ」。その言葉を聞いたアンナさんは、不安だった気持ちが晴れ、「この人と一緒だったら、長男を幸せに育てていける」と感じたそうです。
現在5歳になった長男ですが、3歳頃からちょっとしたやりにくさや、他の子の手と自分の手が違うことに徐々に気がついていったようです。「公園で遊んでいると、『なんでお手手がないの?』と聞いてくる子、黙ってじっと右手を見つめる子、長男を追いかけ回してくる子、中には耳を疑うような傷つく言葉を言う子もいました。そんな出来事があった日に、どうして自分はみんなと違うの? と聞いてくるようになったんです。あぁ、ついにこの日が来たなと思いました」。
アンナさんは夫婦だけではなく両親も含めた家族会議で、いつか長男が手のことを聞いてきた時にどのように説明するかを話し合っていました。「どんなことがあっても、自分たちはあなたのお手手が大好きだよ。あなたの右手がこのお手手で良かったよ。と伝えようと決めていたんです」。
今では自分で右手のことを説明できるようになりましたが、今でも時々「ママ、僕のお手手好き?」と聞いてくることがあるそう。「右手のことをあたりまえとして過ごしていましたが、長男は長男なりに傷つきながら過ごしているんですよね。でも長男にごめんねと謝ったりはしません。ある時は右手のことをいいわけにすることがあったので、そういう時は厳しいようですが、時間がかかってもいいから自分でやらせるようにしています。右手首から先がないからできないじゃなくて、できることを増やして少しでも自信をつけるサポートをしたいと思っています」。
アンナさんはSNSで長男について発信したり、パラアスリートと対談するなど先天性四肢欠損に関する発信を続けています。「今までは出会うことができなかった人とお話をする機会ができて、見えなかった世界が見えるようになりました。他の四肢欠損の子どもをもつ先輩たちが発信してくれていたおかげで私は勇気づけられました。子どもに事実を隠さず、きちんと説明することが大切だというのも、四肢欠損症ご本人や先輩ママたちのアドバイスです。だから私も、同じ道を辿るこれからのお母さんたちのために力になりたいと思っています」。
<編集後記>子どもだからと誤魔化さず、真っ直ぐ向き合うことが大切
自分の手についての取材だと理解していた息子さんは、撮影を楽しみにしていてくれたそう。日頃アンナさんを見ているせいかポージングも上手!5歳で自分の手のことを理解して説明できるって、すごいことですよね。いつかアンナさんと同じように、先天性四肢欠損の人を勇気づけられるような存在になっている気がします!(ライター 星 花絵)
撮影/BOCO 取材/星 花絵 ※情報は2025年3月号掲載時のものです。
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