ねだる子どもには【お金という道具を使って取捨選択すること】を学ばせるのがベスト!な件

「お金ってなんで必要なの?」何気ない子どもの質問に、ドキッとしたことがあるママたちに向けて。『きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』の著書である田内学さんの連載が復活!今回は、お金の教育って親がやる必要あるのか悩むママの疑問にお答えします。

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元GS、社会的金融教育家・田内 学さんが回答!
ママのための「お金の教育」
悩み相談室

今月の戸惑うママ
Mさん(30代 共働き、4歳と1歳のママ)

20代のころにお金をドブに捨てるような使い方をしてしまったと後悔するMさん。そんな自分に、お金の教育ができるのか不安で…。

お金に興味が出てきたものの、どうして買いたいものを何でも買ってもらえないのか?をまだ理解できない4歳の息子。そろそろお金の教育が必要かと思いますが、知識がないので身構えてしまって…。そもそも、お金の教育って親がやる必要があるのでしょうか?

有限なリソースをどう使うか
お金という道具を使って練習する、
と考えてみては?

田内 学さん(以下、田内) Mさんが「お金の教育が必要かも」と考えるようになったきっかけは、どんなことだったのでしょうか。
読者 Mさん(以下、M) 上の子が出かけるたびに「何か買って」とねだるようになってきたんです。ねだればなんでも買ってもらえると思っているのは良くないので、ちゃんと金銭感覚を身につけさせないといけないと感じました。ただ、なかなか難しくて。「お金って何?」と聞かれたので、「信用?」と答えてしまいましたが、まだ4歳の子には信用の意味も理解できないし、その解釈で合っているのかどうか…。親自身の理解も足りないので、夫と苦戦しています。
田内 「なんでも買ってもらえると思わせるのは良くない」と考えるのは、なぜでしょうか?
M 実は私自身が比較的「買ってもらえる」環境で育ってきたんです。共働きで親が忙しかったこともあり、欲しいものを与えてもらった結果、「お金のことはなんとかなるだろう」と考えるようになり、お金のことを真剣に考える機会がなかったように思います。
田内 Mさん自身が、「お金の勉強をしてこなかった」ことで困ったことはありましたか?
M 困るような機会がなくて、この歳になって振り返って反省しています。今35歳なのですが、若い頃から計画性を持って貯めておけばよかったなと後悔しています。お金をドブに捨ててきた実感があるので。
田内 「ドブに捨ててきた」とは?
M 20代は仕事のストレス発散で、お給料は全て洋服代に消えました。必要かどうかも考えず、端から端まで買い占めるようにお金を使いました。結果として全く袖を通していない洋服を大量に捨てることになりましたし、本当に自分の欲しいものがなんなのかもわからなくなってしまいました。
田内 私の知人に「形として残るものにしかお金を使いたくない」という人がいます。かなり稼いでいるけれど、旅行に行く際の飛行機はエコノミー。時計やクルマは資産になるけれど、旅行にお金を使っても何も残らない、と言っていました。でも私はその言葉に対して違和感を覚えました。形に残らないけれど、価値を感じることってあると思うんです。Mさんにとってドブに捨ててきたように思える洋服も、その当時はストレス発散となっていたんですよね。それで気持ち良い、幸せをその時に感じていたのなら、それは一つのお金の使い方とも言えますよね。

 

お金の教育自体、
資本主義ビジネスに取り込まれている

M でもやっぱり後味が悪いんですよね(笑)。子どもには自分のように育ってほしくないと思ってしまいます。せっかく買ったおもちゃや文房具も大切にしてくれなくて、雑に扱うのも気になってしまって。息子は最近シールにハマっているのですが、手持ちのシールをお友だちにたくさんあげてしまって、自分の分がなくなったことがあったんです。その日の夜になって私に「なくなったからまた買ってね」とさらりと言ってきたので、これは危険だと思いました。なくなってもどうせまた買ってもらえる、無限にあると思うから考えずにあげてしまうんだろうなって。だからそろそろ、どうやってお金を手に入れるのか、ちゃんと教えたほうがいいんじゃないかと思いました。
田内 なるほど。シールにせよなんにせよ、リソースは有限。自分が使うか相手に使わせるかを選択しなければならないのに、「いくらでも手に入ると思って、取捨選択ができない」というところが引っかかっているのではないか、とお話を聞いていて感じました。プラス、そこにはお金というリソースが存在しているから、それを手に入れる方法を学ばせる必要性を感じて不安になってしまう。さらに付け加えると、親が一生懸命稼いだお金で買い与えていることを子どもが理解している様子がないことにも苛立ちを覚えてしまう、といったところでしょうか。
M その通りです!
田内 そうなると、お金の教育というよりも、お金という道具を通して取捨選択を学ばせるという話になるのかも。人はさまざまなリソースを取捨選択して生活しています。中でもお金は増減が客観的に判断できますが、人にとって一番大事なリソースは時間ではないかと思います。お金は増やせる資産だけれど、時間は減るいっぽう。決して増やせません。生きていく上で、時間というかけがえのない資源を何に使うのか、それを考えることが重要になってくると思います。それを踏まえた上でも、お金を道具にして取捨選択の練習をするというのは悪くないと思います。例として挙げられるのは、おこづかい制。限られたリソースから自分で大事なものを選ぶ、時には我慢することを身につけるという勉強になります。
M 「お金の教育」と聞くと、将来のために資産を増やしたり稼ぎ方を教えたりといったイメージがありました。
田内 お金の教育において、「資産をどう増やすか」という話になりがちなのは、明らかにそのほうがビジネスになるから。学校への金融教育の出張授業などで、「ESG投資をしましょう」という話がよく出てくると聞きました。環境、社会、ガバナンスという点で、配慮がなされている企業を応援しましょうという提案ですが、そうやって投資を促すことで、株が売れて間に入っている証券会社が潤うわけです。本来は環境に配慮したものづくりをする企業の商品を買うだけでも、企業に直接お金が届き、応援することにつながります。お金の教育自体、資本主義のビジネスの中に取り込まれているところがあるので、大人としてそれは理解しておくといいかもしれません。「お金は天下の回りもの」ということばもあるように、資源と違ってお金は実は全体では減りません。相手が使ってくれれば自分が潤うから、使わせたいんです。
M 勉強になります。リソースが限られているという視点では、子どもとは限られたシールの枚数をどう使うか、という話ができそうです。「友だちにあげることが自分にとって満足できるのか、自分でコレクションしたいのか」という問いかけなら、答えてくれそう。
田内 その上で、どちらが適切というわけでもないということだけは意識しておいてくださいね。それぞれの価値観なので。

 

究極、有限なものは「時間」

M ところで、お金に対する価値観って何歳くらいから芽生えるものなのでしょうか。
田内 本当に理解できるのは大人になってからだと思います。私は、人間とは「限られた時間をどう使って、いかに幸せになるか」を追求しながら生きているものだと考えています。勉強をすることによって自分の能力や技術を磨きたいという人もいれば、旅行によって経験を積みたいと考える人、アルバイトをして金融資産を増やしたいという人もいるでしょう。でも、誰もが限られた時間を使って、「自分の能力」、友人や仲間のような「社会とのつながり」、さらに「お金」という3つの資本を獲得し、豊かに生きようとしていることには変わりありません。だから、限られた時間を使ってお金を稼いでいることに対して子どもが価値を感じてくれないことにモヤモヤするという人が多いのも、理解できる気がします。とはいえ自分の時間を使ってお金を得るという実感ができるのは、やはり年齢を重ねてから。4歳でも1,000円を使ってシールを買うかおやつを買うかを選ぶことはできるでしょう。でも果たして「1,000円という価格が適切なのか」を判断できるかどうか。1,000円稼ぐことが大変だから我慢しようという気持ちと、手に入れたことで得られる幸せとどちらを優先するのか、自分で比較できるようになって初めて実感できるのだと思います。
M それでも子どものうちから自分で稼ぐ面白さや喜びも教えてあげたいと思ってしまいます。例えば、時間をかけずに1,000円を貯める訓練としては、どんなやり方があるのでしょうか。
田内 制限のある中でお金を使わせたいということであれば、さっさと親が与えてもいいと思います。それでお祭りで好きに使わせてみるとか。子どもにとってはお金もシールもほぼ同じもの。使い方によっては後悔や反省をすることもあると思います。でもどちらも無限にあると思うと、自分で責任を持って選択するということは学べないので。
M お金のことを何も知らない真っさらな我が子に対して、何からやってあげたらいいのかと悩んでしまいますね。無駄遣いせずにお金を計画的に使える子、おもちゃを大切に使える子に育てたいのですが…。
田内 正解って誰かが持っているのではなくて、その子を見ている親が持っているんだと思うんです。誰かに教わるよりも、Mさん本人がどうしたいのか、例えば「なんでおもちゃを大切にしてくれないと自分が嫌なのか」ということを考えて、行動も含めて伝えないと、子どもも理解できない気がします。「~しなきゃいけないんですよね」って聞かれることが最近増えている気がして。投資しなきゃとか、英語の勉強をさせなきゃとか。「お金の教育をさせなきゃいけない」と焦るのも、それに近いところがありますよね。
M そこは意識していませんでした! 気をつけます。私自身どんどん与えてもらうだけだったので、選択に悩む瞬間がなかったんです。お金に対して責任を持つ機会がなかったような気がして、今反省しています。
田内 でも、きっと他の決断に対しては責任も持っていたでしょうし、大事な選択をしたりそれを後悔したりする出来事もあったと思います。お金に関しては後悔があると思っていらっしゃるようですが、お金が限られていると実感した今、すぐに切り替えられているわけだから。Mさんの価値観のベースはすでにできていたと思います。
M ありがとうございます。いろんな考えがごちゃごちゃになっていたので、いま一度初心に立ち返って、自分の価値観を見直してみようと思いました。お金を使うこと自体は悪くないと思えたので、それだけで前向きになれたような気がします。まだ4歳なので、焦らずに少しずつ伝えていきたいです。

田内学さん

田内学さん
1978年生まれ。2001年、東京大学工学部卒業。 2003年、同大学院情報理工学系研究科修士課程修了後、ゴールドマン・サックス証券入社。日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーダーに。2019年に退職後は、子育てのかたわら、金融教育家として講演や執筆活動を行っている。インスタグラム@tauchi mnbで経済やお金の情報を発信中。

田内学さんの著書『きみのお金は誰のため』

『きみのお金は誰のため
ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』
田内学著¥1,650/東洋経済新報社
中2の優斗はひょんなことで知り合った投資銀行勤務の七海と謎めいた屋敷へ。そこにはボスと呼ばれる大富豪が住んでおり「お金の『3つの謎』を解けた人に屋敷を渡す」と告げられる。大人も子どもも一緒に読みたいお金の教養小説。

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撮影/吉澤健太 イラスト/犬ん子 取材・文/樋口可奈子 編集/中台麻理恵
*VERY2025年5月号「ママのための「お金の教育」悩み相談室」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。