子どもが『ゲーム課金』沼にハマったら?自分のお金で“失敗する機会”も大事

ゲーム課金をねだる子猫と困る親猫のイラスト

「お金ってなんで必要なの?」何気ない子どもの質問に、ドキッとしたことがあるママたちに向けて。社会的金融教育家・田内学さんの連載が復活!今回は、子どもから「プレゼントもゲーム課金がいい」と言われて悩むママの疑問にお答えします。

こちらの記事も読まれています

▶︎ねだる子どもには【お金という道具を使って取捨選択すること】を学ばせるのがベスト!な件

元GS、社会的金融教育家・田内 学さんが回答!
ママのための「お金の教育」
悩み相談室

今月の戸惑うママ
Yさん(30代・専業主婦、小3と小1男の子ママ)

夫の単身赴任と長男の小学校入学が重なり、体調を崩して退職。今は専業主婦として、男の子2人の育児に奔走するママ。

小3の長男がゲーム課金をしたがるように。小1の次男もそのうち「課金したい」と言い出しそう。目に見えないものにお金を使うことを低学年のうちから覚えさせてもいいものでしょうか。加えて、私が2年前に仕事を辞めてしまったので、お金を使うことに罪悪感もあります。

子どものうちに失敗をして
お金は限りあるものと分かれば大丈夫

読者 Yさん(以下、Y) 長男が小1になったタイミングで、ゲームを解禁しました。1年くらい経ったころ「追加で欲しいアイテムがあるから課金してほしい」とお願いされて。300円程度だったことと当時は私も働いていて自由になるお金もあったので、何かのご褒美としてならいいかと思い2回ほど課金してあげました。ただそれに味を占めたのか、「サンタさんからのプレゼントもゲームの課金がいい」と言い出したんです。
田内学さん(以下、田内) なるほど。ちなみにお子さんはもうサンタさんは信じていないんですか?
Y いえ、まだ信じています。だから「サンタさんはうちのゲームのパスワードを知らないから」と言って誤魔化しました(笑)。でも、それほどハマったのかと実感したら、心配になってきたんです。そのうち親の目を盗んで勝手に課金してしまうかも…と、先のことまでつい考えてしまいます。
田内 課金すると親のお金が減る、ということは理解しているのでしょうか。
Y 長男は分かっていますが、小1の次男はあやふやなので、まだ課金のリクエストには応じていません。
田内 今回のお悩みには、いくつかの要素が絡み合っているように見えます。まずはそこから整理しましょう。一つ目は、課金によって知らない間にお金が減るという、お金についての心配。二つ目はお金には限りがあることを子どもが理解しているのか、という教育上の問題。最後に、約束が守れないのではないかという、信頼関係の心配。Yさんは、どれが一番気になりますか?
Y 最後です。長男は、何かにつけて「課金して」と言い始めたので、このままズルズルと際限がなくなりそう。次男は誕生日などのイベントごとのプレゼントも前倒しで欲しがって、それを手に入れるまでの癇癪もすごいんです。「たくさん買いすぎると、パパのお金もママのお金もなくなっちゃうよ」と、子どもたちには教えていますが、次男は「それなら僕の貯金から出すよ」と返してくるので、どう答えたものかと悩みます。

 

「お年玉はあげるけど、無駄遣いしないで」

田内 それはどうしてダメなのですか?
Y できれば貯めておいてほしいというのが本音です。自分の貯金といってもお年玉や親戚からお祝いでもらったお金。夫が子ども名義の口座で管理していて、なかなかの額があります。
田内 「お年玉はあげるけれど、使わないで」というのは、矛盾していると思うんです。お祝いでもらったお金は別にして、子どもが自分で管理できるお金はあったほうがいい。社会に出たらお給料のやりくりをしますよね。もらった分を自分で管理して使うのは、お年玉も給料も変わらないはずです。お年玉が1万円だとして、1000円までは使ってもいいけれど9000円は貯めなさいというくらいなら、最初から1000円だけにして、残りを親が貯めてあげればいいと思います。ゲーム課金についても同じです。前回はご褒美だからOKだったけれど今回はダメというのは、子どもにとって混乱を招くだけ。結局、自分では何もコントロールできず、親の気分次第で決まるものだと思い込んでしまうのではないでしょうか。
Y その通りですね…そもそも親の私が、課金に対して明確なルールを決めていませんでした。お年玉を貯めてほしいというのも、「無駄遣いしないでほしい」という私の願望です。幼少期にお年玉をあっという間に使い切って後悔したことが何度もあったので、つい我が子には計画的に使ってほしいと思ってしまいました。
田内 ギャンブルにハマるとか怪しいところで借金するとか、大人になってからの大きなお金のトラブルは確かに心配です。それに比べると、子どものお金の失敗ってたかが知れていると思います。先日の講演会で、中学生から「賢いお金のやりくりを教えてください」と質問されましたが、お金の使い方は個人の価値観次第。誰にとっても正解になるような「賢いやりくり」は存在しなくて、自分にとっての賢い方法を試行錯誤しながら見つけていくことが大事だと思います。ゲーム課金も「どうせ親のお金だから」と思って際限なく使ってしまうのは問題ですが、自分のお金を使い切って後悔することも一つの学び。お店での買物と違い、ゲーム課金は目の前でお金が移動しません。それが気がかりなら、一旦親が立て替えて、子どもから300円なり500円なりを現金でもらうのも一つのやり方。「課金するのは親が認めたゲームだけ」「勝手に課金しない」というような取り決めを作ることで、約束を守る大切さを学ぶ機会になるかと思います。お金や時間は限りあるもの。時に失敗しながら、限りあるリソースをどう使うか、自分で選択できるようになることが大切です。
Y そう言われてみると、まだ小さな失敗もさせていなかったです。長男も次男ももう小学生なので、ルールを決めて自分のお金でやらせてもいいかもと思えてきました。ただ実はもう一つ悩みがあるんです。以前は働いていたのですが今は専業主婦で夫の収入だけでやりくりしているので、子どもにせがまれても「夫のお金だから」「夫に確認を取らなきゃ」とつい考えてしまいます。それも課金で悩んでいた理由の一つです。ゲームのコントローラーが壊れかけていて買い替えをせがまれたのですが、「ママは今働いていないから、ごめんね」と断ってしまって…。

 

稼ぐことで評価される社会は健全?

田内 仕事を辞めてママのお金の使い方が変わったことに、お子さんたちは気づいているのでしょうか。
Y そこまで認識しているかどうかは分かりませんが、働いていたころは帰りが遅くなることもありました。それに私が買い与えたものは「ママががんばって働いてくれたお金だから」と大事にしてくれていたような気がします。むしろ夫のほうが、子どもたちに甘くて、なんでも買い与えているのに。
田内 小さな子どもにとって、お金の希少さを感じることは難しいかもしれません。でも、時間の希少さは分かるはずです。個人的には、お金よりも時間という資源がよほど希少なものだと思います。知識やスキルなどの見えない資産を築くにしても勉強する時間が必要ですし、楽しいことをして過ごすにも時間が必要です。ママの時間が減った代わりに、お金が入ってきた。だからそのお金で買ったものは大事にしようと思えるのは、いいことですよね。いっぽうで、パパが物心ついた頃からほとんど家にいないような状況だと、なかなか希少性に気づかれにくいのかなと思ってしまいましたが。
Y 夫は早朝に出て深夜帰宅も当たり前な働き方。さらに、長男が小1になるのとほぼ同時に夫の単身赴任が決まりました。いわゆる「小1の壁」とワンオペが重なり家事と育児で土日も休めず私がパンクしてしまい、退職したんです。
田内 そうだったんですね。現代は、「稼ぐことで評価される社会」になってしまいました。しかもひと昔前は「お金の話なんて外でするものじゃない」という考え方が一般的だったのに、今やSNSで自分の稼ぎの高さを自慢する人もいますし、マッチングアプリや婚活は年収が基本情報の一つになっています。個人的にはお金で誰かの価値をはかる社会は健全ではないと考えています。この連載でも以前触れた通り、あらゆるモノはその所有権を譲る際に、初めて値段がつきます。例えば市販のお弁当に値段はつきますが、親が作る弁当には値段がありません。プライスレスという言葉があるように、他の人と交換したくない、できないからです。子どもが病気になって病院に連れて行く行為に値段はつきませんが、それは他の人には任せられない仕事だから値段がつかないだけ。なんでも価格で判断するような世の中において「自分は稼いでないから価値が低い」と感じてしまうこともあるかもしれません。特に育児の中には、他の人に取って代わることのできない仕事も存在していると思います。
Y それは考えたことがなかったです…そう言ってもらえて、今までがんばってきたことが報われたような気がしました。退職する際、夫に「もうちょっと手伝ってほしかった」と伝えたら「俺のほうが稼いでいるから」と反論されてしまって。それが今でも心にひっかかっていました。
田内 夫婦だからこそ、つい感情的になってしまうこともありますよね。あくまで推測ですが、夫さんも家事や育児ができていない自分への言い訳を口にしちゃったんでしょうか。夫は「なんでも買い与えている」という話がありましたが、子どもに対して何かをしてあげる時間がないから、お金で愛情表現をしてしまうのかもしれませんね。
Y ありがとうございます。色々と腑に落ちました。子どものゲーム課金の悩みから思わぬ方向に話が行ってしまいましたが、夫とももっと自信を持って向き合っていきたいと思いました。

田内学さん

田内学さん
1978年、兵庫県生まれ。2001年、東京大学工学部卒業。2003年、同大学院情報理工学系研究科修士課程修了後、ゴールドマン・サックス証券入社。日本国債、円金利デリバティブ、長期為替などのトレーダーに。2019年に退職後は、子育てのかたわら、金融教育家として講演や執筆活動を行っている。インスタグラム@tauchimnbで経済やお金の情報を発信中。

田内学さんの著書『きみのお金は誰のため』

『きみのお金は誰のため
ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」』
田内 学著¥1,650/東洋経済新報社
中2の優斗はひょんなことで知り合った投資銀行勤務の七海と謎めいた屋敷へ。そこにはボスと呼ばれる大富豪が住んでおり「お金の『3つの謎』を解けた人に屋敷を渡す」と告げられる。大人も子どもも一緒に読みたいお金の教養小説。

あわせて読みたい

▶︎子どものお小遣いに『誰かのために使わないと1年後に消える500円』の新提案!

▶︎夫婦間でさえ違う『金銭感覚』、子どもにどう教育すべき?【専門家が回答】

▶︎【子どもの金銭感覚】どう養う?「なんでも簡単に手に入る」とならないための考え方

撮影/吉澤健太 イラスト/犬ん子 取材・文/樋口可奈子 編集/中台麻理恵
*VERY2025年6月号「ママのための「お金の教育」悩み相談室」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。