小島慶子さん、大変だけど…人生に選択肢があるって、実は大事なこと!
エッセイスト、メディアパーソナリティの小島慶子さんによる揺らぐ40代たちへ「腹声(はらごえ)」出して送るエール。今回は「決断疲れ」について。
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小島慶子さん

1972年生まれ。エッセイスト、メディアパーソナリティ。2014〜23年は息子2人と夫はオーストラリア居住、自身は日本で働く日豪往復生活を送る。息子たちが海外の大学に進学し、一昨年から10年ぶりの日本定住生活に。
『でも、選択肢があるって大事なこと』
なんだか最近、決められない… ランチはカレーか和定食か…メールの返信どう書けば…明日何を着て行けば…うああ、もう誰か私の代わりに決めちゃって(泣)! そんな迷えるあなた、私も同じです。私たち、疲れているのです。決断疲れです。
最近の研究によると、人は1日におよそ3万5000回も決断しているんだそうです。そのほとんどは「よしティッシュを取るために右手を出そう」などの無意識に行う決断。意識的に行っている決断は全体のおよそ5%だそうです。それでも1750回ほど! 起きている間は、1時間に大体103回ぐらいは決断していることになります。えーそれって毎分1回以上じゃん。決めたくなーいめんどくさーい。
選択肢が多いのはいいことだけど、決めなくちゃいけないことが増えると、そのぶん脳は疲れちゃう。現代は情報過多で、脳みそが休む間がないんだそうです。わかる気がしますね。スタバでも私、毎度定番しか頼みませんもん。カフェに入る時ぐらいは、ものを考えずにぼーっとしたい。でもこないだの選挙の時は、ちゃんと候補者や政党の考えていることを調べてから決めて、投票しましたよ。投票は自分や家族の人権と命に関わる大事な大事な決断だから。そういう大事な決断のためにも、なるべく脳の疲れは溜めずにおきたいもの。どうしたら日常の細かすぎる決断を回避できるのでしょうか。
その方法の一つが「毎度考えずに仕組みにしちゃう」やり方です。同じデザインの服しか買わないとか(スティーブ・ジョブズがそうですね)、ランチはどこの店でも「本日のランチセット」を注文する、複数あったら一番安いのにするとルールを決めて、あとは考えない。実際それで結構脳みその疲れは軽減されるという説もあり、なかなか名案です。
私も、すでに一つ実践しています。お賽銭です。賽銭箱の前で、いつも「相場は?」とか「多すぎ?」とか「これじゃ失礼?」とか気になってしまう。旅先で神社仏閣を訪ねるのが好きなのに、毎度金額に悩まされるのに疲れてきました。そこである時、丹後縮緬のミニがま口を購入。十円玉・五円玉・一円玉だけを入れて、賽銭用がま口にしました。いざ賽銭箱の前に立ったら、がま口を開け、中を見ないで指を入れ、摘んだ硬貨をそのまま賽銭箱へ。数円から最大でも数十円の出費ですから、いくら入れたか気にしなくても済みます。きっと神仏が欲しいだけの分を私の指に取らせたに違いない! と思うことにしています。神仏サイドから見たら賽銭摑み取りシステム、私サイドから見たら賽銭お任せシステム。先方は私の指を使って欲しいだけの小銭を取ることができるし、私は金額を考えずに気持ちよくお参りできる。ウィンウィンです。我ながら天才じゃないかな! とすっかり気が楽になったのですが、先日大阪のお寺に行ったら、なんとお賽銭をPayPayで納めるシステムでした…。金額入力必要じゃん。自分で決めなきゃいけないじゃん。泥棒対策なのだとは思うのだけど、賽銭デジタル化は、脳の負担を増やします。
人生の選択は、賽銭よりも決めるのが大変です。失敗したらどうしよう、って不安になりますよね。たまに聞かれるんです。「小島さん、私は専業主婦で夫は仕事一筋なんですが、それじゃダメですか。親もそうだったし、私も夫も今の形でしあわせなんですけど、これって今時はダメな生き方なんでしょうか」。私の答えは「もちろん、いいと思いますよ!」です。でも、ついでにこうも言います。「もしいつか違う生き方がしたくなったら、もちろんそれもありだと思いますよ!」人生は、ああも、こうも生きていいのです。大事なのは、これしかないと自分を追い込んだり、他人に自分のやり方を押し付けたりしないこと。しきたりや慣習に従っていれば、確かに決断に使うエネルギーが少なくて済みます。特に抵抗を感じないなら、それもいいでしょう。
でも、脳みそを柔軟に保つことが肝心です。例えば、選択的夫婦別姓制度なんかそうですね。同姓でも別姓でもいいよ、ということですから。世の中には他人が自分と違う選択をすることが許せない人がいる一方で、一つしか選択肢がなくて、しんどい思いをしている人もいます。一番ハッピーなのは、「人生はああも、こうも生きていい」と思える世の中でしょう。素直に親と同じ道を歩んでもいいし、違うことをしたくなったら、それもあり。最初に選んだのと違う道でも、周囲とは違う生き方でも、ちゃんと平和に生きていけるようになっている。そういう社会だったら安心ですよね。
もし、一見親切そうな人が「悩まなくていい、この道しかない!」と言って近寄ってきたら、ご用心です。日常の細かいことを考えないで済む仕組みづくりは、大事な時にあなた自身が人生の決断を下せるよう、脳を養生するためのもの。よく考えないで誰かに人生を丸投げしちゃわないように、気をつけましょう。
文/小島慶子 撮影/河内 彩 ※情報は2025年10月号掲載時のものです。
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