【シャネルの展覧会】子どもたちの未来の“種”が見つかるアート体験を|安藤桃子さん&德田佳世さんに辻元舞さんがインタビュー

安藤桃子さんと德田佳世さんと辻元舞さん
シャネルがパリに設立した、ファッションとインテリアの職人・専門家約700人が集う複合施設、「le19M」。そのクラフツマンシップを讃える企画展「la Galerie du 19M Tokyo」が東京・六本木で開催中。企画に携わった安藤桃子さんと德田佳世さんに、辻元舞さんがインタビュー。子どもたちの未来の“種”が見つかるアート体験とは。

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自然や人の手から生まれた本物に触れる感動体験

広い空間で語らう安藤桃子さんと德田佳世さんと辻元舞さん

❝あきらめていた、親子のアート体験。怪獣3人連れでもウェルカム?❞
ー辻元さん

 

辻元さん(以下 辻元):3章構成となる「la Galerie du 19M Tokyo」において、日本とフランスの約30名の職人、アーティストの作品が集結する没入型の展覧会「Beyond Our Horizons」の企画に携わった安藤さんと德田さん。憧れのシャネルの世界観を「もしかしたら、うちの怪獣たちと一緒に楽しめる?」と、お話を聞かせていただくのを心待ちにしていました。

安藤さん(以下、安藤):こちらこそ!そもそもパリにある「la Galerie du 19M」は、誰もが気軽に無料で芸術やメティエダール(芸術的な手仕事)と触れ合うことのできる、すべての人に開かれた場所。子どもたちもアートを鑑賞したり、ワークショップに参加したりできます。何より、そこで創作活動をする職人さんたちから、「物作りが好きで仕方がない!」という情熱が伝わってきて、一歩足を踏み入れただけで夢が広がるクリエイティブの聖地のよう。洗練された熟練の手仕事を、次の世代へ繫ぐ場所でもあるんです。日本での企画展開催でもその空気感を大切にしたいと、老若男女「みんなが楽しめてワクワクする」ストーリーや展覧会の在り方を考えていきました。なので、可愛い怪獣たちこそ、ぜひ!

 

❝届けたかったのは言葉にできないような胸がキュッとなる体験❞
ー德田さん

 

德田さん(以下、德田):「みんながワクワクする」というゴールを踏まえ、私が思い出したのが愛する甥っ子の言葉。以前にキュレーションを手がけた豊島美術館に当時10歳だった甥っ子が訪れたとき、「アートの空間に入ると、胸がキュッとなる」と、感想を伝えてくれて。芸術の本質を突かれたようで、美しい夕日を見たときのように、言葉では表現できない感動体験を伝えたいと思いました。

辻元:「キュッ」という表現、真っ直ぐで響きますね。AIが当たり前の現代に育つ子どもたちではありますが、純粋に“好きなこと”にのめり込んで、それがやがて“夢”になるのはいつの時代も同じ。自分の技術をひたすら研ぎ澄ませる職人さんたちへのリスペクトにも繫がる気がして、メティエダールにフォーカスした本展との親和性を感じています。

笑顔で話す安藤桃子さんと德田佳世さんと辻元舞さん

❝好きなことにのめり込んで、とことん追求することの楽しさ。子どもたちも職人さんの仕事にきっとインスパイアされるはず❞
ー辻元さん

 

德田:「Beyond Our Horizons」を入ってすぐのところに、職人の暮らす街並みをイメージしたインスタレーションがあり、そのはじまりにあるのは“織屋”と名付けられた織物の部屋。そこでは職人が織機で布を織るデモンストレーションが行われるのですが、蚕が最初にフーッと吐き出す“きびそ”を緯糸に、パリの「le 19M」が提供するアップサイクル糸を経糸にして織り上げていきます。縄文時代から伝わる“織る”という技術のなかで、古代と現代が交差する美しさからはじまるのが、展覧会のシグネチャーでありメッセージを表すもの。その織機も元々建築を学ばれていたデザイン橡の豊島美喜也さんがダ・ヴィンチの如く設計から組み立てまで全部ひとりで手がけていて、古めかしくなく、すごくかっこいいんです。

安藤:私たちより進化した生命である子どもたちが、その道具や職人の手仕事に触れて、どんな感性や感覚を開くか楽しみですね。映像の技術者に聞くと、人の心を震わす圧倒的なCG映像は、実際に撮影した本物というリアリティがあってこそ描けるそうです。私はAIとかテクノロジーには希望を感じていて、自然や人の手から育まれた本物に触れ、新たな技術をもって想像し得なかったような素晴らしい世界が描かれていく…。大人もディストピアでなく「生きたい世界」、ユートピアをイメージし続けることが大事だと思っています。想像と創造の力!

德田:同感です。日本の工芸においては世襲制、特に長男が継ぐという風習が強く残っています。“継ぐ”ことの重要性とイノベーションについて考えさせられます。パリの「le19M」は、多様な世代、国籍、分野の職人やアーティストが、交流を図りながらお互いに刺激を与え合うことで新たなクリエーションが生まれる場。たくさんの女性たちが笑顔で創作する姿もあります。様々なジャンルの作家やアトリエがボーダレスにコラボレーションするこの展覧会は、日本の工芸においてもセンセーショナルな機会になると感じています。

 

多彩な感性、才能が美しく交差する瞬間がここに

安藤桃子さんと德田佳世さんと辻元舞さん

❝フランスと日本、ディレクターやアーティスト。みんなが争わずに想いをひとつにしていく。芸術を通して平和を希求する❞
ー德田さん

 

辻元:多様な才能や個性の共演、さらにそれをひとつの世界にまとめ上げるのは、さぞかし大変だったのでは?

安藤:フランスと日本では文化もコミュニケーションの図り方も真逆というぐらい違うところがあって、さらに職人やアーティスト、ディレクターなども加わるので、それはもう壮大です(笑)。それでもお互いを尊重し、幾度も対話を重ねながら擦り合わせ、“Beyond Our Horizons=みんなが行きたい地平線の向こう側”という同じ未来ビジョンに向かって、一枚のタペストリーを織り上げるように形となっていきました。西洋と東洋も違いがあるから素晴らしい。そこが調和することに、展覧会の意味を感じます。

德田:対立して争うのではなく、対話や創作を経て心を合わせていく。すごく美しいことだと思います。芸術で平和を希求する、私たちにできる活動として、大切にしていきたいです。

辻元:芸術から自然や人との共生を肌で感じとる、親子で身につけたい価値観です。せわしない朝に小鳥のさえずりに耳を澄ませたり、満月を見て「お饅頭みたい」と呟いてみたり。展覧会では、子どもこその純粋さで受け取るものは大きい気がしてきました。

 

❝幼くても体験から得た感動は“種”として必ず残り、いつか芽吹く❞
ー安藤さん

 

安藤:幼い頃の体験は頭の記憶として曖昧だったとしても、心や体、肌の記憶としてずっと残るものだと思います。“種”のような、自然界と一緒で、いつ芽吹くかはそれぞれだったとしても、必ず受け取っている。はじめて両親に映画館へ連れて行ってもらったときに感じた空気感とか、田んぼに飛び込んでドロドロになったときの土の感触とか。私自身も子ども時代に受け取った種が芽吹いて、今に繫がっている実感があります。

德田:子どもたちには人の手から生み出された恵みを“残していく”ことも感じ取ってほしいです。法隆寺も建てられた当時、大工さんもまさか1400年以上ももつとは思っていなかったはず。それでも心が震えるような美しさがあったからこそ、大切に守られ、今もなお継がれている…。展覧会では建築にまつわる作品もあるので、ご覧になっていただけたら。

 

❝子どもが何に反応するか、その感性に気づくきっかけにも。「生きたい未来」を見つけて❞
ー安藤さん

 

辻元:子どもたちに気づいてほしいことがたくさん。私自身もじっくり堪能したい!

安藤:子連れで、ひとりで、と足を運んでください。どこまでも開かれた場であるようにと、なんと入場無料です!シャネルさんの母のような懐の深さを感じます。私は親子でも鑑賞する予定で、様々な作品の中から娘が何に反応するか。じっくり付き合って、彼女の感性を見つけるような楽しみ方もしたいなと考えています。

德田:理想の楽しみ方ですね。アートは見る人の心の中にあるといいますが、何に触れたときに心が動くか。自分の中から開かれていくもの、そこから広がる未来をぜひ見つけに来てください。

お話ししてくれたのは…

映画監督の安藤桃子さん
ジャケット、デニムパンツ、シューズ【すべて参考商品】(シャネル╱シャネル カスタマー ケア センター)アクセサリー╱安藤さん私物 カットソー╱スタイリスト私物

安藤桃子 あんどう・ももこ
映画監督。2010年『カケラ』で監督・脚本家デビュー。2014年に、長編小説『0.5ミリ』を映画化。現在は高知を拠点に、ミニシアターの「キネマM」代表やNPO「地球のこども」のメンバーとして活動中。

WATER AND ART代表の德田佳世さん
ニットトップス、シューズ【ともに参考商品】(シャネル╱シャネル カスタマー ケア センター)パンツ╱スタイリスト私物

德田佳世 とくだ・かよ
ベネッセアートサイト直島キュレーターとして活躍、豊島美術館の開館担当キューレーターなど歴任。2014年にWATER AND ART設立、2016年に芸術文化を通して平和な国際社会を育む非営利団体「TOMORROW」を設立。

VERYモデルの辻元舞さん
ジャケット、デニムパンツ、シューズ【すべて参考商品】(シャネル/シャネル カスタマー ケア センター)

辻元 舞 つじもと・まい
モデルとして活躍しながら、特技の水彩画やイラストやダンスを活かしバラエティ番組にも出演するなど幅広く活躍。9歳と7歳の男の子、1歳の女の子を育てるママ。ライフスタイルが覗けるYouTube「Mai Fam TV」も人気。

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撮影╱嶌原佑矢〈UM〉 取材・文╱櫻井裕美 ヘア・メイク╱神部春美(辻元さん、德田さん分)、清家いずみ(安藤さん分) スタイリング╱三好 彩 編集╱西脇治子 取材協力╱CHANEL
*VERY2025年11月号「未来に芽吹く希望の種を探して」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のもので、変更になっている場合がございます。