【梅宮アンナさん】“治る”って複雑だって気づいた「元の自分に戻る必要はもうない」
2024年8月13日、梅宮アンナさんは乳がん(浸潤性小葉がん)ステージ3Aを公表。 そして2025年4月、放射線治療を終え「三大治療」をすべて乗り越えました。その直後、まるで運命のように訪れた出逢いから、わずか10日での電撃結婚。がんと向き合う日々の中で、夫の存在はアンナさんの生活や心に大きな変化をもたらしていきます。10月のピンクリボン月間を駆け抜け、忙しさの中で思わず自分を見失いかけたというアンナさん。 結婚生活5カ月で起きたすれ違いと爆発、そして見えてきた新しい関係性。がんサバイバーとして、妻として、一人の女性として——治療と結婚生活を同時に進めていく今の心境を語ってくれました。
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がんと共に生きるすべての人へ——今、私が伝えたいこと。
がんと共に生きていると、「明日、何が起きるかなんて、本当に誰にもわからない」そのことを、この1年で何度も痛いほど実感しました。だから私は、10年後のゴールを頭の片すみに置きつつ、今日という一日を丁寧に生きたいと思うようになりました。
朝、ちゃんと目が覚めたこと。夜、「今日も一日、無事に過ごせたな」と思いながら眠れること。その一つひとつが、今はとても尊いものに感じます。
今、まさに治療の真っ只中にいる方。再検査の結果を待っている方。大切な誰かの病気を支えている方。
状況も気持ちもそれぞれ違うけれど、それでも私は、どうしても伝えたい。
「一人じゃないよ」。
私もまだ、山登りの途中です。だからこそ、一緒に、ゆっくりでいいから、前へ進んでいきましょう。
“山登り”の途中で見つけた、今の私が感じている小さな景色
手術をしたのが、去年の11月7日。あれから1年が経って、ようやく少しだけ、山登りの途中にある景色が見えてきた気がします。
よく「治療が終わったらゴールなんですか?」と聞かれるんですが、私にとってはそうじゃなくて……。
飲む抗がん剤は24カ月。いま残っているのはあと1年半。ホルモン剤は10年、62歳まで続いていきます。
だから、山登りの本当のゴールは、62歳の私が、再発もなく「卒業ですよ」と言われた瞬間。
そこに向かって、私はまだ途中を登っている最中なんです。でも、この途中にも、小さな幸せはちゃんとあるんですよね。朝目が覚めたときの安心感。普通にご飯を作れた日の喜び。「今日も1日終わったな」と思える夜。
以前は当たり前すぎて気づかなかったひとつひとつが、今では、心にそっと置かれる小さなご褒美みたいに感じられる。
明日なにが起きるか分からないからこそ、1日1日をちゃんと味わって生きること。それが、今の私の生き方になっています。
体調と向き合いながら、少しずつ整ってきた“新しいルーティン”
最近になって、やっと普通の生活ってこういう感じだったなと思えるようになってきました。ほんの少し前まで、朝ごはんを作る気力すらなくて、キッチンに立つことも負担だったのに。
今は、よっちゃんの健康のこともあって、家で作るご飯が増えたり、塩分を控えてみたり、「今日は歩こうか?」ってふたりで散歩したり。健康のための暮らしが、ようやく日常として馴染んできた気がします。
この前、久しぶりに近所の居酒屋に行ったら、味が濃すぎて翌日ふたりとも手がパンパン(笑)。「もう体が受けつけないんだね」って、ちょっとショックで、でも同時に「あぁ、体って正直だな」と気づかされたり。
本当はもっと歩きたいんだけど、この間、足の指を骨折していたことをすっかり忘れていて(笑)、無理してはいけないなと反省。しばらくは歩くより、負担の少ない泳ぐほうが合っているのかな、と自分なりに調整しています。
そうやって「どうやって体と付き合う?」「どこまで頑張って、どこで休む?」そんなことを夫婦でちゃんと話し合えるようになったのは、本当に最近のこと。
治療が終わってもすぐに元の生活に戻れるわけじゃなくて、むしろ新しい暮らし方をゼロからふたりで組み立てていくような時間が続いていて。でも、その一つひとつが、今の私にはとても大事なプロセスなんです。
目指すのは“がんのない自分”ではなく“今を楽しむ自分”
がんと向き合うようになってから、生きることの基準が大きく変わりました。最初のころの私は、治療が終わったら「元の自分に戻れる」とどこかで思っていたんです。体力も、気持ちも、生活も、すべてが以前の状態に戻ることがゴールなんだって。
でも実際は、治療が終わってもすぐには戻れなかった。薬の副作用で思うように動けなかったり、体と心のスピードが全然合わなかったり、空回りして自分で疲れてしまったり。ああ、“治る”ってこんなにも複雑なんだって、やっとわかったんです。
そんなある日、ふっと思ったんです。「もう、あの頃に戻る必要なんてないんだ」って。
私はもう、あの頃の身体でも、あの頃の心でもない。病気をしたから知れたことがあって、失ったものもあれば、代わりに新しく手に入れた感覚もある。その全部を抱えた今の私を、ちゃんと認めてあげていいんだと、そう思えるようになりました。
そこから、生き方が変わりました。朝、ちゃんと起きられること。普通の朝ごはんを作れる余裕が少しずつ戻ってきたこと。よっちゃんのために塩分を控えた食事を考えたり、一緒に外を歩いてみたり、久しぶりに本を読めた日があったり。
どれもすっごく普通なのに、今はその全部が生きている実感として、静かに胸の中に積もっていくんです。
私は今も治療の途中で、登っている山はまだまだ長い。再発しないように続ける薬もあるし、体調との付き合いは、一生続いていくのかもしれない。
でも頂上に辿り着くためだけに生きているわけじゃない。その途中にある景色を、ちゃんと味わいたい。
日々の小さな幸せを見逃さずにいたい。がんがない未来の自分をゴールにするのではなく、今日を楽しめる自分でいたい。これが、病気を経験したからこそ辿りつけた、私の新しい生き方です。
アンナさん衣装:私物
撮影/中田陽子 取材/日野珠希
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