バレエに愛し愛される憑依系ダンサーの踊りを体感したい【王子様の推しドコロ】vol.26 石橋奨也さん

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PROFILE

いしばし・しょうや/1992年生まれ、青森県出身。身長177㎝、血液型O型。幼少期からダンスに親しみ、13歳から地元でバレエを習い始める。18歳でカナダの「ゴー・バレエ・アカデミー」に2年間留学。卒業後帰国し、「K-BALLET COMPANY(現K-BALLET TOKYO)」に入団。2022年公演の『カルメン』で、カンパニー最高位のプリンシパルに昇格。キャラクターにクセのある役柄から王子様まで、幅広い役を踊りこなす、深い洞察力と表現力で惹きつけるK-BALLET TOKYOきっての憑依系ダンサー。

英国ロイヤルバレエ団において日本人初のプリンシパルとして活躍した熊川哲也氏が立ち上げたK-BALLET TOKYOは、昨年25周年を迎えました。その日本を代表するカンパニーの圧倒的なプリンシパルとして、作品のキーとなる重要な役を幅広く担っているのが石橋奨也さん。2025年12月26日からのKバレエ・オプト踊る。遠野物語』では、特攻隊員役を踊ります。

尊敬を超える熊川哲也氏との出会い

『カルミナ・ブラーナ』では堕落していく神父を狂気的に踊り、『マーメイド』では躍動感たっぷりにシャークを踊り、『白鳥の湖』では悩める王子をエレガントに踊る……。まるでその役柄が降りてきたように、役を生きるように踊る石橋さんですが、プロになろうという劇的な転機があったのではなく、「ずっと踊っていたいという思いの延長線上に、自然な感覚でプロのバレエダンサーという道を選ぶことになった」というほど、バレエ愛に満ちたダンサー。

「はじめは、ただただ楽しいという気持ちで踊っていましたが、今、理由を突き詰めていくと、バレエは言葉を使わない、体だけの表現というところに魅力を感じ続けているのだと思います。」
――バレエを始めたのは意外にも13歳と遅めだったそうですね。
「姉の影響で、小さい頃からダンスを習っていましたが、バレエと出合ったのは13歳。地元に初めてバレエ教室ができ、訪ねたことがきっかけでした。両親の影響でクラシック音楽に馴染みがあったことも影響していたのか、習い始めた当初からバレエがとにかく楽しくて、ずっと踊っていたいと思うように。先生が男性だったこともあり、同期の男子が4人もいて、恥ずかしい気持ちはありませんでした。もっとレベルアップをしたいなら、毎日バレエを踊れる環境に身を置いたほうがいいという先生のすすめがあり、カナダに留学しました」
――カナダのゴー・バレエ・アカデミーを卒業後は、Kバレエにソリストとして入団。数ある中から同団のオーディションを真っ先に受けた理由は?
「青森で公演があった時に観に行き、国内屈指のレベルの高さに驚きました。そして幼少時から憧れていた熊川哲也さんが主宰しているということも大きな理由でした。カンパニーに入る前は“踊りがすごい人”という憧れがありましたが、入団後に、熊川ディレクターのダンサーとしてのテクニックはもちろん、表現力そして細部まで細かく意図をこらす演出力、振付の創造性を発揮して、見れば見るほど面白くなる作品を短い期間で作り出していく姿を目の当たりにし、尊敬という言葉では収まらないほど偉大な存在になりました」

音に細心の注意を払う振付

――そんな偉大な存在の熊川哲也氏に声をかけられた印象的な言葉はありますか?
「入団して5年目ぐらいの時、当時はキャラクターが強い役を多く踊っていて、いわゆる王子は踊っていませんでした。そんな時に『白鳥の湖』のジークフリード王子に抜擢していただき、正直驚いてしまったんです。その時に『自分のキャラクターを決めるのはまだ早い』とアドバイスをしていただいたことは印象的でした。自分にはキャラクターが強い役が合っていると思いこんでいたので。でも、王子のような役は実際にいませんし、立ち居振る舞いなどが難しいんですよね。かなり多くの資料をいただき、歩き方から教えていただきました。初めて通しで振りを見てもらった時に「全然違う」と言われたことも印象的。心で踊れていなかったんです。『無理に王子を演じようとせず、青年感を出してほしい』と指示をいただき、役作りに励み、無事舞台と一体化して初役を踊ることができました」
――舞台上の石橋さんの魅力は、衣裳や演出家の意図をくみ取った役になりきる表現。そして音楽の効果を最大限に生かした巧みな体の動かし方で非現実的な役柄でも観客が違和感を覚えず、すっと没入する世界観をつくれるところだと思います。
「大事にしているのは、演出家の意図をくみ取ることですね。ディレクター(熊川氏のこと)の場合は、音楽の音のひとつひとつに合わせて振りをつける方なので、K-BALLET TOKYOの演目を踊る時は、特に音に注視して音を大事にすることが必要だと考えています」
インタビューでの誠実に真面目に回答する穏やかな人柄とのギャップに驚いてしまうほど、舞台上では、奇抜な役でも役とのシンクロ度が高いことに定評があるダンサー。
――以前、テレビ番組でコメントをしていた同僚のダンサーへの分析が驚くほど的確で、洞察力の鋭さも印象的ですが、これからの目標は?
「機会があれば、振付や演出は興味がある分野です。自分はダンサーの中では年齢が上のほうなので、常に踊りをアップデートしながら、長く踊り続けていくことも目標にしています」

新制作『眠れる森の美女』のデジレ王子(写真/K-BALLET TOKYO)

耐えながらももがくように日本人を表現

――古典バレエの枠を越え、他ジャンルとのコラボレーションなどでバレエの多様な魅力を届けるK-BALLET TOKYOとBunkamuraが2022年に立ち上げた共同プロジェクト「Kバレエ オプト」。12月26日から演出・振付・構成を森山開次氏が務める意欲作『踊る。遠野物語』が初演され、石橋さんは特攻隊員役を踊ります。K-BALLET TOKYOのダンサーだけでなく、舞踏家の麿 赤兒氏、歌舞伎俳優の尾上眞秀氏も出演と予想がつかない作品ですね。
「原作は『遠野物語』という短編集。特攻隊員がこの世とあの世が交錯する“遠野”を彷徨う中で、原作に収められた妖怪譚の短編がいくつも描かれる構成です。僕は原作の第99話にでてくる登場人物をモデルにした役。バレエだけでなく、舞踏、歌舞伎、コンテンポラリーダンスと、様々なジャンルのダンスが折り合い、作品を作り上げているところが見どころだと感じています。妖怪が登場したり、尺八や箏など和楽器が音楽に使われていたり、日本古来の文化にも触れられそうです。クラシックバレエの作品では西洋人役を踊ることが多いのですが、今回は日本人。感情を大きく表現するのではなく、耐えながらももがくように表現しながら役作りをしています」
――まだ誰も見たことがない初演となる作品。見どころをあげるとしたら?
特攻隊員と許嫁のデュエットでしょうか。特攻隊員があの世側、許嫁がこの世側にいて、その狭間として演出されているので、二人が触れないように一緒に踊ります。今までにないユニークなシーンになっていると思うので、その演出と踊りを感じとっていただけたら嬉しいです。バレエは、セット、衣裳、音楽、そして踊りを合わせた総合芸術です。幕が上がった瞬間に異世界に引き込まれますよ。『踊る。遠野物語』は多ジャンルの芸術を楽しめる唯一無二の総合芸術。どのタイプの踊りが好きか、自分と向き合うこともできますし、非現実的な世界へ誘われるかもしれません。セリフはなく、自由な感性で見ることができる作品なので、ぜひ体感してみてください!」

石橋さんの姿を見られるのは……Kバレエ・オプト『踊る。遠野物語』東京建物 Brillia HALL(豊島区芸術文化劇場)(2025年12月26日~)

原作は、柳田國男が岩手県遠野地方の地域に伝わる伝説や風習を聞き記した全119話の短編集『遠野物語』。1945年、許嫁への想いを残した特攻隊員の乗った戦闘機が遠野に落ちる。その隊員は謎の少年に導かれながら、許嫁の面影を追い遠野を彷徨い、雪女や座敷わらし、オシラサマなどの妖怪たちに出会っていく……石橋さんは特攻隊員役、許嫁はK-BALLET TOKYOの大久保沙耶氏、東京2020パラリンピック開会式演出、チーフ振付を担当した鬼才、森山開次氏が演出・振付・構成を担当。麿 赤兒氏、尾上眞秀氏も出演し、切ないラブストーリーを軸に展開していく。時代性のある新作を世に生み出してきた「Kバレエ・オプト」4作目にふさわしい、生死感をも問いかける、今だからこそ見たいバレエと舞踏と歌舞伎が融合した、戦後80年の節目の年に贈る軌跡の競演作。東京では、12月26日~28日(東京建物 Brillia HALL[豊島区芸術劇場])。2026年1月9日からは、山形、秋田、青森、岩手、北海道でも公演を開催。詳しくはホームページにてご確認ください。

取材・文/味澤彩子

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