木村多江さんが10年苦しんだ【死別の悲しみ】…「子育てにも影響があった」
映画やドラマに欠かせない俳優として、近年ひときわ存在感が増している木村多江さん。年齢を重ねるとともにますます輝いて見える理由とは? その秘密は木村さんがこれまで経験した人生から導き出した“内面を磨き豊かにする”という決意と覚悟にありました。
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《Profile》
1971年東京都出身。映画、ドラマ、舞台、ナレーション、数々の作品に出演する演技派。最近の出演作に配信ドラマ「忍びの家 House of Nijas」(Netflix)「フクロウと呼ばれた男」(Disney+)など。現在「青島くんはいじわる」(毎週土曜日23:00〜・テレビ朝日系)に出演中。「木村多江の、いまさらですが…」(NHK・Eテレ)での進行役も好評。NHK特集ドラマ「昔はおれと同い年だった田中さんとの友情」が8月に放送を予定しており、赤堀雅秋最新作であるBunkamura Production 2024 『台風23号』(東京・THEATER MILANO-Zaにて)に2024年10月5日(土)~10月27日(日)まで出演する。
「反省はしても後悔はしないように生きる」。そう決めたのは父が49歳で亡くなったことが大きなキッカケでした。当時私は21歳。もっと一緒に過ごせばよかった、もっと優しくしてあげればよかった、もっと怒らせないようにしていたら……。後悔の念で10年ほど苦しみました。
苦しんだ先で思ったのが、後悔しても父との時間は取り戻せないということ。「私は未来に向かって進むしかない。何事も反省しても後悔せず、父のことを教訓として胸に刻んで生きよう」。そう決めました。
だって怒りや考えてもしかたのない苦しみはあまり良いシワにはならないでしょう(笑)。何かあったとき、次の日まで引きずってネガティブなシワを刻むのか、自分を褒められるところを見つけて一日を終わらせて笑いジワだけ残すのか。これからは内面をどれだけ磨くかが、私の見た目を、人生を作っていくと思って、内側を豊かにすることに特化していこうと決めたんです。
父のように早く死ぬかもしれない。 そんな思いで子どもには2歳から料理をさせた
子どもを産んだのは36歳のとき。赤ちゃんのときは「私が自分で全部やらなきゃいけない」と思っていたんですが、あるとき、私一人でできることなんて何もないと気づいたんです。
子どもが0歳なら私もお母さんとしては0歳。 初心者だったら頼ればいいんだと思って(笑)。それに私は忙しいとテンパってしまうタイプなので、とても仕事と子育てを両立できるような状態じゃありませんでした。お隣さんや近所の方、商店街の方、友人、ママ友、みんなに素直に「助けて」と声をかけさせてもらって支えていただきました。
急に自分の歯が痛くなったときには商店街の和菓子屋さんに「歯医者さんに行ってくるのでちょっと子どもを見ててください」とお願いしたり。皆さん快く面倒を見てくださって、おかげさまで子どもはものすごくフレンドリーな、コミュニケーション能力が高い人になりました。
子育てで気をつけたのは、まず物を与えすぎないこと。能動的な人間になってほしいと考えていたからです。
親戚にも「あげるのは本だけでお願いします」と伝えました。だからまだ小さいときに「お買い物ごっこがやりたい」と言う子どもに「レジスターや買うもの、お弁当は全部自分で作ろうね」って言っていましたね。
そのせいかはわからないですけれど、成長した今では自分で起業して自分で稼ぎたいと言っています。
子育てでもう一点心がけたのは早く自立を促すこと。父が早く亡くなったので私も早く死んでしまうかも、そうなったときにこの子は1人で生きていかなきゃいけないかもしれない。そう思うといかに自立して生き残っていけるかが大事です。
例えば2歳ぐらいから調理器具を持たせてお料理をさせたり。いかにサバイバル能力をつけるかというのは子育ての中でいつも考えています。
私がそばにいるうちはいろいろと言ってあげることができる。言えなくなる日が来る可能性があると思ったら今言えることは全部伝えておきたい。とは言っても私は頼りない母なので、反面教師として自立心が加速してるのかもしれません(笑)。
母になって気づいた自分の甘え「都合の良いときだけママの肩書きを利用してない?」
子育てをしている中でほかにも気づきがありました。「私は自分の都合で、時には俳優、時にはお母さんという肩書きを利用してるんじゃないか、どちらかが都合が悪くなったら一方の肩書きに逃げる、そんなことをしているんじゃないか」と気づいたんです。
「何も肩書きがなくなった私はどうなんだろう。母親としてすごいことはなんにもできないし、俳優として素晴らしいかというとそうでもない。妻、母、俳優、そのどれでもなくなった私って空っぽなんじゃないか?」。そう思ったときに自分の中身をどれだけ豊かにしていくか、潤していくかが大事なんだと思いました。
私のまわりには祖母をはじめ、70代のお友達や素敵な先輩方がたくさんいらっしゃる。そういう方たちを見て「自分のエゴイズムが出ないようにしよう」「謙虚でいよう。でも保守的にならないようにしよう」といったことを改めて意識しています。私は役のイメージからか、おとなしそうと思われることが多いけれど、ホントは割とロックなんですよ(笑)。
年齢が増えるのはダイヤのカラットが増えるということ。 その重みに見合う内側の豊かさを育みたい
Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」ではアクションもやるとお引き受けしたはいいものの、アクション練習があまりにもすごくて(笑)。初日に「はい、前転して」「後転して」「側転して、はい受け身」って言われて、いきなりのスパルタにびっくり。でもやってみたら意外にできるんですね。最初は50代の私にはちょっときつすぎるかも、無理かもしれないと思っていたんですが「あれ?普通にできる!」って嬉しかった。
「50代だからできない」なんて先入観はいらない、年齢のせいでできないなんていうのは思い込みだと痛感しました。だからこれからもやりたいことをやろうと思いましたね。
今も海外の方なんかとお仕事する機会があるんですけれども、さらに仕事の場を広げていきたいっていう思いはずっとあります。私は好奇心も強いので日本のシステムだけじゃない、いろんなシステムや作り方を見てみたい。保守的にならずに挑戦していくというのは私の永遠の課題です。
今年の誕生日にお友達がおめでとうの連絡をくれたんですが「ダイアモンドのようにカラットが増えたね」って言ってくれたんですよ。素敵な言葉じゃないですか?
数字が増えるっていうことは、輝きも増えるということ。 そうやって人は知識や知性が増えてどんどん豊かに深くなっていく。年を重ねるって、そういうことだって思えたら素敵です。
年を取ることはつらいことでも可能性が狭まることでもない。豊かにするのは自分次第です。自身に制限をかけることなく保守に走らず、いろいろなことにチャレンジしてこれからも前向きに未来を切り開いていきたいですね。
《衣装クレジット》
ブラウス¥33,000ワンショルダートップス¥9,900パンツ¥31,900(すべてLE PHIL/LE PHIL NEWoMan 新宿店)イヤリング¥3,300(ミミサンジュウサン/サンポークリエイト)右手リング¥17,600(ete bijoux)左手リング¥16,500(ete)サンダル(スタイリスト私物)
撮影/蔦原佑矢(UM) ヘア・メーク/林由香里 スタイリスト/大塩リエ 取材・文/柏崎恵理
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