申真衣さん“ゴールドマン・サックス時代”の上司・キャシー松井さんから得た価値観とは?
『VERY NaVY』で、現代における女性活躍のアイコンとして期待される申真衣さんのエンパワメント対談連載がスタート。記念すべき初回は、ゴールドマン・サックス時代に出会い、彼女にとって働く女性の最初のロールモデルとなった、元上司のキャシー松井さん。申真衣さんが「今、話したいこと」とは?
※掲載中の内容は、「VERY NaVY」2024年4月6日発売時のものです。
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「キャリアを築き続ける」という価値観
キャシー松井さんが
すべて諦めなかったから、今がある。
女性のパワーを経済成長に生かす〝ウーマノミクス〞を提唱、2021年に女性3人でESG重視型のグローバル・ベンチャーキャピタル・ファンド「M Power Partners Fund L.P.」を創業したキャシー松井さん。日本のエンターテインメント業界で躍進を遂げる「GENDA」の代表取締役であり、NaVYのモデルとしても人気を集める申 真衣さん。実は、ゴールドマン・サックス証券時代の先輩・後輩という間柄でもあるおふたりの対談が実現。お互い、どのような印象をお持ちでしたか?
申さん:先輩というのも恐縮ですが、私が社会人になる以前からキャシーさんはゴールドマン・サックスのパートナーとして活躍されていました。シニアであり、家庭を持つ女性であり、がんサバイバーでもある。そういう女性の活躍を間近で見ることができたのは、私のキャリアにおいてすごくラッキーだったと思います。
キャシーさん:真衣さんは一般的な「働く女性」の型を壊した人という印象。ゴールドマン・サックス時代にキャリアのことなど相談を受けていましたが、モデルとしても活躍されていることを最近知り驚きました。会社を辞め起業したこともそうですが、真衣さんは他の人が想像する以上に大きな夢を持っているなと。
申さん:ありがとうございます。キャシーさんは私が会社を辞めると伝えたとき、すごくびっくりされていましたよね。
キャシーさん:驚きましたよ。会社のなかで上に上がっていける数少ない女性だと思っていましたから。私は今スタートアップに投資をしていますが、女性の若手起業家のロールモデルとなる人が少ない状況。真衣さんならその存在になれると、期待しています。
──おふたりはリーダーとして「(日本の)女性の働く環境の未来」についてどう捉えていらっしゃいますか?
申さん:私が入社したときは会社から歩いて5分の距離に託児所があって、4月に公立保育園に入る前に利用できる企業託児所があるのは、働き続ける選択をする上で大きな安心材料でした。ゴールドマン・サックスには2000年初頭から、女性社員の採用や促進、ネットワーキングやメンタリング、キャリア構築を支援する女性のネットワークがあり、託児所ができたのは、キャシーさんをはじめとする当時の女性ネットワークの方々のおかげです。
キャシーさん:私が最初の子を出産したのは1996年。当時の4カ月の育児休暇をフルで使って、元の席に戻りました。でも、社内では実力のあるシニアの女性が辞めていくケースも。事情を分析すると「託児所がない」という理由があったことが気になって。2008年、当時は金融危機まっ最中ではありましたが、女性社員を中心とした声を受け、会社のマネージメントが六本木ヒルズのオフィスの近所に託児所を設けることになりました。
申さん:私が働いていたときの実感としては、出産や育児で会社を辞める女性はほとんどいませんでした。すぐ近くの託児所で昼休み授乳もできる。働いていて一緒にいる時間が少ないから「そのぶん授乳しよう」と、母としてできることの選択肢が増えたのもありがたかったと思っています。
キャシーさん:子どもや孫の世代に「上の世代が何もしなかった」と思われたくないですよね。女性を取り巻く環境は段階的ではありますが、確実に変化しています。私が1999年にウーマノミクスを提唱した頃は人権や平等問題に興味を持つ人にしか理解のなかった多様性、ダイバーシティという言葉とその解釈が広まり、企業の多様性の現状を透明化する〝見える化〞の推奨、女性の就業率も増加しました。コロナ禍直前まで女性の就業率は欧米を超えていたことは成果だと思います。一方で、何が変わらないか。働く女性の半数は相変わらず非正規雇用で、マネージャークラスにはなりづらいという現実がある。民間もそうですが公的部門はもっとで、衆議院議員の女性の割合は70年以上10%という数字。これが、ジェンダーギャップ指数が低い理由です。
申さん:ジェンダーギャップ指数に関しては、税金をかけずに上げられるポイントもたくさんあるとは思うんです。例えば今論点とされていることでいえば、夫婦別姓や配偶者控除を改正すれば、順位だけなら今よりも上げられるとは思うのですが、キャシーさんのおっしゃるように構造的な問題があって、少しずつ変化したとしてもドラスティックには進まないように感じることもあります。女性ひとりひとりが〝自分らしい選択〞を繰り返し、積み重ねていくことで自然と社会が変わっていく。自分たちにできることは、それしかないのかなって思っています。
キャシーさん:そうですね。良い兆しと感じるのは、若い男性たちの意識が変わってきたこと。先ほど、とあるスタートアップ企業と話したところ、男性社員のひとりは3カ月、もうひとりは6カ月育児休暇をとったそうです。
申さん:私も今の会社でその空気を感じます。しかも、育児休暇をとらされているのではなく、〝子どものため、家族のためにとりたい〞と自ら志願する男性が多い。朗報ですよね。
キャシーさん:価値観は確実に変わってきています。こういう形でマイノリティがマジョリティに変わっていけば、日本は変わりますよ。
──責任ある役職を任されることも増えていく、NaVY世代のキャリア女性。改めて、おふたりが恐れずに〝挑戦し続ける〞原動力は何でしょうか。
申さん:私はゴールドマン・サックス入社2年目のとき、ロンドンのトレーディングのオファーがあったんです。英語が得意ではないことに怖気付いてしまい断ったことを、いまだに悔しく思っています。その人生を選んでいたらどうなっていたかが悔しいのではなく、明らかにいいオファーなのになぜ引き受けなかったのかと。怖いから挑戦しないは、絶対に後悔する。大きな学びとして、自分の心に常に留めていることです。
キャシーさん:今の会社を立ち上げる話があったときも、恐れるものはなかったですか?
申さん:なかったんです。ゴールドマン・サックスには戻れなかったとしても、金融にはきっと戻ることができるだろうと。それよりもチャレンジしない方がもったいない、ダメだったらそこで得るものもあるだろうと考えていました。キャシーさんほどのキャリアを積んだ人で、そこから新たな挑戦をする人はすごく限られていますよね。
キャシーさん:そうかもしれないですね。私だけではなく、パートナー2人の強い意志に導かれたところもあります。働くことを迷ったのは、一度だけ。乳癌の闘病を終えたときです。当時36歳、その前年に長女を出産、ゴールドマン・サックス 東京オフィス初の女性パートナーに選ばれ、アナリストランキング1位を獲るなど「ここから」というときにがんが発覚。死ぬかもしれない経験を経て、子ども・家族という優先順位が明らかになり、会社復帰を悩みました。親しい友人たちが口を揃えて「アップ トゥユー」というなか、義母だけが「毎週日曜の夜はどんな気持ちだった?」という質問を投げかけてきたんです。私はすごく素直に「疲れている。でも、明日会社に行くことが楽しみだった」と答えていました。私は働くことが好きで、それが自分らしい選択と気づかせてくれた義母には感謝しています。
申さん:素敵なエピソード。私も母になり、自分を表現できる仕事という場所があることのありがたみをいっそう感じています。100年時代といわれる今、80歳までは働こうかと。ここからが本番と、未知なる自分のキャリアにワクワクしているんです。
キャシーさん:最高ですね。ワクワクしていない人は「なぜ、しないのか?」を考えてみるといいと思います。日本は縦割り社会で異なるセクターの人たちと接する機会が少ないですが、アートでもファッションでも、別な世界の人とのコミュニケーションによって自分自身が気づいていなかったエネルギーが見つかるかもしれません。私もそういったコミュニティから多くのエネルギーやアイデアをもらっています。
申さん:今いる場所だけが可能性じゃない。キャシーさんの姿から教わったことです。この先もワクワクさせてくれる存在でいつづけてください!
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申 真衣さん
1984年生まれ。東京大学経済学部経済学科を卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。2018年に当時最年少となるマネージングディレクターに就任。現在は共同創業による株式会社「GENDA」の代表取締役を務めながらモデル業もこなす。2児の母。
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キャシー松井さん
1965年米国カリフォルニア州生まれ。ハーバード大学卒業、ジョンズ・ホプキンス大学大学院修了。元・ゴールドマン・サックス証券 副会長兼日本株ストラテジスト。2021年に日本初のESG重視型グローバル・ベンチャー・キャピタル・ファンド「MPower Partners Fund L.P.」共同創業。
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撮影/酒井貴生〈aosora〉 ヘア・メーク/陶山恵実〈ROI〉 取材・文/櫻井裕美 編集/羽城麻子
VERY NaVY2024年5月号『申 真衣さんの「今、話したい人」1人目:キャシー松井さん』より。詳しくは2024年4月6日発売VERY NaVY5月号に掲載しています。
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