港区の「ママランチ会」の実態。インスタグラムには映らない“会計係”

「港区女子」。それは何かと世間の好奇心を煽る存在。彼女たちは一体どんな女性なのか? そんな議論が度々上がるけれど、港区で暗躍する素人美女、パパ活女子、あるはラウンジ嬢など……「港区女子」の意味合いや捉え方は人それぞれ。

そして謎に包まれた彼女たちにも時間は平等、歳をとる。果たして港区女子たちは、どんな着地をしているのか。現在アラフォーと思しき元港区女子たちの過去と現在に迫る。

※この物語は実際の出来事を元にしたフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

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時給3000円、可愛い女子大生限定の怪しいバイト…普通の女子大生が「港区女子」になるまで

【朝美の現在】おいしく働くママ

——ごめん、ちょっとだけ遅れそう。先に始めてて!

PCを閉じると急いでLINEグループにメッセージを送った。今日は昔ながらの女友達と毎月恒例のランチをする日だ。急いでメイクをしなくては。

年子の娘2人が小学校に入り子育ても落ち着き、最近はリモートで午前中だけ働くようになった。専業主婦は少し物足りないと思っていたところに「朝美ちゃん、僕のアシスタントやらない? 日程調整とか、ちょっとしたことを手伝ってくれる人探してるんだ。元秘書だし、朝美ちゃんなら安心」と、昔の飲み友達から連絡が来たのだ。

1日1時間前後、スケジュール調整や簡単なメールのやりとりを手伝い、月20万円。お小遣い稼ぎには悪くない仕事、比較的おいしい話だ。

彼は学生の頃から、私を可愛がってくれる「お兄ちゃん」的存在だった。

当時は商社マンで、就活や恋愛相談にもよく乗ってくれる安心安全、そして異性対象外のキャラだったけれど、気づけばCOOとして転職したスタートアップの会社が上場したとかで、すっかり財と地位を築いている。いまだに独身と聞くと、ちょっと惜しいことをしたと思う。

私が元秘書だったのはもう10年以上も大昔の話だが、新卒の頃にもらった内定の中から日系企業でなく外資系の弁護士事務所の仕事を選んだのは正解だったと思う。

プライベートも確保されたさほど苦のない業務だったが、たまたま担当についたシニア弁護士が業界の有名人で、なんとなく、私のキャリアにも箔がついた。そして同じく、私は事務所内でMBAから帰国したばかりの夫と出会い、結婚と同時に仕事を辞めた。

スポンサー付きのママランチ会

「遅くなってごめん!」

自宅マンションの麻布十番から六本木通りまでタクシーを走らせ、中国飯店の階段を上がり個室に入ると華やかなメンバーが円卓を囲んでいた。

ちょうどシェフが大きな北京ダッグを抱えてきたところで、女たちが一斉にスマホを向けている。皆、20代から遊び続けてきたメンバーだ。

「朝美、タイミングばっちり〜!」

すやすや眠る男の子を入れた抱っこ紐ごと振り返り、笑顔でスマホを向ける由利に、私は年甲斐なくちょっとおどけたポーズで目線を送る。たぶん、すぐにInstagramのストーリーズに上がる動画だ。

「ほら、朝美はこっちに座って」

「はーい。あっくん、今日もありがとう!」

隣の空席を勧める“あっくん”は、華やかな女たちが何人も集まる中、男1人でニコニコしている。彼は昔から私たちにおいしいものを食べさせてくれる不動産系のおじさんの1人で、それは気づけばもう20年近く、女たちが全員結婚し、ママになった今も続いている。

ただし、一応はママである女たちが気軽に集まれるのは昼間。

だからあっくんは、毎月せっせと贅沢なランチのお店を手配してくれる。「個室だから、赤ちゃん子どももウェルカムだよ」という一言もちゃんと添えて。ある意味、昼間の六本木は夜の西麻布より格上ではないだろうか。

女たちの写真撮影タイムがはじまると、「俺が抱っこしててあげるよ」と、あっくんは慣れた手つきで子どもを抱き、カメラの死角になる部屋の隅に寄る。

「元港区女子」?

「ああおいしかった。本当に楽しい。今日もあっくんのおかげで疲れがとれたよー」

満腹になった女たちが口々にそう言うと、彼の目尻はさらに下がる。

「おいしいものくらい、旦那だって食べさせてくれるだろう」

その一言に、私たちがここぞとばかりに次々に口を尖らせるのはお決まりだ。

「うちは昼間っからこんな素敵なお店連れてきてくれない!」

「サラリーマンだし、平日のランチなんて無理無理無理」

「今さら旦那とごはん食べても楽しくないもん」

半分事実ではあるものの、ホストは立てるべき、というのを皆ちゃんとわかっている。

「そんなことないだろ、港区のいい家に住まわせてくれる、立派な旦那なんだから」

毎度の流れで、あっくんはさらに上機嫌だ。

「港区の男なんてピンキリ。私たちの同年代の男なんて小金しかないし、真面目すぎてつまんないもん。子育てしながらせっせと働いて、お小遣い稼がなきゃいけないんだから!」

「エリート弁護士つかまえてさっさと寿退社した朝美が、よく言うよ!」

とうとうお腹を抱えて笑いはじめた還暦をとっくに過ぎた男を見て、私まだ自分が女として機能していると実感した。30代後半なんておばさんもいいところだと思っていたけれど、男たちも歳をとるのだから構図は特に変わらない。

「元港区女子は、これだからこわいよ」

ここ数年、やたらとよく聞くようになった「港区女子」という言葉。たしかに20代の私たちはその種の女だったかもしれないと思う。

別にパパ活をしていたわけでも、誰かから好き放題ブランド品を買ってもらえたわけでもないけれど、おいしい経験はたくさんできたし、要領よく遊んできたことは間違いない。

しかし特に悪いこともしていないのに、「港区女子」という響きの尖り方には違和感がある。ただ、そういう女の中には大金持ちの愛人になり毎月何百万ももらっているとか、会社を作って大金を出資をさせたとか、そんな強者もたくさんいる。

私たちなんて、港区女子の中ではひよっこレベルの可愛いものだろう。

あっくんの言うことには一理あるけれど、所詮雇われ弁護士の夫の収入では、生活には困らずとも世の中が思うようなセレブ港区生活は到底送れない。

「ねえ朝美、来週夜、ちょっと出られない?」

すると突然、同じく「元港区女子」に違いない美香が小声で囁いた。

「どうして」

「……たまには飲みに行こうよ」

小動物のような丸い目をいたずらぽく光らせて彼女は続ける。ひと回り年上の経営者と結婚し、夫に常に可愛がられているせいか、美香はママになっても微塵も歳をとらず可憐な少女のようだ。

「若いイケメンたちと飲み会。ね、お願い朝美」

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【続】ルイ・ヴィトンが似合う年下男子に“元港区女子”が怯んだ理由「ブランドロゴを着る男なんて、嫌いだったのに」

取材/山本理沙 イラスト/黒猫まな子

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