松任谷由実さん71歳、いま再び扉を開く。時空を超えてーーAIとともに紡ぐ、未来へのメッセージ

40枚目のオリジナルアルバムが開く“未来へのワームホール” 

 

STORY世代の多くにとって、ユーミンの歌は青春そのもの。
恋をして、傷ついて……そのたびに私たちの心を代弁するように、そっと背中を押してくれたのがユーミンのメロディでした。そして今もなお、色褪せることなく、むしろ新たな挑戦で私たちに勇気をくれる存在。

そんなユーミンが、11月18日(火)発売の40枚目となるオリジナルアルバム『Wormhole / Yumi AraI』の完成を記念し、10月17日、東京・109シネマズプレミアム新宿で本人登壇による「PREMIUM試聴会&トークライブ」を開催しました。

全身ブラックのスタイリッシュな装いでユーミンが登場すると、会場は大きな拍手に包まれました。50年を超えるキャリアを重ねた今もなお、自然体な姿がとても印象的です。

新作『Wormhole / Yumi AraI』のテーマは、タイトルにある「ワームホール=時空を超えるトンネル」。

今作は、荒井由実時代から松任谷由実時代の膨大なボーカルトラックを歌声合成ソフトウェアSynthesizer Vに学習させ、かつてない“第3の松任谷由実の声”を誕生させたという。時間も世代も超えて響き合う声、それが“Yumi AraI”です。

アルバム完成の率直な心境を尋ねられると、

「目下ツアーのリハーサル真っ最中で、このアルバムを自分の身体に落とし込むのに(どうしたらいいんだろう)という状態だったんですが、数日前にすとんと身体に入りました。AIと共生できたという手応えを感じています」と、ユーミン。

「AI(Synthesizer V)に荒井由実時代から松任谷由実時代の声を学習させ、“第3の松任谷由実の声”を生成し、いま現在の肉声と共に再構築するという、前例のない挑戦。まさに“自分自身ともう一人の自分”との対話のようでもあった」と、制作当時の不安を語りつつも、「次の扉を開けようと覚悟を持った。キャリアを重ねた今だからこそ、テクノロジーを得てすべてのエッセンスを注ぎ込めた。これが今の私の最高傑作」と晴れやかな笑顔が印象的でした。

アルバムタイトル『Wormhole / Yumi AraI』について尋ねられると、笑顔でこう続けました。

「松任谷(正隆氏)が“あなたの旧姓、AとIに囲まれてるんだぞ”って言ってきたんです。ダジャレみたいだけど、思し召しのように腑に落ちたんです」

AIという“もう一人の由実”との共演は、過去と現在、感性と技術をつなぐ“ワームホール”そのもの。そして、その先に込めたメッセージは、「強く、生きよ」

53年のキャリアを経て、いまも進化を続けるユーミンの歌声が、再び私たちの心に時空を超えて響きます。

「人の心を動かせるのは、人でしかない」

――「強く、生きよ!」ユーミンがAIとともに紡ぐ、未来へのメッセージ――

AIとの共演という前人未踏の挑戦の裏で、ユーミンは“人間らしさ”とは何かを改めて見つめ直していました。

ChatGPTを使った作詞にも挑戦したものの、「新鮮味がないなって思いました。日本語には行間があり、音律と一緒になったとき、その隙間に受け手が自分のリアルを重ねられる。その情報量は膨大なんです。創作って、自分の中の小さな衝撃が次のフレーズを生むもの。置きにいく作り方では、人の心は動かせない。人の心を動かすのは、人でしかできない…そう確信しました」

さらに、

AIと生身の人間の境界線が実感できた。自分がなくなってしまったら飲み込まれてしまうので、自分がしっかり強くあることがAIと共生できることだと思います。」そう語るユーミンの姿には、半世紀以上もの間、聴く人の人生に寄り添ってきた表現者としての誇りがにじみます。

ふたりのルーティンは午前中の「ひとお茶」「ふたお茶」

続いて松任谷正隆氏が登壇し、久々の夫婦ツーショットによるトークも展開。普段のご夫婦の様子が垣間見られるような貴重な話も。

毎朝、6時前には起床して運動することを日課にしているというユーミン。午前中に2度夫婦のティータイムがあり、そこで新聞や雑誌を読みながら気になる話題があるとユーミンが正隆氏に、“読み聞かせ”をするそう。とにかく会話が多いというお二人。

ユーミンの音楽は、常にそうした生活や何気ない会話の中から生まれているのだな…と納得

「本当は私が1人時間を作りたくて早起きして始めた習慣だったのだけれど、いつの間にか松任谷さんが混ざってきて(笑)」と語りつつ、お二人の仲の良さがにじみ出てくるエピソード。AIと向き合う革新の裏にある、丁寧な暮らしを味わうユーミンの日常。日々のコミュニケーションの中で互いに新しい情報を共有したり想像を膨らませながら、音楽家としてのアイデアが生まれているのだと感じました。

「AIの対極にあるのが、いまこの瞬間を生きる自分。そのリアルが100年後の現実になるかもしれない」「100年先のカルチャーを見てみたいね」と語り合う夫婦の会話まで披露され、おふたりの世界観の豊かさに会場も和やかな空気に包まれました。

AIと人が響き合う――“第3の声”が生まれるまでの舞台裏

さらに、ミックスエンジニアのGOH HOTODA氏、音声合成ソフト「Synthesizer V」開発者のカンル・フア氏も登壇。

HOTODA氏は「初めてデモを聴いたとき、本物と区別がつかないほどで驚いた」と語りながらも、「聴き重ねるほどに倍音が足りず、人の声とのギャップを埋める作業は難しかった」と制作の舞台裏を明かします。それでも松任谷正隆氏が修正を重ねるたびに“V”の声に愛着が湧き、成長していくのを感じたという。

正隆氏は、「Vに歌わせるための元データは由実さん自身の生のパフォーマンスをMIDIデータ化したもの。その“魂のデータ”をSynthesizer Vが引き継ぎ、そこからどれだけ成長できるかが挑戦だった」と説明。そしてユーミンは、“V”と併走するために、自らも千本ノックのようなボイストレーニングを重ねたそう。

「荒井由実時代のノンビブラートに近づけるために、肉声の震えを抑える訓練をしました。Vに寄り添うとき、リアルな私の声がエモくなければ意味がない。感情的に歌ってもブレないように鍛えました」と語ります。

AI開発者のカンル・フア氏も、「正直、ロボットのように聴こえたらどうしようと思っていたけれど、聴いてみたらリアルかどうかではなく“心地よく聴けるか”が大事だと気づいた」と笑顔を見せました。

ユーミンもその言葉に深くうなずき、「それこそが、AIとの共生が生み出した“新しいリアル”なのかもしれない」と応えました。

 

会場となった109シネマズプレミアム新宿は、坂本龍一氏が音響監修を務めた最高峰の音響空間。GOH HOTODA氏によるDolby Atmosミックスで立体的な音像に包まれる試聴体験は、まるで音楽という“宇宙”を旅しているようでした。

この日のために特別に制作されたリリックビデオを含む映像作品“Wormhole Visual Version”も上映され、観客はユーミンの新たな旅の幕開けを目の当たりにしました。この映像は、アルバム『Wormhole / Yumi AraI』初回限定盤の特典映像として収録予定。

さらに、昨年大きな反響を呼んだ『THE JOURNEY 50TH ANNIVERSARY コンサートツアー movie 〜5.1ch/4K〜』の再上映も決定しています。

そして、11月17日(月)東京・府中の森芸術劇場どりーむホールを皮切りに、全国72公演におよぶ壮大なツアー『THE WORMHOLE TOUR 2025-26』がスタート。

時空を超える新たな音の世界を携えて、再び日本中に“ユーミン旋風”が吹き抜けます。
あの頃の自分に会いに、そして“今”のユーミンに出会う旅へ。私たちSTORY世代に、再び音楽で勇気とときめきをくれる時間になりそうです。

『Wormhole / Yumi AraI』 の特設サイト

アルバム、ツアーの最新情報をチェックできる他、アルバム制作の進捗状況や特別コンテンツが、刻々変わる経時変化として楽しめるサイトになっている。

詳細はこちら。https://yuming-wormhole.jp/

松任谷由実

まつとうやゆみ 1972年、多摩美術大学在学中に荒井由実として、シングル「返事はいらない」でデビュー。ユーミンの愛称で親しまれ、「ひこうき雲」「守ってあげたい」「春よ、来い」など、数々の名曲を生み出す。2022年デビュー50周年を迎え、『ユーミン万歳!~松任谷由実50周年記念ベストアルバム〜」をリリース。オリコン史上初となる6年代(1970年代から2020年代)で首位を獲得。ギネス世界記録に認定された。ソロ歌手として史上初のアルバム総売上3,000万枚を突破する等、名実ともに日本を代表するミュージシャンのひとり。

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