人にすすめたくなる【ママの課題図書】3選!中受から夫婦問題まで“リアルを描いた作品”に注目
VERY11月号でも登場、2児のパパで書評家・ライターの吉田大助さんに「ママたちにオススメの本をテーマに読書会しませんか?」とお誘いしたところ「だったらぜひこの3人と!」。谷川さん、呉さん、カツセさんに、VERY読者への愛が詰まった“課題図書”を選んでもらい、その理由を聞きました。
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谷川嘉浩さん、 呉美保さん、カツセマサヒコさんが
「今、語りたい一冊」は?
VERY的 誌上読書会
『スマホ時代の哲学』が大ヒット中、
京都在住の職業哲学家
谷川 嘉浩さん
Recommend!
『子どもとめぐることばの世界』
子どもの世界の見え方
を忘れた大人が
ワクワクする一冊
『子どもとめぐることばの世界』
萩原広道 著 (ミネルヴァ書房)
子どもがどのように言葉を身につけていくかを、発語前、話し言葉、やりとりのステップを通じて解説。乳幼児ママだったら「子どもへの声掛けってこんな意味があるんだ!」と腹落ちする内容盛りだくさん。
❝「傷つかない育児書」
ありふれた日常が
キラキラと輝きます❞
吉田 カテゴリ的には「育児書」にも入れられると思うのですが、哲学書のようでもある、不思議な読み心地の一冊でした。
谷川 私自身に子どもはいませんが、“人が変化していく瞬間”に昔から関心があり、読書でもそうしたテーマに惹かれます。著者、萩原さんは作業療法士・公認心理師として現場と研究を行き来しながら、“子どもが世界をどう理解しているのか”を、とても丁寧に言葉にしている。大人から見ると「なぜ?」と不可解に見える行動も、否定せずそのまま観察する姿勢が一貫していて、そこに強く心をつかまれました。
吉田 想像以上にスリリングで、ワクワクする読書体験でした! うちの次女もちょうど2歳で、小さいおもちゃの箱に何故か入りたがるのですが、「これ『スケールエラー』っていうのか」なんて。
谷川 子どもは、「これは“入る”もの」というカテゴリの理解が先にあり、実際の大きさはまだうまく処理できない。子どもの世界では「ちゃんと筋が通っている」というのが面白いですよね。ところで吉田さん、お子さんの最初の言葉って覚えていますか?
吉田 「ママ」でしたね。「パパじゃないのか…」と傷つきました(笑)。
谷川 でも、それが本当に「ママ本人」を指していたかは分からないんですよね。「ママ」という言葉が、「みんなこっちに来て」とか「なんとかして」という意味だった可能性もある。初期は言葉の意味がゆらいでいるということも、この本は教えてくれています。
吉田 そうか、娘は本当は「パパ」と言いたかったのかも(笑)。
谷川 「クック」とかも、靴そのものより「外に行きたい」という合図だったり。実は萩原さんとは大学院の同期で、その縁で「これは靴かどうか」を子どもが判別する実験に立ち会ったことがあります。でも子どもがカゴに足を入れようとする様子を見ているうちに「カゴもスニーカーも…どっちも靴でいいじゃん!」とだんだん思い始めて(笑)。子どもにとっては、足を入れようとするもの全てが靴になる。その意味の揺れこそ、言葉が育っていくプロセスなんです。
吉田 子どもの言葉や行動ひとつに、こんな深さがあるとは思っていませんでした。子どもとのありふれた日常が、きらきらと輝いて見えてきます。ところで、もう一冊迷った本があると伺いましたが。
谷川 アリソン・ゴプニックの『思いどおりになんて育たない』です。親が「こう育ってほしい」と思う気持ちと、子どもが実際に歩む現実のズレを、とても誠実に扱っている本で。
吉田 ご自身の経験とも重なりますか?
谷川 私は完全に「親の思い通りには育たなかった子」でした。親はもう少し普通の道を望んでいたと思いますが、僕は興味の向くほうへ進み、研究の道へ。年収や将来、恋愛のことまで、心配は多かったはず。それでも途中で、コントロールを手放してくれたんですよね。最終的に「どう育っても見守ろう」と思ってくれていたのだと、今は感じています。
吉田 育児書をきっかけに、ご自身の育てられ方まで捉え直してしまう谷川さんの視点に、深くうなずかされました。
谷川 結局、子どもは大人の予定や論理で動くわけじゃない。2冊ともそこが共通しています。子どもを大人の枠に押し込めるのではなく、子どもが世界をどう見ているかに寄り添う視点。そこに大人のほうの見方が変わるきっかけがある。そんな感覚をくれる読書でした。
\ これもオススメ! /
『思いどおりになんて育たない』
アリソン・ゴプニック 著(森北出版)
心理学者の著者が、親は「子どもを思い通りに形づくる職人」ではなく「環境を整える庭師」であるべきだと説く。最新の科学知見をもとに子どもの好奇心や学びが育つプロセスをわかりやすく示してくれる。
Profile
京都大学大学院で哲学を学び、現在は京都市立芸術大学専任講師。社会の変化を丁寧に読み解き、現代人の思考やコミュニケーションのあり方を考察する著作で注目を集める。『スマホ時代の哲学』は10万部を超えるベストセラー。
2児のママで映画監督、最新作
『ふつうの子ども』がアマゾンプライムビデオで配信中
呉 美保(お みぽ)さん
Recommend!
『金の角持つ子どもたち』
子どもも大人も
純粋でまっすぐ。だから
私は救われました
『金の角持つ子どもたち』
藤岡陽子 著 (集英社文庫)
小6になる主人公が5歳から続けてきたサッカーを辞めて難関国立中学の受験に挑戦する。主人公だけでなく、周りの大人たちの葛藤や挑戦にも胸を打たれる。
❝心洗われる中受小説。
子ども、親、塾講師の
視点の切り替えに唸る❞
吉田 呉さんがこの本を選んだ理由をまず伺いたいです。いわゆる「中受小説」ですよね。
呉 普段あまり手に取らないジャンルですが、ある日、ママ友がオススメとして自宅のポストに入れてくれて。ちょうど中学受験をさせるか迷っていた時期で、率直にとても“純”な小説だと感じました。
吉田 どんなところに“純”を?
呉 登場人物の誰もがまっすぐで、応援したくなるんです。私はつい穿った視点で「こんなに頑張る子いる?」「こんなに理想的な夫婦っていなくない?」と意地悪に読んでしまうところがあるのですが(笑)、それでも読後にじんわり残るものがありました。特に塾の先生が話す「金の角」の比喩にはハッとしました。リアルかどうかを超えて、親や先生の「大人の純な気持ち」がふっと見える場面があるんですよね。だから、自分の子どもにもいつか読んでほしいなと思いました。
吉田 章ごとに視点が切り替わるのも面白いですよね。子ども、親、塾講師、それぞれの立場から語られることで、中学受験の構造が立体的に浮かび上がる。我が家は長女がまだ小2ですが、勉強になりました。呉さんのお子さんは受験予定ですか?
呉 小4の長男は昨年から塾に通っていたのですが今春から合唱団にどっぷりハマり結局塾は辞めて…そこに至るまで私もかなり揺れました。合唱団にも塾にも行って、宿題も大量にあって「両方やらせなきゃ」と焦るほど、息子の笑顔がどんどんなくなっていったんです。最終的には、息子が合唱に夢中になる姿を見て、私のほうが救われました。好きなことにまっすぐ向かうこと、それが今の息子にとっていちばんの幸せなんだと気づかせてもらいました。小説の中で子どもたちが自分の道を選んでいく姿と重なって、より深く、響いたのだと思います。
吉田 僕も、子どもには夢中になれるものを見つけてほしいと思っている親の一人ですが、まだこれといったものに巡り合っている感じはなさそうです。
呉 でも吉田さんは、本を咀嚼するプロ、色々詳しく聞きたいです。お子さんも、本はよく読まれますか?
吉田 読みます。ただ、これが将来何につながるんだろう…と考えたりもして。
呉 絶対につながりますよ! 今って、思慮深さだったりコミュニケーション能力だったり、「目に見えない力」が問われる時代じゃないですか。物語の中でいろんな言葉に触れたり、登場人物の気持ちを想像したりする経験って、時間をかけてじわっと内側に積み重なるもの。それが子どもの頃からあるって、ものすごく強いことだと思います。
吉田 そう言っていただけると心強いです。長女が「パパの本棚にある本、早く読めるようになりたい」と言ってくれるのが嬉しくて。とりあえず手に取って軽くめくってみよう、となるのが紙の本の良さだなと思いますね。親が紙の本を読んでいたから、自分もマネしたいと思って読書するようになったっぽいんです。
呉 私も実用書は増やしたくなくてデジタルで買うけれど、小説は紙で買うことが多いです。手触りがあると、子どもも大人も読むモードになれる気がします。本棚に物語が並んでいるだけで、子どもにとっては「入り口」になるんですよね。今は5歳の次男との読み聞かせの時間を大切にしています。我が家は夫が熱心に読んでくれるのですが、親子で同じ物語を共有する時間って、本当に豊かだと思います。本に限らず、映画でも美術館でもいい。親子で一緒に何かを感じる体験を積み重ねることが、心を育ててくれる気がしています。
\ これもオススメ! /
『翼の翼』
朝比奈あすか 著(光文社)
主人公が小2の息子に中学受験を決めたことから始まる、家族の過酷な受験戦争のリアルを描いた作品。期待と不安、親子やママ友との比較、塾通いや成績の一喜一憂など、受験に翻弄される日々を生々しく掘り下げる。
Profile
映画監督・CMディレクター。大阪芸術大学映像学科卒業後、スクリプターを経て、'06年に長編監督デビュー。『そこのみにて光輝く』でモントリオール世界映画祭の最優秀監督賞。'24年に『ぼくが生きてる、ふたつの世界』、'25年に『ふつうの子ども』を公開。2児のママ。
「家事育児に聖域を作りたくない」2児のパパで、作家
カツセマサヒコさん
Recommend!
『目立った傷や汚れなし』
見過ごすほど小さな傷が
相手にとっては致命傷。
夫婦ってそんな
瞬間がたくさんある
『目立った傷や汚れなし』
児玉雨子 著 (河出書房新社)
フリマアプリのせどりサークルに加わった主人公は、物の価値を見極める快楽にのめり込み、休職中の夫との距離が広がっていく。
❝大事件は起きない。
でも「夫婦とは
ドラマでしかない」❞
吉田 “夫婦の価値観”のズレが日常の細部からじわ~っとにじみ出るような一冊でした。
カツセ 何を隠そう妻がVERY愛読者ですし、夫婦の話を取り上げたいと思って、この本を選びました。付き合っている頃から「金銭感覚の違い」をお互いなんとなく理解していたつもりでも、一緒に暮らして初めて「何を無駄と思うか、何に価値を置くか」の基準がそれぞれ違うことに気づく人も多いと思って。
吉田 作品では主人公がフリマアプリにハマり、どんどん価値の判定に巻き込まれていくじゃないですか。それが夫婦のコミュニケーションをも侵食していく。
カツセ まさに「目立った傷や汚れなし」のタイトルの通り、「小さな傷だと思っていたものが、相手にとっては致命傷だった」みたいな瞬間が、この小説にはたくさん出てきます。休職している夫の分、主人公である妻が無理を背負い込み、その思いやりがかえって二人の溝を広げてしまう…そんな怖さが、読んでいて胸に残りました。ここまで大きな問題ではないのですが、うちもお金の扱いは妻のほうが几帳面で、僕はどうしても大ざっぱ。「使いたいなら稼ぐしかない」と考えがちな僕に対して、妻は少しでも安いものを求めて、遠くのスーパーまで足を運んでくれる。その丁寧さとの差に、改めてハッとしたり…。
吉田 「大きな事件が起こらない日常の中に、日常を転覆させる大きな感情が潜んでいる」という視点でも、面白く読める一冊でした。
カツセ それに、ささいな選択にもいつの間にか他人の評価が入り込んでくる怖さって、今特にありますよね。住む家も、買う物も、着る服も、自分がどうしたいかより「どう見られるか」で揺れがちな時代。外部の物差しに振り回されるのは、女性も男性も一緒だと思います。
吉田 そういう意味でも、カツセさんも参加された『パパたちの肖像』の等身大で語るパパの声が心に響きました。
カツセ 「夫婦というユニットが、どうバランスを取るか」をずっと考えていたんですが、このアンソロジーに参加する中で、その輪郭がよりはっきりしてきました。僕自身は妻と背中を預け合う関係性でいたいです。お互いを信頼して、ときどき立ち止まって目線を合わせ直しながら進む。そんな関係でいたいことを自分でも確かめた一作になったと思います。
吉田 向き不向きって性別に関係なく、人によって違う。これまでワークライフバランスって、自分一人の仕事と生活の比率だと思っていましたが、カツセさんの「そういう家族がそこにある」という一篇を読んで、夫婦それぞれの特性や役割のバランスをどう整えるか、という話でもあるのだと気づかされました。夫婦の関係って、なるべく気にしないよう日常を過ごしているけれども実は、ドラマチックですよね。
カツセ 世の中は「正しい夫婦像」をいくつか提示してくるけれど、実際には数え切れないほどの組み合わせがあって、そのどれもが正解なんですよね。
吉田 うちは妻が会社員なのもあって、小学校のイベントごとにはたまに僕が行くんですが、「この人は何をやっている人なんだろう、と思われているかも?」とビクついていました。これからはもっと胸を張って出かけたいと思います(笑)。
カツセ 我が家も現状は専業作家と専業主婦という、珍しい組み合わせ。「どんな生活をしているのだろう」と思われているかもしれません。いろんな家庭があっていいですよね。
\ これもオススメ! /
『パパたちの肖像』
外山薫、カツセマサヒコほか(光文社)
父親をテーマにした7名の作家によるアンソロジー。仕事、育児、夫婦関係の間で揺れるパパのリアルを多面的に描く。現代の家族像を考える。カツセさんの一篇「そういう家族がそこにある」収録。
Profile
印刷会社、編集プロダクション勤務を経てライターとして活躍。’20年『明け方の若者たち』で小説家デビュー。結婚と離婚の真理に踏み込んだ『ブルーマリッジ』、エッセイ集『あのときマカロンさえ買わなければ』ほか。小学生2人のパパ。
[ ホスト ]

吉田大助さん
書評家・ライター。文芸からカルチャーまで幅広く批評を手がける。ロングインタビューをまとめた『別冊ダ・ヴィンチ 令和版 解体全書 小説家15名の人生と作品、好きの履歴書』が発売中。2児のパパ。
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撮影/坂田幸一 取材・文/樋口可奈子 編集/中台麻理恵
*VERY2026年2月号「今、語りたい一冊は?VERY的誌上読書会」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。