市川染五郎さん、祖父と父も演じた『ハムレット』に挑戦「多くの人を惹きつけてきた理由を、演じながら見つけたい」
市川染五郎さんが、シェイクスピアの名作『ハムレット』で、歌舞伎以外の本格的な舞台に初挑戦します。活躍目覚ましい歌舞伎界の若きプリンスが演じるのは、父王の死の真相を知り、叔父への復讐を誓うデンマークの王子ハムレット。さて、かつて祖父・松本白鸚さんと父・松本幸四郎さんも演じた大役で、どんな新境地を見せるのか? 麗しき21歳の胸中と素顔に迫ります。
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13歳の時は難しかったけれど、今だから見えてくる『ハムレット』
――『ハムレット』には何かとご縁のある染五郎さん。13歳の時には、早稲田大学演劇博物館のイベントで『ハムレット』の一部を朗読されていますね。
僕が初めて『ハムレット』の戯曲に触れたのは、その時だったと思います。当時は、歌舞伎以外のお芝居の経験がほとんどなかったので、ふだん歌舞伎の役を教わる時のように、父から指導してもらいました。僕自身は、まだ『ハムレット』を面白いと思えるような年齢ではなかったですし、その時朗読したのが、坪内逍遥さんが明治時代に翻訳された古語の難しい訳だったこともあり、なかなか内容をきちんと理解するところまでは行けなくて。今回の舞台のお話をいただいた時は、そのリベンジではないですが、もっと深く理解したいと、まず思いました。
――今回は翻訳が松岡和子さん、演出は祖父・白鸚さん主演のシェイクスピア劇『マクベス』(1996年)も手掛けたデヴィッド・ルヴォーさんです。やはり8年前とはだいぶ印象が違いますか?
そうですね。何より自分の理解力が違うので、8年前よりも見えてくるものがたくさんありますし、ルヴォーさんの言葉に目からウロコのことばかりです。数百年にわたってたくさんの国で上演され、いろいろな解釈もされてきたこの作品が多くの人を惹きつけてきた理由を、演じながら見つけていこうと思っています。
――『ハムレット』は祖父・白鸚さんと父・幸四郎さんもおやりになった作品。ご自身にとってはどんな存在ですか?
もちろん、家にとって大事な演目でもあるのですが、『ハムレット』に限らず、シェイクスピア劇は世界中の演劇人にとって格別な存在で、必ず一度は通らなければならないものだというイメージがあったので、自分も演劇に関わる者として、絶対に通りたいと思っていました。今は正直、祖父と父が演じたことは、あまり意識していません。歌舞伎の古典の作品だと、代々やってきたやり方というものがありますが、今回はそういう作品ではないですし、とにかくルヴォーさんの頭の中にある『ハムレット』を立体化させたいというのが、いちばんの目標です。
『ハムレット』の城のモデルになったデンマークの城に行きました
――お稽古が始まる前に、ハムレットが住むエルシノワ城のモデルだといわれる、デンマークのクロンボー城にいらしたそうですね。
2月は歌舞伎の仕事がお休みだったので、『ハムレット』に向けた期間にしよう、もう今しか行けないなと思って、4泊6日で行ってきました。最初は、シェイクスピアの故郷イギリスに行こうか迷いましたが、イギリスは今後も行く機会がありそうだなという気がして。『ハムレット』の主な舞台となるお城を想像するうえで、リアルな空間を実際に感じられたことは、とてもいい経験になりました。お城に雪が積もっていたのですが、雪が降ること自体かなり久しぶりだったらしくて、現地の人もなかなか見ることができない雪景色のクロンボー城を味わうという貴重な体験ができました。
――実際に行ってみて、どんなことを感じましたか?
お城の中も見学して、いろいろな部屋を見たのですが、昔ここで人が生活していたかと思うと、ちょっと不思議な気持ちになりました。携帯で照らさなければ進めないくらい真っ暗な地下牢では、ちょっと霊気を感じるといいますか、かつての時代の人たちとコミュニケーションが取れそうな場所だなと感じました。
――父王の亡霊のシーンから始まる『ハムレット』のイメージにはぴったりですね。デンマークでは、ほかにどんなことが印象に残っていますか?
デンマークの人たちは日本人と感覚が近いらしくて、すごく居心地がよかったです。ただ、基本的に寒いところだからか、食べ物は大体しょっぱいか、もしくは酸っぱいか、という感じで。デンマークのビールやワインは飲みやすくておいしかったので、食事時はもっぱら、しょっぱいものを食べてはお酒を飲む……ということの繰り返しでした。
――『ハムレット』に向けて、ほかに準備なさったことがあったら教えてください。
髪を伸ばしたことですかね。歌舞伎をやっていると、鬘(かつら)を付ける関係上、髪をなかなか伸ばせないので、せっかくだからこの機会に伸ばしてみようと思いまして。祖父と父に「ハムレットをやるなら練習しないとね」といわれていたフェンシングは、結局、習わなかったので、稽古場で専門の方に指導を受けながらやっていこうと思います。父によると、フェンシングは“切る”より“突く”ことがメインで、刀の殺陣とはまた全然感覚が違って難しいそうです。やっぱり国や時代や立場によって、使う剣も戦い方も違うのだなとすごく感じますね。
現地の方の中に入って全編英語でお芝居をすることも憧れ
――去年は、お仕事でパリへいらした染五郎さん。今行ってみたい国、興味がある場所はどこですか?
エジプトに行ってみたいです。遺跡が好きなので、見て回りたいですね。あとは行ったことがある場所になりますが、ニューヨークとラスベガスにもう一度行きたいです。
――どこに惹かれたのですか?
ニューヨークは憧れの街なんです。学生時代に住んでいた母から、いろいろな話を聞いた影響もあると思いますが、小さい頃からとにかく憧れていました。弾丸旅行でしたけど、2年ぐらい前に初めて行った時は、すごく自分の肌に合う感じがしましたね。エンターテインメントの街でもあるので、ブロードウェイでいろいろな舞台を観たりしたいなと思います。ラスベガスもやっぱりエンターテインメントの街で、以前行った時はシルク・ドゥ・ソレイユのショーにとても刺激を受けました。またショーを観て、パワーをもらえたらなと思います。
――現在21歳。今後挑戦したいことを教えてください。
演じたい役はたくさんありますけれども、プライベートで挑戦したいことは……うーん、なんでしょう。それこそ、ニューヨークに近々もう一度行きたい、できれば一人で行く、というのが目標なので、英語をもう一度きちんと勉強しなきゃと思っています。実は今も少しずつやっていて、英語の上達が今の一つの目標になっています。
――今回『ハムレット』を演出するルヴォーさんとのコミュニケーションにも役立ちそうです。お祖父様やお父様のように、いずれは海外の舞台にも立ってみたいですか?
はい、海外で歌舞伎をやることも目標の一つです。ブロードウェイでも『ラ・マンチャの男』の舞台に立った祖父のように、現地の方の中に入って全編英語でお芝居をすることも、役者として確実に大きな刺激になると思います。ただ、今の自分にとってはあまりにも大きな挑戦なので、やれたらいいな、ぐらいの感じです。祖父は本当にすごいなと改めて感じますね。
※インタビュー後編に続きます
【プロフィール】
いちかわ・そめごろう/2005年、東京都生まれ。07年6月に歌舞伎座で初お目見得、09年6月に歌舞伎座で四代目松本金太郎を名乗り初舞台、18年1・2月に歌舞伎座で八代目市川染五郎を襲名。近年の主な出演作は、歌舞伎NEXT『朧の森に棲む鬼』、歌舞伎『木挽町のあだ討ち』、映画『鬼平犯科帳 血闘』、ドラマ『人間標本』など。主演を務めるドラマ『鬼平犯科帳 本所の銕』が2026年に時代劇専門チャンネルでオンエア予定。
【公演情報】
舞台『ハムレット』
デンマークの王子ハムレットは、父王が急死した直後に叔父クローディアスが母ガートルードと再婚し、王位に就いたことに苦悩していた。父の亡霊から、自身の死はクローディアスによる毒殺だと告げられた彼は復讐を誓い、狂気を装って周囲の反応を探っていくが……。
作:ウィリアム・シェイクスピア 演出:デヴィッド・ルヴォー 翻訳:松岡和子
出演:市川染五郎 當真あみ 石川凌雅 横山賀三 梶原善 柚香光 石黒賢 ほか
2026年5月9日~30日/日生劇場 6月に大阪、愛知公演あり。
取材・文/岡﨑 香 ヘア・メーク/川又由紀(HAPP’S.) スタイリスト/中西ナオ 撮影/佐藤俊斗
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