バレエに誠実で深く考え、理想のダンサー像をひたむきに目指す【王子様の推しドコロ】
vol.13 生方隆之介さん
©Nobuhiko Hikiji
PROFILE
うぶかた・りゅうのすけ/1998年生まれ、群馬県出身。身長176㎝、A型。4歳からバレエを始め13歳から東京バレエ学校で学ぶ。2015年にワガノワ・バレエ・アカデミーへ、その後ハンガリー国立バレエ学校へ留学。卒業後、2019年に東京バレエ団に入団。入団直後から頭角を現し、ソリストながら、2020年の子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』ではバジルとエスパーダを日替わりで踊り、成功をおさめる。すらりと長い手足、長い首に小顔というスタイルで団の未来を担う若手のホープ。
数多くのレパートリーを持ち、海外公演もこなす日本を代表するバレエ団「東京バレエ団」。男性ダンサーの層が厚い同団で、フレッシュな魅力で注目を集める生方隆之介さん。2019年に入団し、次々と主要な役を踊り2023年12月23日の『くるみ割り人形』では初主演を飾ります。
子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』にてバジル役 © Koujiro Yoshikawa
目の前のバレエに向き合ってきた日々
抜群のスタイルで、バレエの王子役を踊るために生まれてきたような生方さん。バレエを始めたきっかけは、バレエを習っていたお母様だそう。「母がバレエが好きで習っていたので、4歳のとき、教室に一緒に行ったことがきっかけです。でも決して積極的ではなくて……。僕は、新しい環境や知っている人がいない環境が苦手なタイプで、孤独を感じていました(笑)。母親に勧められるがままに習っていたんです。意識が変わったのは、東京バレエ団出身の首藤康之さん主宰のワークショップに行ってから。クラシックだけでなく、パントマイム、コンテポラリーなど、今までやったことがないものに触れ教えてもらったんです。同じようにバレエをやっている男子もたくさんいて、話すうちに新鮮でモチベーションが上がりました。高校生になると毎日レッスンを受けるようになり、東京バレエ学校の研修制度でワガノワ・バレエ・アカデミーに留学、さらにハンガリー国立バレエ学校に転校しました。そんなときも、将来を見据えてバレエを頑張っていたというより、今できることを全力で頑張っていたという感じです」。
うまくなるために考え続け、伝わるバレエを目指します
帰国後、東京バレエ団に入団。「ハンガリー国立バレエ学校に在籍していたときに、偶然、東京バレエ団が海外ツアーをしていて、エキストラとして出演させていただいたんです。僕はアピールが得意ではないので海外のバレエ団でやっていけるか不安もあり、東京バレエ団のアットホームな雰囲気に惹かれて、帰国してから正式に入団しました」。
生方さんの魅力は精確性のあるピルエットなどテクニカルな面と、透明感がありフレッシュな踊りが両立しているところ。ひとくくりでは語れないその多面的な存在感と踊りは舞台でも格段に目を引きます。「個人的にはドラマティックなバレエが好きなんです、たとえば『ロミオとジュリエット』のような。日々悩み続けている性格なので、バレエ演目に多い悩める王子役には憑依しやすいのですが(笑)、実は『ロミオとジュリエット』ならマキューシオ、『ドン・キホーテ』のバジル、『海賊』のアリなど、ポジティブで陽気なキャラを踊る機会が多いです。憧れるダンサーもテクニカル面が特に秀でたダニエル・シムキンさん、レオニード・サラファーノフさん、恐れ多いですがミハイル・バルシニコフさんです」。
ご自身でおっしゃるとおり、積極的ではないけれど深く物事を考えながら今できることを誠実に一所懸命こなし、道を切り拓きチャンスは確実にものにしていくタイプ。「うまくなるためにはどうしたらいいか、常に疑問をもって考えているんです。役作りに関しては偉大な先輩がたくさんいるので、質問をしてアドバイスをもらい、他のダンサーのビデオを見ては同じような踊り方を試し……を繰り返し、自分らしさを模索しています。演劇性のあるバレエが好きなので、テクニカルな面はもちろんですが、お客様が舞台に没頭できるような演技力も持ち合わせたダンサーになりたいと思っています。そうすることで自分の存在も肯定できるはずだから。斎藤監督からは『バレエの美しい形ばかりに気をとられすぎていると伝わってこない。感情がのる形に体を持っていってほしい』と言われて、美しいけれど“伝わるバレエ”が今の課題です」。
『小さな死』 © Shoko Matsuhashi
自分の探求心とバレエの難しさがベストマッチ
12月21日から始まる『くるみ割り人形』では、23日のソワレで初主演を飾る。「『くるみ割り人形』の王子は人間じゃないところが難しいんです。ファンタジーの世界観をキープするために常に明るく華やかに踊りながら、主人公マーシャをリードしていく役として包み込むような優しさを表現できたらと思っています。東京バレエ団の『くるみ割り人形』は、乱れなく揃ったコールドバレエのフォーメーションが美しく魅力的。僕が踊るグラン・パ・ドゥ・ドゥでは、迫力のある超人的なリフトもあるので注目してください」。
自分には積極性はなく、お母様の勧めで続けてきたというバレエですが、何に魅了されているのでしょうか。「あくまで主観ですが、体を動かす類のものの中でバレエっていちばん難しいと思うんです。毎日のバーレッスンから始まって、技術面では同じことを繰り返してもその時の体調でうまくいったりいかなかったりもしますし、演技力も必要になる。課題となる要素が尽きないもので、終わりがないからこそ続けているのだと思います。自分の探求心の強さとバレエの難しさの相性がいいのかもしれません。実は持病があってそのために留学先を変えたり、もうバレエを続けられなくなるかもしれないという状態に陥ったことも。今、僕が踊れているのは支えてくれたすべての人のおかげなので、日々感謝し、恩返しをするという意味もあるんです。見る方にとっての魅力としては、やはり大きい劇場でオーケストラが演奏をして舞台鑑賞できる、ライブならではの緊張感と純粋に芸術として美しいところ。見れば見るほど知識が上乗せされ見比べることができるから、長く愛すほど楽しめると思います。『くるみ割り人形』は年末年始の季節感とファンタジーな世界観を堪能できる世代を問わず楽しめる作品。クリスマスイベントのひとつとしてぜひ、劇場にいらしてください」。
生方さんの姿を見られるのは……東京バレエ団 創立60周年記念シリーズ3 『くるみ割り人形』東京文化会館(2023年12月21日~24日)、全国ツアーとして西宮市、津市、大津市(2023年12月27日~2024年1月6日)で上演
クリスマスイヴの夜、少女マーシャがくるみ割り人形の王子さまに誘われて雪の国やお菓子の国を訪れる、言わずと知れた名作。東京バレエ団の『くるみ割り人形』は2019年に芸術監督・斎藤友佳理氏の総指揮のもと、新制作。「クリスマスツリーの中に入り込んでしまったマーシャの驚き」というコンセプトの中、幻想的で豪華、明るく楽しく可愛いらしい、ロマンティックで優雅、さまざまな見どころを堪能できます。生方さんは、12月23日(土)17:30~(東京文化会館)、12月27日(水)18:30~(兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール)の回に王子様役で出演予定。詳しくはHP(https://www.nbs.or.jp/stages/2023/nutcracker/index.html)にてご確認ください。
取材・文/味澤彩子