MLB JAPAN代表・川上紗実さん~準備や努力しているからこそ味わえる達成感。第1回WBCは忘れられない

女性としてこれからのキャリアについて悩むSTORY世代。’22年に女性活躍推進法が改定されてからはますます女性の活躍が期待され始め、徐々に女性管理職比率も高くなってきています。個人として評価され活躍される女性リーダーの方々には、キャリアの狭間で自身の生き方を見つめ、可能性を信じてチャレンジする姿がありました。今回ご登場いただくのは、今年日本中を感動の渦に巻き込んだワールド・ベースボール・クラシック(以下、WBC)運営にも携わる、MLB JAPAN(メジャーリーグベースボール ジャパン)代表の川上紗実さんです。(全3回の2回目)

前編はこちら

川上 紗実さん(43歳)
MLB JAPAN(メジャーリーグベースボール ジャパン)代表


 

第2子を出産したばかりで「代表なんて無理……」。それでも家族の支えで就任を決意!

STORY編集部(以下同)――2019年、代表就任時の率直な気持ちを教えてください。

正直、不安しかありませんでした。MLBでは、2020年にキム・アングが初めての女性GM(ジェネラル・マネージャー)としてマイアミ・マーリンズGMに就任したり、ニューヨークヤンキースには、史上3人目の女性GM補佐として活躍するジーン・アフターマンがいたりしますが、私は経験も知識も未熟で、とても代表なんて……という気持ちでした。

それに、代表のお話をいただいたのは、上の子が3歳で、下の子が生後5か月の時。今は完全なシングルマザーですが、一人目をお腹に授かったときから、子どもたちの父親は、仕事で海外にいましたので、すでにシングル状態で、二人目の出産を機に帰国した後もシングル状態はほぼ変わらなかったので“あと10年待ってください”という感じでした。

――小さなお子さん2人を育てながらの決断は、難しかったのでははないかと思います。

はい。大変ありがたく光栄なお話であったものの、実際は一度お断りをしたんです。ただ、その後上司から、私が引き受けなければ、代表は外部から連れてくることになると言われました。優秀な方が来てくれるなら、それもいいんじゃないかという気持ちもありましたが、築き上げてきたプロジェクトや社内環境を、もしも理解されなかったら……と考えたら、「一か八かやってみるしかない」と思ったんです。

両親や姉弟にも「大変だとは思うけど、こんな話は二度とあることじゃない。全力でサポートするからやってみなさい」と言ってもらえて、最終的に決断しました。

――川上さんを突き動かしてきたMLBの魅力とは何ですか?

私にとって一番の魅力は、イベントを通じて、社会に貢献できていることを実感できることです。年間を通じて様々なイベントを行っていますが、近年の大きなイベントでいえば、イチロー選手の引退試合となった2019年のMLB開幕戦、そして侍ジャパンが優勝を奪還した今年3月のWBCでしょうか。

イチロー選手引退時のユニフォーム。

東京で行われた日本戦の6試合すべてが40%を超える平均世帯視聴率を達成し、日本対アメリカの決勝戦は、大会史上最も視聴された試合となりました。日本国内のテレビ100台中97台で、「大谷選手VSマイク トラウト選手」の対決が何かしらの形で視聴されたという調査結果もあるほど、人々に与えたインパクトは大きいと思います。

2023年WBC 監督と選手全員のサインボール。
2023年WBCのMVPも受賞した大谷翔平選手のチームユニフォーム。

観客の皆さんも、応援している選手・チームの活躍、試合の結果、またスタジアム演出などでも喜び・悲しみ・感動を味わうことができると思いますが、運営する私たちは、それらに加え、達成感を味わうことができます。

これは、私たちがエンターテイナーとして、観客の皆さんに少しでも多くの感動を与えることができるよう、そして選手たちがより良い環境の中で全力でプレーに集中できるよう、見えないところで長期に渡り様々な準備や努力をしているからです。この感覚や達成感はやみつきになり、仕事に対するやり甲斐にも繋がります。

――第一回大会の達成感は、格別だったのではないですか?

大会をゼロから作っていくというのは、本当に大変で……。いろいろな国の野球団体とやり取りするなかで、トラブルも続出、イベント直前の半年間はベッドで寝る暇もないほどでしたので、無事に大会を終えたときは、涙が止まらなかったです。一生忘れることのできない思い出です。

2006年WBC決勝終了後。
川上さんも感極まった2006年の第一回WBC。

大きな世界大会だけではなく、私たちが主催する少年野球や社会人野球の大会、地域密着型のイベント、CSRや草の根活動でも同じですが、スポーツの力でここまで人の心、そして自分自身の心さえも動かすことができるってすごいなぁと、20年が経とうとしている今でも毎回思います。特に私はこういうことに関してはとても涙もろいので、もしかすると普通の人の何倍も心に響いてしまうのかもしれませんが(笑)。

次世代を担う野球少年・少女に夢を与え、野球人口拡大に繋がる普及プログラムを創る目的で創設された野球大会「MLB CUP 2023」。
「MLB CUP 2023」で開催されたホームランダービーの優勝選手に贈られたバット。

(後編に続く)

撮影/BOCO 取材/篠原亜由美

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