デジタル時代の子どもに「字をきれいに書く力」って必要ですか?【専門家が回答】
子どもが字を書き始めたら、書き順や字の汚さに心配になって口出ししてしまうけれど、子どもが怒ったり書くのをやめたりしてしまってから、ふと立ち止まって考える。「あれ? 私こそ、もう子どもの書類以外、全然字を書いていない…」今の子どもの未来に、字をきれいに書く力は本当に必要なんでしょうか?
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デジタル時代に
「きれいに字を書きなさい」
と言う自分にモヤつく!
・大人になって字を書く機会がめっきり減ったし、内心、子どもに「字をきれいに書きなさい」と言う意義が見出せません(5歳男の子ママ)
・クラスで張り出されているなかで我が子の字が目立って汚いと、心配になってしまう…(7歳男の子ママ)
・毎日「丁寧に書こうね」と口出ししすぎて、親子喧嘩が勃発します(泣)(5歳女の子ママ)
❝字をきれいに書くことを教育現場で求めるのは、日本独特の価値観。❞
字を書くというのは生まれつきの部分も大きく、手指の巧緻性や空間把握力、丁寧に書きたい性格かどうかが大いに影響します。「きれいに書きたい」と思っていない子に厳しく採点したり、うるさく言ったりして直るということはまずありません。それどころか、無意識に勉強を不愉快なものと捉え、嫌いになってしまうのが一番心配。子どもが書いたものは内容を褒めることに徹し、字が気になるなら「この字はバランスがいいね」「しんにょうがうまいね」と具体的にできた場所を褒めた方が子どもはもっと書きたくなります。ただし、「計算ミスや減点に繫がるから」という理由を説明し、「数字だけはしっかり書こう」と声をかけてあげるのも手です。
❝社会に出れば手書きする機会はぐっと減る。子どもの字の美醜より、書いた内容に目を向けて。❞
「字をきれいに書こう」とうるさく言うのは、日本ならではの傾向。書道の文化が根強く、日本人の感性の豊かさや丁寧さとマッチするからでしょうか。でも現代では、大人になって手書きする機会というのはぐっと減り、極端に言えば自分の名前と住所、メモを書くくらい。大人はそれを知っているのだから、子どもだけにうるさく言う必要は実はないのかも。ましてや漢字の書き順やとめ・はね・はらいなどは、文部科学省が教えるために標準化した経緯があり、厳密な決まりがない字も多いのです。字の細かい違いを指摘するより、子どもが好きなことに没頭させて脳の機能を上げる方がよほど効果がある。学校は文化の伝承という役割も担っているので、突然最先端に変わるということはできません。親がアップデートして、激動の時代を生きる今の子どもたちにとって本当に必要なものは何かを考える必要がありますね。
お話を聞いたのは
親野智可等さん
教育評論家。長年の教師経験をもとに、子育てや親子関係について具体的に発信や講演を行っている。『子育て365日』『反抗期まるごと解決BOOK』など著書多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても著名。
・タブレットで解答する漢字の宿題はAIが正誤判定。このレベルで丸でいいの⁉って衝撃を受けます(8歳男の子ママ)
・乱雑な字で先生に伝わらず、テストで×。もったいない!(8歳男の子ママ)
・マイウェイすぎる書き順に口出しすると「これでいいの!」とふてくされてしまいます(5歳女の子ママ)
・字が汚いと叱ってしまうけれど、無用に子どもの自己肯定感を下げている気がします(8歳男の子・6歳男の子ママ)
❝字を書くって面倒くさいけれど、面倒くさいアナログなことこそ、脳への刺激になる。❞
最も学力が高い層とされる人たちは、とめ・はね・はらいはどうでもいいと考える人が多いように感じます。それは彼らが抽象的なコンセプトを理解して物事を捉える人たちだから。子どもでもそういう子にとって、字をきれいに書くことを強いられるのは苦痛だと思います。一方、神経を集中させて体を使い、ディテールに注意を払ってうまく丁寧に表現するということにも意味があります。そういった身体性を大事にする人はクリエイティブな仕事に繫がっている人が多い。どちらがいいということはなく個性で、どちらも正解です。
❝お手本を目指しても手書き文字には個性が出る。生身の人間の個性こそ、これからのAI時代に価値がある。❞
デジタルの教育環境になっても、そう近い将来に学習からアナログはなくなりません。字を書くのって面倒くさいけれど、脳科学には「望ましい困難」という言葉があって、脳に適度な負荷がかかった方が学習効果が高いんです。スマホやタブレットを使うと文章を書くのは楽になりますが、手書きの方が脳への刺激があって記憶に残るし、自分との対話になる。字をきれいに書く必要はないですが、自分の考えを字で書けるという力は大事です。字をきれいに書いてほしいなら、親自身がデジタルに偏っていないか振り返り、一緒に書いてあげるといいですね。人間は生身の人間がやっていることに一番興味があります。手紙や手書きのメモなど、子どもはママが丁寧に書いていたらきっと興味を持ちますよ。その際、脳は叱られると委縮しフリーズするので、褒めてあげて書くことが楽しいと思わせるというのが一番効果的です。お手本にそろえようと努力した結果、字に個性が出ても問題ない。むしろAI時代にはそういった生身の人間の個性こそ価値があると思います。
お話を聞いたのは
茂木健一郎さん
脳科学者。ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員、東京大学大学院特任教授。脳活動からの意識の起源の究明に取り組む。名著多数。29以上の言語で翻訳出版され、世界各地でベストセラーとなった著作も。
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取材・文/八重沢友香子 編集/鈴木貴子
*VERY2025年5月号「デジタル時代に『きれいに字を書きなさい』という自分にモヤつく」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のもので、変更になっている場合や商品の販売が終了している場合ございます。