作家・金原ひとみさん(42)、 40代になってすぐに離婚。解き放たれたように今、幸せです
2003年、20歳の時に小説『蛇にピアス』ですばる文学賞及び芥川賞を受賞し、衝撃的デビューを遂げた金原ひとみさん。
その後も、自身の抱える“生きづらさ”を小説に託し、数々の賞を受賞、
そして、「変わりゆく世界を、共にサバイブしよう。」というメッセージと供に発刊された
近著『YABUNONAKA-ヤブノナカ』では、毎日出版文化賞を受賞しました。
そんな金原さんが40代となり、その一歩として選択したのが離婚。
20年の結婚生活を解消した先に見えた、今の40代の景色を聞いてみました。
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「今、離婚しなくては……」と、40代に入って即、踏み出した
40代になって、約20年婚姻していた配偶者と離婚をしました。
割と長いこと離婚はしたかったのですが、結婚から長い期間が経っていたこともあり、
なかなかあと一歩踏み込めずにいました。
ですが、正直もう限界でもあったし、長期間別居生活を送っている先人たちの体験談をたびたび聞いて、
「今離婚しなければ、このままダラダラと十年、二十年が経ってしまうのではないか……」
「そのうちにこの人の妻として死ぬことになるかもしれない」と思うと
それはあまりにも不本意だなと思い、本気で交渉を始めました。
離婚後は、すごく幸せです。
生活も、気持ちも、ずいぶんと変わりました。
例えばですが、食卓の風景が変わりました。
無意識的にですが、自分が相手にそれなりに気を遣って、相手の好きなものを
出そうとしていたのでしょう。今は純粋に自分が好きなものや、作ってみたいものが
並ぶようになったのを実感しています。
この変化は、食卓のみならず服装や読む本、食器や家具や人付き合いにまで、
あらゆるところに表れていると思います。
年齢を重ねたからこそいきついた、女友達との“ゆるい友情”が心地いい
離婚したことと関係しているかはわかりませんが、最近は女友達が増えました。
若い頃は、友人と“つるむ”といったことをあまりしてこず、
「こういう人は嫌い」とか、「こういう人と話したくない」というなこだわりがすごく強くて。
基本的に人付き合いが億劫だったんです。
でも、最近は、不思議と誰といても楽しい。
自分と違う人を楽しめるようになったというのもありますし、
40代になって、私も周りの人たちも、気負わなくなったというのもあります。
「自分はこうだ」というこだわりがだんだん薄まってきて、
「まぁ、とにかくみんなで長生きしてたくさん小説書こう」みたいなノリになってきた(笑)。
何だか、ゆったりとした友情が芽生えてきたんですね。
十代とかって、「私とだけ仲良くして欲しい」みたいに友達を取り合ったりするじゃないですか。
もうそういうのが完全になくなって、「みんな元気なら何でもいいよ」と、
本気で相手の体を大切に思えるようになってきたんですよね。
そんな女友達とは、私の小説も酒のツマミです。
近著の「YABUNONAKA」は、高校生から50代まで、年齢や性別、性格も様々な5人の登場人物が
いるのですが、皆どこか自分の性質に当てはまる部分があると感じるようで、
「私の中にはセクハラで告発された木戸の要素がある」とか、「そういえば〇〇さんが、俺は一哉だって
言ってたけど、絶対五松だよね」なんて、キャラクターをネタに盛り上がっています。
最近読んだ本で“50代観”が変わり、50代になるのが楽しみになった
数年前、江国香織さんの小説「シェニエール織とか黄肉のメロンとか」を
読んだのですが、それが50代後半の3人の女性たちのお話なんですね。
その3人がすごーく楽しそうで。
読むうちに、老いていくことに前向きになれたんです。
50代になっても、3人で飲んで食べて話をして、
それでいながら、それぞれの生き方、それぞれの成熟の仕方をしていて
三者三様の安定感が得られている。
50代が身近なものになった今だからこそ、
こんな50代になれるんだったら、全然いいな、と初めて思えた。
この小説が、”50代感“を変えてくれました。
不登校だった子ども時代も、本とともに生き方を模索してきたけれど、
いつも必要な時に、本が何かしらの提案を与えてくれるんです。
<strong>YABUNONAKA-ヤブノナカ-</strong>
MeToo運動、マッチングアプリ、SNS……世界の急激な変化の中で溺れもがく人間たち。対立の果てに救いは訪れるのか—―?
文芸誌「叢雲(むらくも)」元編集長の木戸悠介、その息子で高校生の越山恵斗、編集部員の五松、五松が担当する小説家の長岡友梨奈、その恋人、別居中の夫、引きこもりの娘。ある女性がかつて木戸から性的搾取をされていたとネットで告発したことをきっかけに、加害者、被害者、その家族や周囲の日常が絡みあい、うねり、予想もつかないクライマックスへ——。
2025年、毎日出版文化賞受賞受賞作。
金原ひとみ
1983(昭和58)年、東京生れ。2003(平成15)年、『蛇にピアス』ですばる文学賞。翌年、同作で芥川賞を受賞。2010年、『TRIP TRAP』で織田作之助賞、2012年、『マザーズ』でドゥマゴ文学賞、2020(令和2)年『アタラクシア』で渡辺淳一文学賞、2021年『アンソーシャル ディスタンス』で谷崎潤一郎賞、2022年『ミーツ・ザ・ワールド』で柴田錬三郎賞を受賞。2025年11月『YABUNONAKA-ヤブノナカ-」で毎日出版文化賞受賞。近著に作家生活20年にわたって書き継がれたエッセイ&掌編小説を完全収録した「踊り場に立ち尽くす君と日比谷で陽に焼かれる君」がある。
撮影/田頭拓人 取材・構成/河合由樹