「最近は港区のおじさんたちも進歩的な恋愛をしている」【麻布競馬場さん出演!アンソロジー『それでもまた誰かを好きになる』座談会②】
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CLASSY.ONLINEで連載していた「うまくいかない恋」がテーマの短編が、アンソロジーとして文庫になります! 2026年2月10日の発売に先駆けて、著者のおひとりである麻布競馬場さん、読書インフルエンサー・マオさん、CLASSY.読者のNさんによる、ご自身のリアルな恋愛体験を絡めた座談会をしてもらいました。
30代中盤になったら恋愛の話はしなくなる!?
マオ 麻布さんは家を買われたそうですが、どういう心境で買ったんですか。
麻 もう自分の生活の形を固めてしまおうと思って、独身用のマンションを買ったんですよ。自分の性格を考えると、たとえ今後、うっかり誰かと交際や結婚をしたとしても、一緒の家で一緒に生活するというのは無理だろうなと。それが大きい声で言えるようになったのはいい時代だなと思いますね。昔は多分、結婚したけど一緒に住んでないとかは、まわりに説明が必要だったと思うんですけど、最近は(僕のまわりの)港区のおじさんたちもそういう進歩的な恋愛を結構していて。多分、僕はまだ「独身であるのはなぜか」という説明をしなくちゃいけない世代なんですよ。例えば、大学の同級生と飲みに行くと、34歳ってだいたいまわりは結婚してるんですよ。20代とか早いうちに。「え、なんで結婚しないの」から入るんですよ。それがもう面倒くさくて面倒くさくてたまらないので、あのカルチャーがなくなるといいなと思いますけどね。
――大人になったら男女ともにちょっと聞きづらくなって、自然となくなるとは思いますけどね。
麻 あとこれは5年後くらいに効果が出る予言なんですけど、30代中盤になったら飲み会とかで恋愛の話しなくなるんですよ。つっこんでもこなくなるし、こっちが開始するまでもないと思うから。
マオ お互い何らかの気を使ってとか、意思があって恋愛してないのかな、みたいなことですか。
麻 ありますね、うん。20代後半ぐらいまではやっぱ恋愛が共通言語になってた。とりあえずこれ出しときゃ盛り上がるみたいな。でももう盛り上がらないですよ。片や子育てしてるし、片やお受験の準備してるしで、僕だけ「この間マッチングアプリで可愛い女の子に会った!」にならないんですよ。その代わり相手を紹介されます。「めっちゃ可愛くていい子がいて~」っていうのが、一番しんどいです。
マオ ありがたくないんですか。
麻 紹介ってもう逃げ場がないじゃないですか。前に、仕事で会ったお姉さんから、「私の同期の女の子で、すごくいい子で可愛いから会ってみて」って言われて、LINEグループ作られて。これはちゃんと対応しないとまずいと思って、一生懸命デートやった結果、いやこれ一生やるの無理だなと思って、義理を果たして撤退しました。
――麻布さんだと、それこそマッチングアプリで下手なことしてバレると、後で何かに晒されたりとかしても困るじゃないですか(笑)。
麻 家に来てもちょっと本が多いだけの人になってるので大丈夫です(笑)。自分の著書はめっちゃ隠してます。重版すると何冊かもらえるんですよ。あれだけ隠せば大丈夫(笑)。1回だけ、あ!ってなったのが、家に三宅香帆さんのサイン本があるんですよ。イベントでご一緒した時にサインをもらったんですけど。麻布競馬場のほうで名前を書いてもらったので、女の子が「あ、これ私の家にもある」って本を開いた時に…(笑)。
マオ 自分の本じゃないから隠し忘れる(笑)。
麻 さっきNさんがおっしゃったとおり、多分うっすら自分がいるなって感覚はみんなあると思うんですけど、読んだ中で似たようなこと、関連のあるエピソードはありますか。
N 田中兆子さんの「不機嫌依存症」がめちゃくちゃ自分です(笑)。自分の気持ちを素直に表現できないので、不機嫌になって、その反応で愛情を確かめようとしてしまうめんどくさいタイプ。以前すごく好きだった人に対して、まさにそれをしてしまって…結局お互いに疲れて別れてしまいました。相手が少し素っ気なかったりすると、余計に不安になってしまうんですよね。
麻 不安にさせる相手がそもそも悪いんですけどね。
N その説もあるとは思うんですけど(笑)。素直になれなかったことへの後悔なのか、彼のことをしばらく引きずってしまっていた時期があって。素直でいるほうが気持ちに区切りをつけやすいのかなと思って、今はできるだけ思ったことは素直に伝えるようにしてます。
麻 20代の人でもなお恋愛で成長しているんだ。
――むしろうまくいかなくてモヤモヤするのって、20代とか30代前半がピークなのかもしれないですね。
マオ 比べる人がいなかったら気にならないのに、と思うことはありますよね。今28歳で、みんなが結婚とか出産とかし始めてる時期なので、それを見なければもっと落ち着いて、私は私のペースでまだいいやと思えるんですけど。見ちゃうと何かした方がいいのかなって気持ちになっちゃうので、早くそれが終わってほしい。最近インスタって3、4日に1回ぐらい、ストーリーズだけばっと見るんですけど、そうすると大体みんなが結婚報告を…(笑)。
N 11月22日とかちょっと(笑)。
麻 もう地獄ですよ(笑)。焦るだけですよね。別に学べないじゃないですか。成功したところしか見せられないんだから。
マオ 仲のいい友達だったらLINEとかで報告も来るので、本当にストーリーズはもう見なくていいなっていう(笑)。
麻 30代で破滅的な恋愛をしてる人を見ると安心します(笑)。ちょっと人に言えない恋愛してる人を感じたいですよね。正しい形しか目に入ってこないから、(今回のアンソロジーのような)こういう話をしてほしいです。
マオ 「うまくいく恋」アンソロジーは需要ない 。でも「うまくいかない恋」アンソロジーはめっちゃ需要あるなと思いました。
麻 不倫アンソロジーでもないのが大事なんですよね。みんながうっすら経験してる“うまくいかなさ”のレベル感での設定が、すごいうまかった。
マオ ノンストレスで読めますね。
麻 恋愛小説を読んでいて、なんか違うだろって思う時あるじゃないですか。こんなことしねえだろとか、ガキじゃねえんだからっていうムカつきが全くなかったです。ただただヒリヒリする。新しい読書体験でした。
マッチングアプリの話は「今」の感覚だった
麻 マオさんは似たようなこと考える話はありましたか。
マオ うーん…やっぱりカツセマサヒコさんのアプリの話。私、アプリをスマホに入れても、3日ぐらいでもういいやってなっちゃうんですけど、でも「今」の感覚だなと思って。すごく読みやすかったですね。
――実際にカツセさんの話にあったような、お友達を作るタイプのアプリがあったら、利用してみたいと思いますか。
マオ いいですね、友達。これは(出てくる)女性に私は共感できたんですけど、男性的にはどうでしたか。やっぱり下心が出ちゃうものですか。
麻 やっぱりゼロにはならなくて、どれだけかっこいいこと言っても、どこかで下心と結びついちゃってる部分って絶対あるので、わかるダサさだなと思いました。確かに1回寝ちゃう方が手っ取り早いんですよ。もう中学生みたいに、好きです付き合ってください、って手出すこともしないじゃないですか。20代越してくると。だから友達のままでスタートして、ってことが僕も想像できなくて、作中だとむしろ女性の方がすごくピュアな方なんだなと思いました。
マオ うーん、でもちょっとずるいです。なんか、そこまでして、「いやいや友達です」みたいなのは。
――そう、同性からするとこの人…みたいな感じはありますね。絶対男性が期待するってわかるでしょう、という。
麻 建前上は確かにこの女性の言うとおりなんですよね。そういう風に見てたんですか、って言われたら男性が悪い。恋愛のダサさをちゃんとつきつけてきてよかったなと思いました。
マオ うん、めっちゃカツセさんの短編だな、って思いました。
麻 ちょっと前まで結婚のきっかけ、恋愛のきっかけのアンケートを見ると、1位ってやっぱり職場での出会いか友達の紹介だったんですよ。それが今、もう20代だけじゃなくてほぼ全世代で、圧倒的にマッチングアプリが1位になる勢いで増えていて、また違う恋のトラブルが起きるんだなって感じがしましたね。女の子側もいろんな人に会ってるから、その中でどこか差別化しないと、付き合いもしない。厳しい時代が来たと思いました。
――アプリは向き不向きがある気がするんですよね。アプリで付き合える人と、一生付き合えないタイプの人が多分いて、付き合える子はコツを掴んでるんだなって思うんですけど。
マオ リア友でも掴んでる子がいますね。
――(マオさんは)多分、掴めなかったタイプじゃないですか?
マオ 向いてないタイプですね。まずテキストでやり取りを最初するじゃないですか。もうそこで話すことがない。そこにあんまり意味を感じないし、会う前に電話しましょうみたいなのもあんま好きじゃない。それで会った瞬間に、もうないかもってなる時ってあるじゃないですか。そこから1時間、お茶したりご飯したり…それがなかなか。でも友達とかは絶対韓国アイドル系のイケメンばっかりマッチングしてて。どういうことかなと(笑)。
――それは楽しめてますね。
麻 そうですね、身近なとこでしか付き合えない時代にはできなかったですからね。新しい恋愛が発明される感じがしますね。
――Nさんの好きな話はどれでしたか?
N 私、ミステリー小説がすごく好きで、なんかこう、「うっ」てなるのが好きなんですよ。それで今回怖いなと思ったのが「さみしがりやの恐竜たち」で。
麻 ああ、怖かったですよね。ホラーかと思った。
N ミステリーの最後のどんでん返しって大好きなんですけど、これも最後にイメージがすごく覆された感じがして。大人の方が、結婚もイメージしてもらいやすいし、現実的な恋愛ができるって思ってたんですけど…これを読むと、特殊かもしれないけどちょっと怖いというか。相手が大人になればなるほど、恋愛のストックがあるわけだから、私も背景にたくさんいる女の人の1人なのかな、っていう怖さがあって。すごい年上の人って今まで付き合ったことなくて、その理由って、怖さにあるんだなと思いました。
麻 こういう翻弄してくる感って、年上特有ですよね。
N そう、優しくて、マイルドで、ちょっと期待しちゃう。
――全ての人間とうっすらとした関係しか築かない人ってたまにいますよね。人当たりがいいから最初はいい人だなって思うけど、聞いてると実は…みたいなのとか、すごく怖い。この話でも、最初に別の女の子のことを鬱陶しいと言っていたのに、突然なんか可愛く思えてきた、みたいなこと言ってるのとか。この人の怖さでもあるし、恋愛の怖さでもあるって思いました。
マオ うん、すごく印象に残ったお話だったな。
麻 僕も一番リアルで。この奥平さんみたいな人、いるんですよね。案外かっこよくないことが多い気がする。でもうっすらモテてる。で、なんだかんだで最後、20代の子とかとさらっと結婚してくんです。大人の恋愛ぶっておいて。
マオ この月に1回ご飯を食べに行く関係とかは、すごくいいなと思って読んでたんですけど…。
N そう、最初の方はよかった。でも、なんかだんだん…。
麻 いや、怖い。怖い人とバトルしなくちゃいけないのが恋愛ですからね。恐ろしいことですよ。
――私、最初は超怖い話と思ったんですけど、2回読んだ時になんだか悲しくなっちゃって。この奥平さんも寺野さんも、一体どういう時に本当の幸せを感じるんだろうか、って。
麻 行き場がないですよね。滅びる以外道がない。漂流する先が全くなかったですね。
③に続く
麻布競馬場(あざぶけいばじょう)
1991年生まれ。会社員。覆面作家としてXに投稿した小説が話題に。2022年9月に自らの投稿をまとめた短編集『この部屋から東京タワーは永遠に見えない』で小説家デビュー。Amazonの文芸作品の売上ランキングで1位を取得する。2024年『令和元年の人生ゲーム』で第171回直木三十五賞候補に初ノミネート。
マオ
1997年生まれ。書店員として働きながら、アカウント名@maomao_bookでSNSで日々のリアルな読書記録を発信し、同世代の読者から厚い支持を得る。Instagramでは「書店員と書店に行く」同行ツアーを実施中。
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(著者:一穂ミチ、麻布競馬場、砂村かいり、こざわたまこ、田中兆子、朝比奈あすか、千加野あい、カツセマサヒコ)
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構成/前田章子