トップガンに憧れて。日本初【女性の戦闘機パイロット】過酷な訓練と2児の子育てを両立する苦労
どんな職種にも女性が半数というのが理想ですが、日本ではまだまだ。特に、命を預かる船長や機長などは圧倒的に男性が多数です。そんななか、今回登場する女性たちは、「やりたい」意志を貫き、ガラスの天井を打ち壊して進んでいます。そして、そのあとを若い世代がどんどんと追いかけています。どんな職場にも女性がいる日常は、すぐそこまで来ているのです。
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航空自衛官・戦闘機パイロット
伊藤美紗さん 34歳・東京都在住
男女にかかわらず普通に働き
普通に子育てできるようでありたい
普通に子育てできるようでありたい
伊藤美紗さんは、日本初の女性の戦闘機パイロットです。「人の役に立つ仕事をしたいという思いがあり、父の勧めもあって、防衛大に進学しました。トップガンに憧れ、戦闘機に乗りたかったんです。でも当時、女性パイロットがいないことは知りませんでした」。
大学卒業後、航空自衛官に任官。半年の幹部候補生課程を経て、操縦、通信、整備などの職種が決まります。「私は、希望していた〝操縦〟でしたが、希望が叶わず泣いていた人も。その人たちの分も頑張ろうと思いました」。
その後は、練習機の訓練課程へ。「フライト毎に点数が付き、技量不足でクビになることも。着陸が苦手だったので、必死でした」。
修了後に事業操縦士の資格を取得すると、ここで戦闘機とその他の飛行機にコースが分かれます。当時、戦闘機は男性のみでしたが、女性活躍推進の一環で、女性の登用が模索されていた時期でした。伊藤さんは、まず女性に門戸が開かれていた輸送機の訓練を受け、パイロットの証しである「ウイングマーク」を取得。その後、戦闘機課程への転換が叶ったのでした。
「女性は一人でしたが、大学時代から女性は少なかったので特別とは感じませんでした。それより、一人遅れて合流したため、クラスメートがいなかったのが大変で。ついていくのに必死で、女性初のプレッシャーを感じる暇はありませんでした。寮も女性用に整えてもらえたので不便はなく、教官も男女の区別なく指導してくれました」。
最後に宮崎での課程を修了し、卒業から4年、晴れてF-15パイロットとして新田原基地に配属されたのです。
基地では、訓練をしながら、領空侵犯を防ぐ任務など実任務に就きます。「夜は真っ暗で、味方の機体や周囲の地形が見えないこともあります。空間認識失調(自機の姿勢を把握できなくなること)は、誰にでも起こり得るので、早く気付くことが大切。緊張感や怖さは持つべきですが、そのために訓練を積んでいるので、怯えはないです」。
同じ自衛官で整備幹部を務めるご主人と結婚したのは、28歳のとき。「子どもを持ちたい意向は上司や先輩に伝えていました。難関の二機編隊長の資格を取り海外訓練にも参加したころ、先輩から『産後の復帰も視野に入れると、今がいいのでは?』と言ってもらえたので、30歳で第一子を出産しました」。
子どもが9カ月のときに職場に復帰。「私は早出と遅出、夜勤がありますが、夫は日勤と夜勤なので、予定を調整して保育園の送迎をしました。どうしても難しいときは義母の手を借りますが、夫婦で子育てさせてもらえる環境でした」。
そして、’24年には夫婦そろって難関の幹部学校に入校。「夫が東京周辺に異動する時期でした。私が一人で子育てするのは物理的に難しいので、私もなんとか東京に行きたくて。それには幹部学校しかないと、猛勉強しました」。
現在は同校を卒業し、防衛省で勤務。取材時は、第二子を妊娠中でした。「復帰後は、いつか飛行部隊に戻れるのがベストですが、固執はしていません。戻れば、部下も持つでしょうし、半端なことはできないので。でも、飛ばなくても隊員として力を尽くしたいと思っています。十数年前の女性の先輩方は、本当に苦労されたと聞きます。でも今は、女性なしでは社会が回らない。だから、すごく無理をするのではなく、男女にかかわらず普通の生活をしながら、普通に働き、普通に子育てができるようでありたい。私がそうすることで、後輩があとに続きやすくなるといいと思っています」。
【編集後記】進みたい道をまっすぐに 肩肘張らずに生きる姿が素敵
伊藤さんは、精鋭のパイロットでありながら、小柄でかわいらしく、しなやかな雰囲気が素敵でした。防衛省内に保育所があり、子育てしやすい環境で、女性が活躍する機会も格段に増えたとのこと。10年、20年前の先輩女性自衛官を取材したことがありましたが、その方々が切り開いた道があったからこその今なのだなと感慨深かったです。(ライター 秋元恵美)
撮影/吉澤健太 取材/秋元恵美 ※戦闘機が写った写真4点は航空自衛隊提供。 ※情報は2026年6月号掲載時のものです。
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