「お若いですね」は褒め言葉?“若い=美しい”と錯覚させる社会の危うさ【上野千鶴子のジェンダーレス連載22】
進みつつあるジェンダーレス社会について、私たち親は、娘や息子たちにうまく説明できるでしょうか? ジェンダー研究の第一人者に聞きます。
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「お若いですね」と高齢者を褒めることは、歳を重ねることを否定したことになる
STORY編集部ライター東理恵 上野さんの新刊『アンチ・アンチエイジングの思想 ボーヴォワール「老い」を読む』付箋をたくさん貼るほど、本当にタメになる面白い内容でした。まず、バーバラマクドナルドさんという白髪の小柄女性が話すスピーチの一文です。
「高齢女性に『あなたは他の女性とは違って楽しいし、根性があって生き生きとしてますね』ということが、その女性をほめていると思ってはいけません。もし、その女性がそれをほめ言葉として受けとめるとしたら、あなた方は高齢女性を拒否することに手を貸したことになります。高齢女性にむかって『お丈夫ですね。私たちより有能ですね』などと言ってはいけません。これはあなた方の思い上がりであるばかりか、その人が年より若く見えることにあなた方が感心していることを示します。それは、年を感じさせるようなことをすれば彼女をけなすようになるのです」と。
マクドナルドさんは、私たちはセクシズム(性差別)の被害でもあるけれど、エイジズム(年齢差別)の被害者でもある、と述べた、と書かれてありましたよね。マクドナルドさんは、「若い」ということはよいことか?と真っ向から対抗した発言をされたとか。
上野先生:いい話ですよね。その言い方は「君は他の女と違って感情的にならないし、頭もよく切れるよね」みたいなことと同じ「論理的でヒステリーにならないよね」ということと同じようなものなのです。
東:本の中で上野さんが書かれていたように、確かにわたしたちは「若い(年齢より若く見える)」ことが価値があるとする社会に住んでおり、だからこそ「お若いですね」が高齢者に対する「ほめ言葉」になって、高齢者も嬉しがってしまう。アンチエイジング産業なども、盛んです。そんな価値観が浸透した世の中だからこそ、それに対抗しなければならないという意味で、本のタイトルが『アンチ・アンチエイジング』なのですね。私もしっかり向き合ってみたくなりました。
上野先生:そう思っていただいてありがとう(笑)。今回は随分力が入っていますね。
亡くなる直前の血の繋がった親族の姿は、子どもたちにも見せておくことが大事
東:実は、父が少し認知症気味で、母親が苦労をしています。「ずっと 2人で一緒にいるのもしんどいわ 」などと話していて、「老いる」ということについて深く考えるようになりました。
上野先生:あなたもそろそろ介護現役ですか?
東:現役です。介護適齢期で介護している人は、周りに多いです。ちなみに夫の義母は施設に入っていて、義母は夫のことを分かるみたいなのですが、孫にあたる子どもたちと私のことを忘れていましたね。この本を読んで、いろいろ改めて考えさせられました。
上野先生:嫁は他人だから行かなくてもいいけど、孫には会いたいかもね。
東:ですが、孫は孫なりに複雑な心境みたいでしたよ。
上野先生:そうですね、自分のことわかってもらえなかったらそうかもね。会って、話してくれても他人に話しかけているような感じで、身近にいないからね。でもね、自分の血の繋がった親族が年取ったらこうなるんだという姿は子供にも見せといた方がいいよ。
東:本当にそうですよね。ここにも書かれていましたが、亡くなる直前にその姿を見せるということは大事ですね。避ける、ということではしないで、その姿は見せるべきだなと実感しました。
上野先生:おっしゃる通り、その通りです。
覚えておいて、「美しさ=若さ」ではないことを
東:上野先生のご意見を教えて下さい!今、SNS 全盛期の世の中、私の世代もそうですが、アンチエイジングの「美容医療」や「若返りサプリメント」などについて。先生自体、そういう大いに年齢に対して抗うことをどう思いますか?
上野先生:正直、やっても無駄だと思っています。私は今日スッピンです。ただ、眉がなくなるから眉だけは書いているけど。コロナの時期がきっかけで化粧はしなくなりましたね。すっかりスッピン生活です。化粧をつけては落として、と毎日やっていたら肌が荒れない?コロナの期間の肌が調子良いと思わなかった?マスクもしていたし。
東:毎日すぎて気づかないですが、きっとすっぴんで過ごしたら回復しそうです。確かにしていなかったコロナ時期は調子良かったかも 。ですが、不織布マスクのスレで荒れました。
上野先生:でも、インフル防いでくれるならそれぐらいならいいんじゃない?
東:そうかも知れません(笑)。話を戻しますが、最近の若い女の子も整形したり、美容医療と接する機会も増えてきました。それについて、上野さんはどう思われますか?
上野先生:「若さの価値」と「美しさの価値」がたまたま一致しているから、そうなっているのだと思います。でも、「 若さ」と「美しさ」 はイコール、ではないです。
また、若い子がプチ整形などをするのは、「美しさの規範」が一元化されているからでしょう。中学生の女子を持つお母さまが娘に「目を二重にしたい」といわれて悩んでいる、という話しを聞いたことがあります。進学祝いにプチ整形にしてくれ、などもいうとか。母親が「一重でも可愛いよ」といったら、「だって、テレビとか映画に出る女の人はみんな二重じゃない」と話すと。それは事実ですか?
東:よく聞きます。実際中学生や高校生の男女が、全身脱毛させてくれと親にお願いしていたり、全身脱毛したという子もいます。
上野先生:下の毛の脱毛、衛生上の理由などと聞きましたが、100%全く何の根拠もないのではないでしょうか。ですから、その「美しさの価値」というのは、「若さの価値」はまた違います。たまたま一致する場合もあるし、一致しないこともある。そして、私は「若さの価値」というものは、やはり、「生産性」と結びついてると思います。
東:「生産性」とは?
上野先生:役に立つ、できる、使える、ということです。つまり、高齢になるということは使い物にならない、ということになってしまうのです。先ほど東さんが「みんな老いるものだ」と言っていましたが、だからこそ、高齢者を差別すれば、いずれ自分に跳ね返ってくるのです。
東:なるほど……。「キレイでいたい」という純粋な気持ちの裏には、実は社会から「まだまだ現役でがんばれる?」と期待されるプレッシャーのようなものも、無意識に混ざっているのかもしれませんね。
上野先生:確かにそうですね。男性にとっても、若さの価値はやはり大きく、特にアメリカの場合は仕事と結び付けられます。例えば、若さの中にウェルシェイプトボディー、体系管理をしっかりすること。肥満体系の人は自己管理ができていない、自己管理ができない人に仕事ができるわけがないという考え方です。
東:自己管理。確かに、見かけと仕事がリンクさせられていますね。
上野先生:若く見えるという考えが含まれているからです。 女性だけでなく、男性にもそういう考え方を植え付けられています。また、男性の方が自分には生産性があるということに、大きな価値を置いている傾向もあります。
私は、「美しくありたい」、「若くありたい」というのは同じだと思わないのです。違う感情だと思います。美しくありたいのというなかで、可愛いものを身に付けたいや綺麗なものに取り囲まれていたいなど、それは別に自然な感情です。
東:確かにそうです。
上野先生:私自身はこう赤く髪を染めているし。
東:はい、可愛いです。先生は髪の色、赤が多いですよね。
上野先生:だから、そういった清潔感を保つ、綺麗なものを身につける、可愛いものに囲まれたいというのは、別にそれは人間が何歳になっても自然な感情だと思います
上野千鶴子
1948年富山県生まれ。社会学者。京都大学大学院修了、東京大学名誉教授。東大退職後、現在、認定NPOウィメンズアクションネットワーク(WAN)前理事長として活動中。2019年東大入学式での祝辞が大きな話題に。『おひとりさまの老後』や『在宅ひとり死のススメ』など著書多数。2023年に上野千鶴子基金を発足。
取材・文/東 理恵 構成/玉榮日菜子
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