【直木賞受賞】一穂ミチさんCLASSY.スペシャルインタビュー【ツミデミック】
The post 【直木賞受賞】一穂ミチさんCLASSY.スペシャルインタビュー【ツミデミック】 appeared first on CLASSY.[クラッシィ].
『ツミデミック』で第171回直木賞を受賞した一穂ミチさんに、CLASSY.がスペシャルインタビュー!最終回は一穂さんご自身のキャリアについてや、CLASSY.世代へ向けてのアドバイスなど、パーソナルに迫るお話を伺いました。
——一穂さんは、会社員として働きながら執筆をされています。お仕事のバランスはどのように取っていますか?
締め切りによってバランスは崩れるので、全然取れていないです(笑)。たまに、執筆に関して当面何もしなくていい時間があると、不安になります。平日は、深夜から朝にかけて会社員として働き、午前中に帰宅後、仮眠を取ってから原稿を書いています。土日は後ろめたさを抱えながら、寝床でとろけている日の方が多いです。起きていてもアイディアが思いつかないなら、割り切って寝た方がいいかな、と。あとは、思い切って生活圏内から離れた場所に出掛けたりしています。
——執筆を始めたきっかけは、どんなことでしたか?
同人誌を書いていたらスカウトされて、そのまま今に至ります。二次創作にハマりたての頃は、推しの魅力を自分なりに表現したいっていう衝動に駆られて、吐き出さずにはいられない感じでした。今はそういうやみくもな熱量とは違うスタンスで作品に向き合っています。自分で考えた男性キャラに萌えることはないのですが、好きな要素が出てしまうときはありますね。属性でいうと、口が悪い人だったり、年下よりは年上が好き。登場するキャラクターにそういう部分が透けていることもあると思います。
——会社員と小説家の両立で大変なこと、両立していてよかったと思うことを教えてください。
大変なことは、シンプルに時間と体調管理です。よかったと思うのは、自分の中に別の社会があること。会社に行ったら私が締め切りを破っていることを誰も気にしないし、逆に会社でゴタゴタしても、「いいや、帰って原稿書こう」みたいに切り替えられる。お互いがお互いの保険になっている感じです。今のところはこれからも会社員勤務は続けるつもりでいます。
——CLASSY.読者は20代半ば〜30代がメインで、キャリアに悩む人も少なくありません。一穂さんはキャリアに悩んだことはありますか?
ありますね。20代前半から5年くらいは契約社員でした。昇給なしで更新されるかどうか分からないこともあり、転職しましたが、募集要項にあった部署とは別のところに配属されたんです。聞いていた話と違うと思いながらも断る選択肢はなかったので、とにかく言われるがまま。3ヶ月くらいはしんどかったですが、結局今もその部署にいるので、なるようになるな、と。今の時代、自分に合う会社を見つけるまで転職するのもアリですが、自分を合わせて行く努力も多少なりとも必要なのではないかと思います。結果オーライだと捉えて、なんでもやってみることも大事。ただ、この世には健康を損なってまでやるべき仕事なんて何ひとつないので、そこだけは忘れないで欲しいです。
——会社員を続けながら、+αで自分の好きな仕事も叶えたいと考えているCLASSY.読者にアドバイスをお願いします。
自分の幅を広げるために無理しなきゃいけないタイミングっていうのはあるんですよね。私の場合は、『光のとこにいてね』を書いたときがそうでした。長編だし、私は詳細なプロットを立てられないので、執筆中はしんどかったのですが、書き終えたときの達成感は半端なかったです。きついけど乗り越えたらレベルップできるだろうっていう見通しのあるときは、無理をしてみてもいいと思います。ただそれを当たり前にしてしまうと、長続きしないし、壊れてしまうので、いつも最大出力をふかしてしまうのはダメ。頑張った結果として、都合よく使われる人にならないように、できないことのラインをキッパリ引くことも大事です。この人はただ私を便利に使っているだけなのか、ステップアップして欲しいと思ってのことなのか。仕事相手の人となりは見極めなきゃいけないと思います。あとは、ささやかでもいいから、自分が頑張ったときのご褒美を用意してあげるのも大切。大きく頑張ったら周りからも褒めてもらえるので、本当にささやかな方がいい。今日は5行書くことが目標だったけど、6行も書けたから、アイスを食べていいことにするとか。日々の小さい達成感を大事にしてください。
一穂ミチ(いちほ・みち)
2007年『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。『イエスかノーか半分か』などの人気シリーズを手がける。2021年『スモールワールズ』が大きな話題となり、同作は吉川英治文学新人賞を受賞、本屋大賞第3位。『光のとこにいてね』が直木賞候補、本屋大賞第3位。今もっとも新刊が待たれる著者の一人。
取材/坂本結香 構成/前田章子